フィブラストスプレー注射は厳禁!しわ改善の仕組みとしこりの危険性

フィブラストスプレー注射は厳禁!しわ改善の仕組みとしこりの危険性

美容医療への関心が高まる中、手軽に若々しい印象を取り戻せる「注入治療」は多くの注目を集めています。特に、自身の血液を利用するPRP皮膚再生療法や、成長因子を用いた治療は「自然に若返ることができる」として人気を博してきました。

しかしその一方で、本来は注射してはならない医薬品を皮膚の下に注入することによる深刻な健康被害が相次いでいます。その中心にあるのが、科研製薬株式会社が製造販売する褥瘡(床ずれ)・皮膚潰瘍治療剤「フィブラストスプレー」です。

製薬会社は2026年、医療関係者に向けて「適正使用に関するお願い」を改めて発出し、ニュースリリースを通じて一般にも広く注意喚起を行いました。本剤の容器や添付文書には明確に「禁注射」と記載されていますが、美容目的で皮下注射されるケースが後を絶たないためです。

この記事では、フィブラストスプレーがどのような薬剤であるのか、皮下注射されるとなぜしわが目立たなくなるのかという作用の仕組み、そしてなぜ絶対に注射してはならないのかという医学的リスクについて詳しく解説します。


フィブラストスプレーとはどのような医薬品なのか

まずは、フィブラストスプレーという薬剤の本来の目的や特徴について正しく確認しておきましょう。

本来の効能と使われ方

フィブラストスプレー(一般名:トラフェルミン[遺伝子組換え])は、皮膚の深い傷を治すために開発された医療用医薬品です。日本の保険診療において認められている効能・効果は以下の通りです。

  • 褥瘡(じょくそう:いわゆる床ずれ)

  • 皮膚潰瘍(熱傷による潰瘍、下腿潰瘍など)

寝たきりの状態などで血流が滞り皮膚が破れてしまった床ずれや、重いやけどによって皮膚が深く欠損してしまった部位に対し、新しい組織を作らせて傷口を塞ぐために用いられます。

外用薬としての設計

フィブラストスプレーの最大の特徴は、「外用薬(患部に直接スプレーする薬)」として開発・承認されている点です。専用の溶解液で粉末を溶かし、傷口の表面から約5センチメートル離して専用のノズルで吹きかけて使用します。

傷口の表面から適量が吸収され、局所の修復を促すことを前提として安全性や有効性が確認されているため、薬の容器や説明文書には赤字で大きく「禁注射」と明記されています。体内に直接針を刺して注入することは、開発段階から全く想定されていません。


フィブラストスプレーを注射するとなぜしわが取れるのか

本来は吹きかける外用薬であるフィブラストスプレーですが、一部の美容医療現場では、注射器を使って皮膚の下に直接注入されるという適応外使用が行われてきました。なぜ、傷薬であるこの薬剤を皮下に注入するとしわが取れるのでしょうか。そのメカニズムには、主成分である「bFGF」の強力な細胞増殖作用が深く関わっています。

主成分「bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)」の働き

フィブラストスプレーの主成分であるトラフェルミンは、遺伝子組換え技術によって作られた「bFGF(basic Fibroblast Growth Factor:塩基性線維芽細胞増殖因子)」というタンパク質です。

bFGFは、人間の体内にも本来存在している成長因子の一種であり、主に次のような働きを担っています。

  1. 線維芽細胞(せんいがさいぼう)を強力に増殖させる

    皮膚の真皮層にある線維芽細胞は、肌のハリや弾力を支えるコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸を産生する重要な細胞です。bFGFはこの線維芽細胞に直接働きかけ、その数を爆発的に増やします。

  2. 新しい血管を作る(血管新生)

    傷ついた組織に酸素や栄養を運ぶため、毛細血管を新しく張り巡らせる働きを持ちます。

  3. 脂肪細胞の分化・増殖を促す

    bFGFには、前駆細胞から脂肪細胞への分化を誘導し、皮下脂肪組織のボリュームを増やす作用があります。

しわや凹みが盛り上がるプロセス

加齢によって顔にしわやたるみ、くぼみが生じる主な原因は、真皮層のコラーゲンが減少して肌の弾力が失われることと、皮下脂肪が萎縮して顔の土台となるボリュームが減少することです。

