腎臓の遠位尿細管における薬の“再吸収”について
薬は腎臓や肝臓を経由して体外へ排泄されます。
薬学部の国家試験問題には、腎臓経由で薬が排泄される際の排泄量(腎クリアランス)を以下の計算式で求める問題があります
腎臓経由で排泄される薬の量(腎クリアランス)
=(血漿中遊離型分率×糸球体ろ過速度+分泌クリアランス}― 再吸収クリアランス
この問題を、自分のわかることばで置き換えてみました
血漿中遊離型分率
血液中にはたくさんのタンパク質があります。飲み薬や点滴で投与された薬が血液中を流れる場合、一定の割合で血液中のタンパク質にピタッとくっついて血液中を流れます。薬によって血中タンパク質にくっつく割合は異なります。血中タンパク質にくっつかずに血液中をながれる薬は腎臓の糸球体という部分でろ過される率があがります。
糸球体ろ過速度
腎臓の入口(糸球体)には、血液をろ過する(こしとる)装置があります。血液がこの部分を通過すると、血液は通常通り血管に戻りますが、血液中のタンパク質とくっついていない薬成分は尿が通るルート(尿細管)へ運ばれます。
分泌クリアランス
腎臓の前半部分(近位尿細管)には薬だけが通ることができる特別な扉があります。血液中にある薬(血中タンパク質とくっついていない薬)は、その扉を通って尿が通る(尿細管)ルートへ運ばれます。前述しました糸球体ろ過によって、こしとられた薬成分と尿細管分泌(分泌クリアランス)で扉を通ってきた薬は、ここで合流します。
特別な扉:P糖たんぱく・アニオントランスポーター・カチオントラスポーター・多剤耐性関連タンパクなど
再吸収
糸球体ろ過または尿細管分泌(分泌クリアランス)によって血液中から尿細管へ移動してきた薬には、もう一度、血液中に戻ることができるチャンスがあります。これが“再吸収“とよばれる工程です。
“再吸収“は尿細管の下流にある”遠位尿細管“とよばれる5mmほどの非常に短い管にて行われます。糸球体ろ過や尿細管分泌によって尿細管の上流をながれる原尿は尿細管を流れるにつれて、水やイオンが再吸収されて血液中に戻ります。その結果、遠位尿細管を流れる頃には、水分を失った尿中の薬の濃度は70~80倍程度まで濃縮されます。(1000mlの原尿が遠位尿細管にたどり着くころには10~15ml程度まで濃縮されます)。
この状態で5mmの長さの遠位尿細管を流れると、濃度勾配の差によって濃度の高い方(遠位尿細管を流れる高濃度成分)から、血管中(濃度の低い方)へ薬成分が移行します。これが再吸収というプロセスです。一般的には脂溶性が高い薬剤や尿中で分子型として存在する薬剤ほど、管を通過しやすいと考えられています。(尿中のpHに依存します)
ここまでが、既存で知られている“腎臓における薬の再吸収”についての私の解釈です。
医薬品の添付文書やインタビューフォームをくまなく見てみると、Na、Ca、Li、Mgといった金属イオン(陽イオン)に関しては“尿細管から再吸収されます”という記述を確認できます。実際に、遠位尿細管では能動的・電位依存的に陽イオン(カチオン)が再吸収されるチャネル(扉)が存在します。
一方、金属イオン(陽イオン)以外の医薬品に関しては、尿細管において“再吸収される”という記述はほとんど確認できません。
(尿細管からほとんど“再吸収されません”という記述は見かけます)。
一応、2019年2月時点で発売されている医薬品を一通り確認してみたところ、イーケプラとザイボックスに関してのみ“尿細管で再吸収される”という記述を確認しました。添付文書ではありませんが、リリカに関しても同様の記述を報告している研究チームがありました
イーケプラ
イーケプラの排泄には糸球体ろ過及び尿細管再吸収が関与している。
ザイボックス
リネゾリドの腎クリアランス(平均40mL/min)は糸球体ろ過速度よりも低く、尿細管における再吸収の可能性が示唆された。
リリカ
リリカの全身クリアランスは健常人(若者)で67~81ml/minであることから、ある程度の尿細管再吸収を受けると考えられる。
さて、ここからが遠位尿細管における薬の再吸収に関する本題です。
ザックリとした計算式としては
腎クリアランス(例えばザイボックスで言うと40ml/min)
=糸球体ろ過速度 ― 再吸収
という式で薬の再吸収を予想できそうです。糸球体ろ過速度を確認できれば“再吸収クリアランス”もわかるかなあと思って、ザイボックスやリリカに関する薬物固有の糸球体ろ過速度(GFR)を3日間ほど検索してみたのですが、まったく手掛かりすらつかめませんでした。
私の感覚で恐縮ですが、糸球体~遠位尿細管を経て排泄された薬剤は尿中から検出可能です。しかし、遠位尿細管という5mmの管の中でどれほどの薬が血中へ戻っていくかという具体的な数値を検査する方法が難しいのかもなぁ?言い換えますと糸球体を通過して近位尿細管を通過し、遠位尿細管に到達するまで段階の尿中薬物量を検出することは非常に困難なのかもしれないなぁという感じに解釈しました。
薬に詳しい研究者たちの報告や添付文書を見てみても「尿細管から再吸収されることが示唆される/予想される」といった感じで語尾をぼやかしていますので、確定ではなく想定という段階なのかもしれません。
非常に煮え切らない感覚はありますが、いったん保留といたしました。
薬剤によっては豚などの動物データとして“再吸収率”を掲載しているデータはあるようです。
ブタにおけるスルファ剤の再吸収
ジャディアンス錠(SGLT2阻害薬)による延命/腎症悪化防止に関する報告