抗うつ剤デスベンラファキシンの開発を再開/デスベンラファキシンとイフェクサーの比較
2010年に開発を中断していた抗うつ病治療薬“デスベンラファキシン(SNRI)の開発について、ファイザーと持田が共同開発を進めることを発表しました。国内開発はフェーズ3から再開される予定です。
デスベンラファキシンについて
デスベンラファキシンの薬理作用は選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用(SNRI)をもち、北米・オーストラリア・韓国において大うつ病を適応症として取得している製剤です(製品名:PRISTIQ)
デスベンラファキシンは、日本国内では2010年に開発が中止されていたが、2019年に開発を再開したという経緯がある薬のようなので、開発が中止となった理由、医薬品として承認されている海外での評価について調べてみました。
デスベンラファキシンとイフェクサーSRとの違い
デスベンラファキシンとは、国内で抗うつ剤として使用されている“イフェクサーSRカプセル”の活性代謝物(ODV)と同一成分です。
イフェクサーSRカプセルを飲んだ場合、腸から吸収されたイフェクサーSRカプセルは血液を経由して脳に運ばれて作用するわけですが、その際、イフェクサーSR(そのままのかたち)として抗うつ効果を示すと同時に、肝臓によって代謝を受けた産物(活性代謝物)デスベンラファキシンとしても抗うつ効果を示すことが確認されています。
イフェクサーSRとデスベンラファキシンの効き目については、5-HT(セロトニン)再取り込み阻害作用およびNA(ノルアドレナリン)再取り込み阻害作用において、同等の効果が確認されております。
(ドパミン再取り込み阻害作用に関してはイフェクサーSRの方が強い)
ここまでの文章だけを見ますと、イフェクサーSRがあればデスベンラファキシンを開発する意味はないように思えます。しかしイフェクサーSRをデスベンラファキシンへ代謝する肝臓の酵素(CYP2D6)には個人差があり、白人の10%はCYP2D6の働きが弱いことが知られています。CYP2D6の働きが弱い群ではイフェクサーSRをデスベンラファキシンへ代謝する速度が遅いため、イフェクサーSRとしての血中濃度が高い状態が続くと同時にデスベンラファキシンの濃度は低い状態で推移するという薬物動態を呈します。
これらのことから、イフェクサーSRカプセルの効き目はCYP2D6の働き度合いによってデスベンラファキシンとしての効果を主薬物動態とする群(CYP2D6の働きが良い群)と、イフェクサーSRとしての効果を主薬物動態とする群(CYP2D6の働きが弱い群)とに分かれてしまう(効き目が異なる)とも考えられます。
一方で、今回開発が再開されるデスベンラファキシンは肝臓での代謝を受けませんので、理論上は肝臓の酵素に依存せず、だれが飲んでも効き目が同程度に表れる薬のように推測されます。
(日本人でCYP2D6の働きが弱い群は1%未満とわれておりますので、デスベンラファキシンの有用性は諸外国に比べると低いのかもしれません)
デスベンラファキシンの開発が中止していた理由
デスベンラファキシンは米国・オーストラリア・韓国の3か国でしか使用されておらす、日本国内では2010年に開発が中止された経緯があります。その理由はプラセボと比較してデスベンラファキシン服用群で抗うつ効果の有意差がでていないためです。
イフェクサーSRの国内承認用量は37.5mg~225mgですが、同等の効果があると示唆されているデスベンラファキシンは海外臨床第2相試験・第3相試験では50mg~400mgという用量で試験が行われました。
しかし、実際にプラセボと比較して有意差をもって抗うつ作用が確認された用量はデスベンラファキシン50mgだけでした。デスベンラファキシン100mg/200mg/400mgを固定用量として服用したデータでは、プラセボと比較して有意差があるという報告もあれば、有意差が確認できなかったというデータもあり、解釈が難しい結果となりました。
さらにデスベンラファキシンの用量調節として100mg→200mgへの増量、200mg→400mgへ増量した群(フレキシブルドーズ群)に関しては、いずれもプラセボと比較して有意差が確認できませんでした。
一方で、副作用に関しては服用する量が多いほど、その副作用発生率が高くなる結果となっています。(吐き気32%、口渇20%、多汗症15%、めまい13%、便秘11%など)
おそらく上記の結果をうけて2010年の段階で開発を中止したのではないかなぁと私は個人的に推測します。
SSRI(パキシル・レクサプロ・ジェイゾロフト)の用量の上限が海外とくらべて少ない理由(セロトニントランスポーターの発現量について)
デスベンラファキシン(商品名:PRISTIQ)の添付文書の投与量
デスベンラファキシンを1日1回50mg用量で開始します。50mgは維持量(治療用量)でもあります。毎日だいたい同じ時間に服用しましょう。食事の影響は受けません。
臨床試験では1日10~400mgの用量が試験され50~400mgが有効であることが示されたものの、1日50mgを超える用量で服用した場合の改善効果に関しては示されておりません。高用量では副作用および服用中止の頻度が上がります。
添付文書に上記のような文言が記されておりましたので、高用量での服用データに関しては国内の第三相試験のデータを注視する必要があるかもしれません。