フィブラストスプレーをシワの溝やくぼんだ部位(目の下、ほうれい線、ゴルゴラインなど)の皮下に直接注射すると、注入されたbFGFがその場所にある線維芽細胞を急速に増殖させます。増えた線維芽細胞が大量のコラーゲンを作り出し、さらに皮下脂肪細胞の増殖が促されるため、内側から組織が自前で作り出され、皮膚がふっくらと押し上げられます。

美容クリニックで重宝された背景

従来の代表的なしわ治療である「ヒアルロン酸注入」は、数か月から1〜2年ほどで徐々に体内に吸収されて元の状態に戻ってしまいます。

一方、フィブラストスプレーを注射すると、異物を詰めるのではなく「自分自身の生体組織(コラーゲンや脂肪)そのものを増生させる」ことになります。そのため、一部のクリニックでは以下のような謳い文句で宣伝され、広まってしまいました。

  • 「自分の細胞が増えるため、極めて自然な仕上がりになる」

  • 「吸収されてなくならず、効果が半永久的に持続する」

  • 「異物を入れないためアレルギーの心配が少ない」

さらに、患者自身の血液から抽出した血小板を高濃度に濃縮した「PRP(多血小板血漿)」にフィブラストスプレーを混ぜて注射する手法(PRP+bFGF混合注入療法)が、高い組織再生効果を謳って広範囲に行われるようになりました。

しかし、この「自分自身の組織を急速に増やし続ける」という仕組みそのものが、取り返しのつかない重篤なトラブルの引き金となったのです。


なぜ「禁注射」なのか?体内で起きる深刻な健康被害

フィブラストスプレーを皮下に注入することは、医療安全上、極めて危険な行為です。製薬会社が強い警告を発している背景には、増殖のブレーキが利かなくなることによる組織の異常増殖という現実があります。

1. 組織の増殖をコントロールできない

外用薬として傷口に吹きかける場合、薬剤は創面の浸出液とともに体外へ流出したり、皮膚のターンオーバーによって自然に排出されたりするため、作用が過剰になるリスクは限定的です。

しかし、注射針を用いて密閉された皮下組織へ直接注入した場合、高濃度のbFGFが長期間にわたってその場に留まり続けます。生体内における細胞増殖のシグナルは非常に緻密にコントロールされているものですが、人工的に高濃度の増殖因子を注入されると、細胞はその刺激を受け続け、過剰に増え続けてしまいます。

どの程度組織が増えるかは、患者本人の体質、細胞の受容体の感受性、年齢、血流などによって全く異なり、注入した医師であっても「どこで増殖が止まるか」を予測することは不可能です。

フィブラストスプレー

2. 「硬結(しこり)」と「過剰な皮膚隆起(膨隆)」

制御を失った組織増殖によって引き起こされるのが、注入部位の「硬結(こうけつ:硬いしこり)」「過剰な皮膚隆起(異常な盛り上がり)」です。

  • 線維化による硬結

    線維芽細胞が過剰に増え、異常な量のコラーゲン線維を産生し続けると、傷跡がケロイドのようになる「線維化」という現象が皮膚の下で起こります。これにより、触ると石のように硬いしこりが皮膚の直下に形成されます。

  • 脂肪増殖による皮膚の膨隆

    bFGFの脂肪誘導作用により、皮下脂肪層が際限なく分厚くなります。その結果、目の下が不自然に大きなコブのように出っ張ったり、ほうれい線の周囲が不自然に盛り上がってアンパンマンのように頬が膨らんでしまったりします。

顔の皮膚は薄く繊細であるため、皮膚の下にできた硬いしこりや異常な盛り上がりは、外見上の変形として顕著に現れてしまいます。

3. トラブルの約4割が「PRP+bFGF」という学会調査結果

日本美容外科学会(JSAPS)が会員医師を対象に行ったアンケート調査(日美外報, 42(1): 19-26, 2020)において、非常に衝撃的な事実が明らかになっています。

