おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

口腔内崩壊錠(OD錠) 誤嚥性肺炎 錠剤剤形

OD錠を舌下錠として使用したらどうなるか

投稿日:2019年2月17日 更新日:

OD錠を舌下錠として使用したらどうなるか

 

薬学部・薬剤部・薬局では

 

「OD錠は舌下錠ではありません。OD錠は普通錠と同様、主に小腸から吸収されるように作られた薬剤です」

 

「OD錠を舌下投与してはいけません」

 

と教わります。

 

しかしですね、以下のような話を耳にしたことがあるものですから、OD錠を舌下したらどうなるのか?というところまで、しっかり薬の効き目を認識したほうがいいかもなぁと感じたので調べてみました。

 

カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)とカルシウム摂取について患者様へお伝えする

例1:老人ホームで口飲の中が薬だらけ

 

認知力が低いため、老人ホームに入居している方の一例なのですが、患者さんが食事を終えた後、介護士さんが1包化された薬(4種類)を患者さんの口の中に入れて、本人に「お水でのんでくださいね」と声かけをして、その場を離れて食器の片づけ作業をしていました。(患者さんは自分で移動することが困難なので、食卓テーブルに座ったまま)

 

10分後、薬を飲んだことを確認するため、介護士さんが患者さんへ声かけをしたところ、薬はまだ口の中に入っていた。(口の中に4種類の薬が入ったまま飲みこまずに10分間維持)

 

この一例で、1包化された薬にOD錠があった場合、OD錠が唾液で溶けて舌下として吸収されることは、薬剤の種類よっては十分に起こりえます。口の中がカピカピに乾燥していれば錠剤は溶けませんが、口腔内に唾液があれば錠剤が溶ける可能性はあります。

 

例2:嚥下機能が弱く、胃瘻が嫌な患者さん

 

・嚥下が非常に弱いため誤嚥してしまう

・胃瘻(いろう:胃に直接チューブをつなげて、食べ物や薬を入れる)を自己抜去(胃瘻チューブを自分で抜く)したことがあるため胃瘻をつくることができない

・血圧が高い

降圧剤Do処方が続く患者さんへの投薬と薬歴

上記の例では、点滴の降圧剤が投与されるケースがあります。しかし、点滴の降圧剤は内服剤とはことなり、その種類には限りがあります。(ラシックス・ペルジピン・ヘルベッサーなど)。ビソノテープ(β1遮断薬)という貼り薬の選択肢もありますが高血圧症への適応は“軽症~中等症”となっています。

 

内服薬ならばARBやACE、Ca拮抗薬など、さまざま選択肢があるのに・・・・

 

という患者背景をもとに“血圧の薬(OD錠)を舌下で使用したらどうなるだろう”という発想がでてくるかもしれません。

 

2002年に高血圧緊急症および切迫症に“アダラートカプセルの舌下投与禁忌“(アダラートカプセルの中の液体を舌下で使用することは禁忌)”というガイドラインができましたが、これは過度の降圧や反射性頻脈をきたすことが原因です。

OD錠と舌下錠の薬物動態

 

OD錠:小腸で吸収後、まず初めに薬の成分が肝臓を通過します(肝初回通過)。ここで肝臓によって“不要”と判断されれば、その薬は不活性化(効き目を失う)されます。

例:アダラート錠を飲みこむと肝臓の初回通過効果により30~40%が不活性化されます。同量のアダラートを舌下投与して全量が舌下から吸収された場合、内服と比較して効き目が1.4~1.67倍となります。

 

舌下錠:舌の下から吸収されます。肝初回通過をうけません。吸収後、薬剤は静脈血に入ります。具体的には、内頚静脈→鎖骨下静脈→腕頭静脈を経由して大静脈へ到達します。そのため舌下吸収量がそのまま血流を流れるため投与量に注意が必要です。

 

ここまでの背景、薬剤の吸収量を把握したうえで、OD錠をあえて計画的に舌下錠として使用したらどうなるだろうというのが今回のテーマです。

(製薬メーカーの添付文書にはOD錠を舌下投与した時の薬物動態はありませんので、あくまで適応外の使用です)

ARBの違いを代謝経路、インバースアゴニスト、尿酸低下作用、インスリン抵抗性改善作用などの複合要素から検討する

OD錠を舌下錠としてよい条件

 

・口腔内の唾液はpH5.5~7.0程度ですので、この条件で安定な製剤

 

・唾液にはアミラーゼ・カルボキシエステラーゼといった酵素が含まれますので、酵素に対して安定な製剤

 

・薬価収載されている舌下薬の分子量をみてみると分子量:600程度までは吸収されることがわかります。舌下から吸収可能な分子量の上限サイズはわかりません。

セララの降圧作用を患者様へお伝えする

高血圧緊急症患者さんにカプトプリル(ACE-I)を舌下投与した場合

被験者:高血圧緊急症の120人(受診時の平均血圧:213/130mmHg)

 

治療薬

ウラピジル(α1アドレナリン受容体遮断薬)12.5mg注射(i.v.)

カプトプリル12.5mg舌下投与(s.l.)

