2019年8月29日の厚生労働省・薬食審医薬品第一部会にて武田薬品の抗うつ薬「トリンテリックス錠10mg/20mg」が薬価収載されました。
トリンテリックス錠は各種セロトニン受容体およびセロトニントランスポーターへ作用する抗うつ薬なのですが、明確な作用機序は解明されておりません。海外では欧米など83か国で使用されている医薬品です。今回は現状でわかる範囲ですがトリンテリックス錠の抗うつ作用について調べてみました。
トリンテリックス錠は1日1回飲む薬で、1回5~20mgの用量で海外では使用されております。トリンテリックス錠を服用後7~11時間ほどで最高血中濃度に到達します。半減期が66時間と報告されており、薬の効果が安定して持続するまでには(定常状態に達するには)11日~14日を有する医薬品です。食後服用・空腹服用による効果の違いはありません。
トリンテリックス錠は肝臓の酵素CYP2D6によって代謝をうけて不活性化されます。日本人の遺伝子多型を確認してみると1%未満の方でCYP2D6のPM(プア―メタボライザー:CYP2D6の発現量が少ない方)が報告されておりますので、CYP2D6の発現量が少ない方には投与量の調整が必要となります(効き目が強く表れるかの可能性があるためです)。
トリンテリックス錠は肝臓によって99%が不活性化されますので、腎障害のある患者さんでも用量調節が不要であることが示唆されています。
パキシルのようなCYP2D6阻害剤と併用する場合はトリンテリックス錠の服用量を半分い減らすことが推奨されております。
トリンテリックス錠は、セロトニントランスポーターに作用することでシナプス間隙にあるセロトニンの再取り込みを阻害してセロトニン量を維持する働きと、トリンテリックス錠自身がセロトニン受容体に直接作用してセロトニン用作用を示すという2つ薬理作用を有することが報告されています。
① :前シナプスにあるセロトニントランスポーター阻害作用
セロトニントランスポーターは前シナプスに存在し、プカプカ浮いているセロトニン(黄色)を前シナプスへ取り込む役割をしています。セロトニントランスポーターを阻害するとシナプス間隙に浮いているセロトニン(黄色)の数が増えるため、うつ症状が軽減します。
既存の治療薬としてはパキシル・ジェイゾロフト・レクサプロのようなSSRIといわれる分類の医薬品と同様の作用です。
② :トリンテリックス錠によるセロトニン受容体への作用
トリンテリックス錠(茶色)が直接セロトニン受容体(5HT1A、5HT1B)へ作用してセロトニン作用を伝達すると同時に、5HT3受容体を阻害することでうつ症状を軽減します。まるでトリンテリックス錠がセロトニンと同様の働きをするような作用機序です。
既存の治療薬ではリフレックスのセロトニン受容体への作用が比較的近い薬理作用を示します。(厳密にはリフレックスはノルアドレナリン・セロトニン作動薬と報告されておりますのでノルアドレナリンに対する作用に違いがあります)
ボルチオキセチンは関連する脳領域で高レベルのセロトニン輸送体占有率を達成し、脳脊髄液の神経伝達物質レベルに影響を与え、治療用量範囲にわたる脳の異常な静止状態ネットワークの修正。全体として、ボルチオキセチンは、これまでに研究されたほとんどの集団で、大きな用量調整なしで投与できます。しかし、患者ごとに用量調整を検討する必要があります。
一般的なセロトニントランスポーター阻害薬(SSRI:パキシル・ジェイゾロフト・レクサプロ)が脳内のセロトニントランスポーターを阻害して抗うつ効果を示すための占有率は80%以上が必要と考えられています。(それほどたくさん飲まないと効果がでない)。
トリンテリックス錠を服用した場合、脳内の縫線核(ほうせんかく)におけるセロトニントランスポーター占有率を確認したデータによると
トリンテリックス錠5mg:50%
トリンテリックス錠10mg:65%
トリンテリックス錠20mg:80%
というデータが開示されています。通常のSSRIと比較してトリンテリックス錠はセロトニントランスポーター占有率が低いにもかかわらず、うつ病に対する治療効果がしめされていることからSSRI作用に加えて、セロトニン受容体作動薬としての抗うつ効果がトータル作用として寄与していることが示されています。