細胞加工物や増殖因子を用いた注入療法による「しこり」や「異常な膨隆」などの合併症・健康被害事例のうち、およそ4割が「PRPとbFGFの混合注入」によるものであったと報告されています。

血小板自体にも組織修復を促す成長因子が含まれているため、そこに強力な医薬品であるbFGF(フィブラストスプレー)を混合して注射することは、組織の異常増殖のリスクをさらに増大させる極めて危険な組み合わせであることが学術的にも証明されています。

4. 修正や治療が極めて困難である理由

ヒアルロン酸注入であれば、万が一形が気に入らなかったり入れすぎたりした場合でも、「ヒアルロニダーゼ」という分解酵素を注射すれば数時間から数日で完全に溶かして元の状態に戻すことができます。

しかし、フィブラストスプレーによって増殖した組織は「患者自身の線維組織と脂肪組織」そのものです。これを安全かつ手軽に溶かす薬剤は存在しません。

  • ステロイド注射の限界

    組織を萎縮させるためにステロイド剤を注入する処置が行われることがありますが、周りの正常な皮膚まで薄くなって凹んでしまったり、毛細血管が浮き出て赤ら顔になったりする副作用があります。

  • 手術による切除の難しさ

    外科手術でしこりを切り取ろうとしても、増殖した異常組織は周囲の正常な表情筋や神経、血管と複雑に癒着しています。無理に切除しようとすると、顔面神経を傷つけて顔が動かなくなったり、皮膚が引きつれて新たな変形を生じさせたりする極めて高いリスクが伴います。

一度できてしまったしこりや膨らみは、生涯にわたって元に戻せないケースが少なくありません。

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被害に遭わないために知っておくべきこと

美容医療を検討する際、自身の健康と容姿を守るためには、どのような治療が行われようとしているのかを把握することが欠かせません。トラブルを未然に防ぐために、以下の点に留意してください。

施術名に惑わされない

フィブラストスプレーを添加した注入治療は、クリニックによって様々な独自の名称が付けられています。

  • 「プレミアムPRP」

  • 「FGF注入療法」

  • 「肌再生注射」

  • 「成長因子添加PRP」

上記のような名称で提供されている施術の中には、PRP単独ではなくフィブラストスプレー(bFGF)を混合しているケースが多々見られます。カウンセリングを受ける際は、必ず「PRP以外に成長因子や医薬品を添加しているか」「フィブラストやbFGFが含まれているか」を医師に直接確認することが重要です。

「手軽」「安全」という言葉を鵜呑みにしない

「厚生労働省認可の安全な薬剤を使用しています」という説明がなされることがありますが、これは大きな誤解を生む表現です。フィブラストスプレーは確かに厚生労働省に承認された医薬品ですが、それはあくまで「床ずれや潰瘍に対する外用スプレー」として認可されているにすぎません。

皮下への注射については、国が認めた有効性も安全性も全く確立されておらず、製薬会社自身が危険性を強く訴えている「用途外の使用」であることを認識しておく必要があります。


まとめ

フィブラストスプレー(トラフェルミン)は、主成分であるbFGFの強力な細胞増殖作用により、真皮のコラーゲン産生や皮下脂肪の増殖を促すため、皮下に注射すれば一時的にしわやくぼみを押し上げる効果を発揮します。

しかし、注入された生体内では細胞の増殖速度や増殖量をコントロールすることができず、結果として皮膚の下に消えない硬いしこりができたり、過剰に組織が盛り上がって顔が変形したりする重大な健康被害を引き起こします。日本美容外科学会の調査でも、注入治療に伴うトラブルの約4割がこのbFGFの混合注入に起因していることが示されています。

製薬会社が容器に「禁注射」と大きく記している通り、この薬剤を注射器で体内に注入することは絶対にしてはならない行為です。また、一度生じてしまったしこりや変形は、ヒアルロン酸のように溶かすことができず、外科手術による修正も極めて困難を極めます。

ご自身の顔や体を守るためにも、美容目的の甘い宣伝文句に惑わされることなく、禁忌とされている危険な注射治療を絶対に選択しないよう注意を払ってください。

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