おじさん薬剤師の日記

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胃腸炎を回避するためのウイルス性・細菌性胃腸炎を学ぶ(自分まとめ)

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胃腸炎を回避するためのウイルス性・細菌性胃腸炎を学ぶ(自分まとめ)

 

2025年5月に入り、コロナやインフルエンザに感染して病院を受診する方は激減しましたが、一方で、胃腸炎で受診される方がふえてきました。

 

胃腸炎を回避するためには、原因となるウイルスや細菌がどのような経緯で繁殖するか、何度で活発に活動するか、潜伏期間はどの程度なのかといった具合に、敵となる相手を知る必要があります。

 

ということで、胃腸炎を回避するため、自分まとめを作成しました。

ウイルス性胃腸炎

 

ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスが増殖する場所を確認してみます。

 

・牡蠣などの二枚貝:海水中のウイルスを濃縮して保菌している

 

・生の魚:汚染した海域で養殖された。調理器具・感染した人が調理した(手指感染)

 

・生野菜、生の肉:感染した人が調理した(手指感染)

 

 

ウイルスは基本的に生きた細胞でしか増殖しません。二枚貝を生で食べることが一つの感染経路となります。

 

それ以外ですと、ヒトの腸管にウイルスが感染して排便によりウイルスがバラまかれます。

 

複数の方が利用するトイレでは、感染が拡大するリスクがあり、手に付着したウイルスを介して、生野菜や生肉を調理すると、感染が拡大するおそれがあります。

 

あとは、ウイルス汚染した水を介して感染するケースもありますが、井戸水や川の水、雨水を直接摂取するケースはすくないかと思いますので、ウイルス感染の主因は感染者が利用したトイレ・嘔吐物を介した感染と考えます。

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細菌性胃腸炎

細菌性胃腸炎の原因となる細菌は、食べ物に付着して自らを増殖することが可能です。そのため先ほどご紹介したウイルスのように「生きている細胞」でなくても、細菌は増殖してしまうため厄介です。

 

さらに細菌の場合は、増殖した細菌自体を摂取して発症する細菌性胃腸炎に加えて、細菌が作り出した毒素を摂取することで発症する細菌性胃腸炎も起こるため、幅広く考えなければなりません。

 

細菌感染経路について

 

家畜の腸管内にはサルモネラ菌や腸管出血性大腸菌が生息しており、屠殺や加工の過程で、肉の表面に菌が付着するケースが想定されます。

 

また、調理者の手指や調理器具に菌が付着し、生肉や生野菜を介して細菌が拡大するケースが想定されます。(感染経路はウイルスと一緒)

 

ただし、細菌とウイルスの大きな違いとして、細菌は死滅した生肉の表面でも増殖しつづけるという性質があります。細菌は自らの力で増殖する能力がありますので、食べ物から影響を得て増殖を繰り返します。

 

食べ物が腐敗していくのはこれが理由の一つです。

 

あとは、細菌性胃腸炎の場合は、調理における熱処理の時間によっても細菌の増殖が区別されます。

 

胃腸炎の原因となる細菌の調理加熱に関する差異について

 

75度以上で1分以上しっかりと過熱することで死滅する細菌と死滅しない細菌があります。

 

死滅しない細菌は熱への耐性が高く「芽胞」という殻を形成して自らを守り、100度以上の熱処理にも耐えることができます。

 

2日目のカレーライスを食べて細菌性胃腸炎を発症するのがこの例で、煮込み料理を調理後に室温でゆっくりと冷却すると、芽胞を形成することで熱処理では死滅しなかったウェルシュ菌が増殖するケースがあります。

 

ウェルシュ菌による食中毒は大量調理や作り置きで発生するため、料理後の保存方法に注意が必要となります。調理後に放置するのではなく、急速冷蔵を行うことで調理後の細菌の繁殖を防ぐことが可能です。

 

調理後2時間程度でしたら、あまり問題にはなりませんが、4~8時間以上も30度程度の室温で調理後の料理を放置してしまうと、芽胞を形成により熱処理で死滅しなかった細菌が増殖してしまうので、要注意です。

 

尚、レトルト食品や缶詰食品は、加圧・加熱処理をされたあと、無菌充填によって密封されているため、2日目のカレーのようなウェルシュ菌の増殖が生じることはありません。

 

芽胞を形成して熱に強い細菌について、もう少し話をすすめますと、このような芽胞というバリアによって、熱処理でも死滅しなかった細菌は、調理後の鍋の中で30度程度の室温で放置された中、時間とともにゆっくりと増殖します(4時間以上で大量増殖していきます)。

 

この期間は細菌とっては増殖期間であり、毒素の排出量はそれほど多くありません。その後、人に摂取されて腸管に届いたウェルシュ菌などの細菌は、ヒトの腸管内での勢力を拡大することを考えます。そこで登場するのが「毒素」です。

 

ウェルシュ菌などの細菌は「毒素」を腸管内でばらまくことで、ヒトの細胞を破壊して、細胞の機能を低下させて、免疫システムをかく乱します。これにより細菌に対する防御機能を低下せて、生き残りを図ります。また、腸管細胞を傷つけることで、細菌は細胞から栄養を得して、増殖をつづけて、腸内にするんでいる既存の腸内細菌に対して有意性を図ります。

 

一方で、乳酸菌やビフィズス菌などの既存の腸内細菌は毒を排出することはなく、ウェルシュ菌などの細菌が排出した「毒素を分解、弱毒化」することで、悪玉菌の増殖を抑制する効果が期待されます。

 

ここまで細菌性胃腸炎を引き起こす細菌に関する情報をまとめますと、細菌は家畜の排泄分や感染した人の嘔吐物・排泄物に多く含まれています。卵の殻や調理者の手を介して、それらが生食の肉や野菜に付着し、感染することが想定されます。

 

ウイルスと違い、細菌は食品表面で増殖するという特徴があるだけでなく、煮込み料理などで加熱しても、過熱耐性があるために滅菌しきれないタイプの細菌がいるという特徴があります。

 

細菌が繁殖した食品を摂取することで、ヒトの腸内に細菌が入り込むわけですが、一部の細菌はそこで毒素を排出することで、自身の勢力を拡大します。

 

厄介な点として、腸内にとどいた細菌に対して有効な抗生剤は多数あるのに対して、毒素をやっつけるお薬は、現時点では存在しません。

 

さらに、O-157などに感染した場合は、抗生剤を使用することで、ベロ毒素の排出が促されて、症状が一時的に悪化するケースもあるため、一概に抗生剤を使用することが答えかどうかは難しい所かもしれません。

-感染症, 抗生剤
-ウイルス性腸炎, 整腸剤, 細菌性胃腸炎, 食中毒

執筆者:ojiyaku

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