 

高血圧緊急症患者120人をウラピジル群(注射)60人とカプトプリル群(舌下)60人に振り分けて、降圧効果を確認したデータです。

結果

ウラピジル注射群(日本国内では未承認)

初回に12.5mgを投与したところ60人の平均血圧が

 

213/130mmHg → 179/110mmHgまで低下しました。

 

60人中9人は改善が確認されたため治療は終了となりました。残り51人は依然として血圧が高いため追加で12.5mgが投与されました(トータル25mg)追加投与により

 

179/110mmHg → 152/95mmHg

 

まで血圧の低下が確認されました。血圧は30分おきに測定されました。

高血圧緊急症におけるカプトプリル舌下錠の効果

カプトプリル12.5mg舌下群

初回に12.5mgを投与したところ60人の平均血圧が

 

213/130mmHg → 177/112mmHgまで低下しました。

 

60人全員、依然として血圧が高いため追加で12.5mgが投与されました(トータル25mg)追加投与により

 

177/112mmHg → 152/95mmHg

 

まで血圧の低下が確認されました。血圧は30分おきに測定されました。

 

データとしては、ウラピジル群における降圧作用が有意に高かったため、高血圧緊急症におけるウラピジル注射の有効性が確認されたものの、高齢者に関してはカプトプリル群で、より有効であったとまとめられています。

このデータから、カプトプリル錠の舌下投与に降圧作用があることが確認できます。このように、本来は内服する薬を“舌下で使用したら・・・“と考える場合、まずは

「舌下から吸収される製剤であるかどうか」

という部分から調べなければなりません。その次に、内服量と比較して、どれくらいの量を舌下したらいいのかな?という量の計算に入る感じでしょうか。

 

(ちなみに降圧剤ARBの舌下データはあるのかなぁと調べたのですが、見つけることができませんでした。ARBは効き目が早いわけではないので高血圧緊急症には不向きだったからかもしれません。)

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実際にOD錠を舌下で投与したら

 

カプトプリル錠は通常1日3回、1回12.5~25mgを服用(内服・飲む)薬です。さらにカプトプリル錠のバイオアベイラビリティは70~75%ですので、内服薬としてゴクンとカプトプリル錠を飲みこむと25~30%は不活性物質として効き目が失われ、70~75%のカプトプリルが体に吸収されて降圧効果を示します。

 

一方、舌下で投与されたカプトプリル錠は不活性化されることなく100%効果を発揮します。

 

そのため、上記報告における高血圧緊急症で使用された舌下カプトプリル錠の効き目を概算しますと

 

舌下投与のカプトプリル12.5mg = 内服投与のカプトプリル16.7~17.9mg相当

 

という計算となります。ただし、上記の計算式は

 

“舌下投与されたカプトプリルが全量、舌下として吸収された場合の理論値”

 

です。

 

実際に、OD錠を舌下した場合、口の中は唾液で満たされます。OD錠は30秒ほどで、唾液により溶かされるのですが、その後10分程度、舌下から薬の成分を吸収させるために、唾液を可能な限り飲みこまずに我慢するという無茶な要望を患者様に強いることになります。

 

試しに自分で、OD錠を舌下してみたところ、OD錠は30秒ほどで溶けました。その後、口の中の半分ほどが唾液で満たされました。錠剤の味が良ければ我慢できますが、苦ければ舌がしびれたり、麻痺したりするでしょう。味覚異常の副作用が生じるかもしれません。

 

舌下投与から10分後、口の中の唾液を飲みこんだのですが、私個人の感想としては

“おそらく、半分以上(8割くらい?)の薬の成分は飲みこんだんだろうなぁ”

という感じです。舌下投与から3時間ほどは、錠剤の味が口の中に残っていました。

 

嚥下能力が弱い患者さんであれば、10分後に口の中に溜まった唾液を、吸引器で吸い取ることになるかもしれません(歯医者さんで治療中に唾液を吸う吸引器など)。おそらく薬の成分の多くはこの唾液に含まれていることでしょう。結果的に、意図的に舌下投与で効き目を狙ったにもかかわらず、唾液を飲みこまずに吸引器で吸い取ってしまった場合は、薬の効き目は非常に弱くなってしまうケースが想定されます。

 

口の中の表面積は、小腸の表面積(柔毛)から比較すると非常に少なくないわけで、さらに舌の下部分の表面積となると、さらに狭い気がします。口の中の半分が唾液で満たされている状態で口を閉じると、唾液の数%程度しか舌下部分に触れていない気がするんですよね。

 

もし、内服薬を舌下で試してみたいと考えるのであればOD錠よりもザイディス錠やODフィルム(オブラートみたいなシート状の薬)くらい薄くて溶けやすい剤形でなければ難しい気がします。

まとめ

 

普通錠やOD錠を舌下投与する場合はバイオアベイラビリティや肝初回通過を計算して投与量を考える必要がある

 

OD錠を舌下投与すると唾液の量が多すぎて、舌下による吸収量はそれほど多くないかもしれない。10分後に唾液を飲むとすると、ほとんどが“内服“として考えてしまうかも

 

本当に内服薬を舌下として使用したいのであれば、ザイディス錠やODフィルムが候補となるかもしれないですが・・・ザイディス錠やODフィルムは量の調節が難しいという側面があるかもしれません

 

カプトプリル錠は舌下投与のデータを確認することができました

 

個人的な感想ですが、定期で服用しているOD錠について患者背景を踏まえて

 

“どうしても舌下投与にしたい”

 

という医師からの指示が出た場合、過去の使用実績、最善な剤形・吸収量を試算する感じになると思います。

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執筆者:ojiyaku


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