アルコールと睡眠薬を一緒に飲んだ時の脳内のイメージ

アルコールと睡眠薬を一緒に飲んだ時の脳内のイメージ

 

「アルコールと睡眠薬を一緒に飲んでいるのですが、大丈夫ですか?」という質問を患者様から受けることが年に数回あります。睡眠薬の適正使用ガイドラインにはアルコールと睡眠薬の併用は原則禁忌とされており、あらゆる教科書にも「アルコールと睡眠薬は一緒にのんではいけません」と記されています。

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ただ、ルールブック通りには物事は進まないわけで、ダメといわれても「アルコールと睡眠薬」を時折に摂取している方も中にはいるのでしょう。さらに、併用している方の中には若干の不安や心配もあったりするのかもしれません。そこで今回はアルコールと睡眠薬を併用した時の脳内の各種ホルモンの動きについて、いくつかの報告を確認してみました。

1:アルコールが体から抜けるまでの時間について

コップ一杯のビールは肝臓で分解されるまでに2時間ほど時間を要します。アルコール20g相当(ビール500ml/日本酒1合/ウイスキーダブル/ワイン2杯)を分解するのに4時間ほどかかります。

 

アルコ―ルの分解には個人差がありますので、お酒の弱い方ではさらに時間が伸びるかと思われます。睡眠薬とアルコールを併用した場合、睡眠薬によって寝付くことができたとしても上記の時間は体内にアルコールがある状態となります。その間にアルコールが脳内でどのような動きをしているかを次に調べてみます。

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2:脳内におけるアルコールのはたらき

 

アルコ―ルを飲むと大脳のはたらきが緩和・減弱します。そのため「考える・判断する」といった知的な思考回路が低下します。一方で中脳の報酬系とよばれる領域でドパミンの放出を増強されることが報告されています。中脳の報酬系では感情・快情がコントロールされていますので、いわゆる感情表現が豊かになります。そのためアルコールを飲むと「考えすぎずに喜怒哀楽がしっかり表現される」といった言動が多くなる傾向にあります。

 

アルコールの効果を確認してみると中脳報酬系での働きのように興奮性の神経を増強するといった記述は限られており、抑制系(いわゆる眠くなる感じ)の神経を促進するといった報告が多く目につきます。例えば睡眠薬の作用点はGABAと呼ばれる受容体のうちのαとγの間あたりをターゲットとして作用し、眠りを促しますが、アルコールの作用部位はそれと非常に近い部分である“GABA受容体のγ2Lサブユニット”なのではないかと示唆されています(睡眠薬の作用部位とは部分的には近いですが、同じではありません)。イメージですがとしてはアルコールも睡眠薬もGABA受容体に作用して眠りを促しますが、厳密な作用部位には違いがあるため一緒に作用すると足し算のように眠りを増強する可能性が示唆されます。

眠るためのホルモンにメラトニンというホルモンがあります。メラトニンは夜暗くなると脳内で増えるホルモンで、このホルモンが脳内を満たすと脈拍や体温が低下して睡眠の準備を進めていくという働きがあります。アルコールがメラトニンに及ぼす影響を報告した例はそれほど多くないのですが、アルコール依存症患者ではメラトニンの上昇が遅れ、合成されるメラトニン量も少ないこと報告している研究チームがありました。メラトニンは中脳周辺の松果体で合成されるのですが、アルコール摂取により中脳周辺のドパミン量が増えると、眠るどころではないためメラトニンの合成が遅れるのかもなぁと個人的には思ったりします。

アルコール依存がメラトニンを遅延・低下させる例1

アルコール依存がメラトニンを遅延・低下させる例2

アルコールを摂取した時の脳内のメラトニン量については、下図のようなイメージでしょうか。(図はイメージです)

オレンジ色:正常のメラトニン分泌

深緑色:メラトニン量の低下

灰色:メラトニン分泌の遅延

 

3:ビール1缶と睡眠薬を一緒に飲むとどうなるかを想定する

 

ここまでの内容からすると、ガイドラインや教科書に書いてある通り、アルコールと睡眠薬は一緒に飲まないほうがいいのだろうなぁとは思います。しかし、「一緒に飲んだらどうなるの?」と患者さんから質問を受けた問いの回答を検討してみたいと思います。

 

アルコールを飲むと、大脳での「考えすぎ」が軽減されて気分がリラックスします。感情表現を豊かにすることができるため、もしかしたら不眠に対する不安感も軽減するかもしれません。さらにGABA受容体という寝るためのスイッチが少しずつON側にシフトしていくので寝付くためにはよい状態が作られます。この状態で睡眠薬を飲むとアルコールとは少し異なる部分のGABA受容体に作用して眠りを促すスイッチをONにしますので相乗効果で眠気を促すことが示唆されます。

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眠る前にビール1缶を飲んだのであれば少なくとも体内に3時間程度はアルコールがある状態で睡眠していることになります。この3時間は少なくとも睡眠に必要なメラトニン量に関しては、アルコールを飲まなかったときと比較して少ない量が分泌している可能性が示唆されます。また中脳周辺におけるドパミンの分泌量もUPしているのかもしれません。いわゆる「アルコールを飲むと眠りが浅くなる」という説明の理由はこのあたりかもしれません。

 

この結果として、アルコールを飲むことでメラトニン量が低下するのであれば、朝目が覚めた時に「眠りが浅い」と感じるでしょうし、メラトニン分泌が遅延したのであれば「眠たくて朝起きられない」となるでしょう。このあたりの自覚症状については、寝る前のアルコール摂取量や、アルコールに強いか弱いかといった個人差が大きく関係してくるともいます。

以上のことを踏まえて、患者様から「アルコールと睡眠薬を一緒に飲んでます」と言われた場合に患者様へ確認することは

 

・寝つき

・ぐっすり眠れているか

・寝起きはスッキリしているか

 

上記の3点を確認するかなぁと思います。アルコールの摂取量や代謝量は人によって様々ですので、そこまで重視しません。

「ぐっすり眠れない」「朝起きられない」といった訴えがあれば、「アルコールを飲むこと」または「量」について考える必要がある気がします。

 

睡眠状況に満足している場合であっても、就寝時のアルコールの脳内でのはたらきを伝えてみて患者様の反応を見るかもしれません。

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まとめ

 

・アルコールと睡眠薬は一緒に飲んではいけません

 

・アルコールをたくさん飲むと睡眠ホルモン“メラトニン”の低下・遅延が報告されています

 

・現状で「アルコールと睡眠薬」を一緒に飲んでいて若干の不安を感じている人に対して頭ごなしに「併用はダメです」と言うのも手ですが、まずは併用により脳内でどのようなことが起こっているかを伝えてみるのも手かもしれません。

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ojiyaku

2002年:富山医科薬科大学薬学部卒業