慢性疼痛や帯状疱疹後疼痛で治療されている患者さんへ処方される薬に「ノイロトロピン」があります。鎮痛剤と言えばNSAIDSやオピオイド系といった疼痛緩和治療の柱となる薬に光があたりがちですが、今回は疼痛緩和治療のサポート的役割を担う「ノイロトロピン」の作用機序および患者さんへお伝えする内容について考えてみます。
体で感じた痛み刺激の興奮は脊髄から脳に到達して、その痛み部位や痛みの強さが認知されます。これらの痛み刺激を軽減させる目的で、我々の体には痛み刺激をやわらげる「下行性疼痛抑制神経」という神経が脳(視床下部・中脳)から脊髄にかけて分布しています。
下行性疼痛抑制神経にはセロトニン作動性神経とノルアドレナリン作動性神経の2つがあり、いずれも活性化することで疼痛緩和作用(鎮痛作用)を現わします。ノイロトロピンはこの2つの下行性疼痛抑制神経を活性化することで鎮痛作用をあらわすものと考えられています。
特にセロトニン作動性神経による下行性疼痛抑制作用については研究が進んでおり、脊髄への下行性セロトニン神経の主要な起始核である大縫線核において、ノイロトロピンがセロトニン神経に内向き電流を誘起して活動電位の発生頻度を顕著に増加させることが明らかになっています。
ノイロトロピンによるセロトニン下行性疼痛神経抑制系の賦活化と鎮痛作用
上記のようにノイロトロピンは消炎鎮痛作用やモルヒネなどの痛み止めとは異なる作用により、もとより体に備わっている疼痛抑制機構の一つである下行性疼痛抑制神経に対して直接活力を与えることで鎮痛効果を現わすことが示唆されています。
また、下行性疼痛抑制神経賦活化作用に加え、侵害刺激局所における発痛物質であるブラジキニンの遊離抑制作用や末梢循環改善作用等が考えられています。
(インタビューフォームには、ノイロトロピンの濃度依存的にブラジキニンの遊離減少データが記載されています。末梢循環改善作用に関しては、サーモグラフィーによる下肢の皮膚温度変化データが示されており、ノイロトロピン2錠服用により患部皮膚温度の改善が認められています)
昔、ヒトに感染していた天然痘ウイルスの類縁ウイルスで、牛に感染して牛痘を引き起こすワクシニアというウイルスをウサギに感染させます。それにより生じたウサギの皮膚炎部分を抽出してタンパク質を取り除き、鎮痛・抗アレルギー成分を有する生理活性物質を含有する製剤として作られています。
発疹・胃部不快感・吐き気:0.1~5%未満
ウサギの皮膚由来製剤ですので、起こりうる副作用に関しては、薬特有の副作用というよりも、食事で起こりうるアレルギー様の副作用に近いものと考えられます。初回服用時に薬疹や胃腸障害がなければ比較的安心して服用できる製剤であると考えられます。
腎臓・肝臓への影響
「安全性薬理試験において肝臓・腎臓・呼吸器・循環器・血液凝固系へ影響を及ぼすことはなく、問題となりうる一般薬理作用は認められなかった」
と記載されています。
ロキソニンなどの一般的な痛み止めに見られる胃腸障害や腎障害などといった副作用は、ノイロトロピンの薬理作用では生じえないということです。
帯状疱疹後神経痛に対する臨床試験では服用開始後2~4週間で効果判定をしています。
下行性疼痛抑制神経の1つであるセロトニン作動性神経の活動亢進による鎮痛効果試験をマウスに行ったデータでは投与4~6日後に鎮痛効果が発現しています
マウスに投与したデータでは、服用を中止すると休薬2日後までは鎮痛効果は持続したものの休薬3日後には薬の効き目は消失しているというデータがあります。
ヒトへのデータとしては、椎間板ヘルニア等により腰や足先の冷えが気になる方へノイロトロピン錠を2錠投与したところ、30~60分後には皮膚温の上昇がサーモグラフィー画像より確認されたという報告がインタビューフォームに記されています。
・ノイロトロピン錠は痛みを伝える神経を抑制する神経(下行性疼痛抑制作用)をパワーアップさせることで痛みを緩和するはたらきがあります
・ウサギ由来の炎症・抗アレルギー成分を抽出した製剤です
・ヒトに対するデータではありませんが、痛み止めとしての効果がでてくるまでには4~6日程度かかるというデータがあります
・ヒトへのデータとしてはノイロトロピン錠を2錠服用したところ、30~60分後に下肢や腰の冷え感を
緩和したという報告が示されています(サーモグラフィーの変化より)