PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対するカルデナリンの効果について
カルデナリン錠などのα1受容体遮断薬は高血圧症の治療薬の4~5番手として使用されているイメージがあるのですが、ここ数年海外における報告によるとPTSD(心的外傷後ストレス障害)に対する効果が報告されております。今回はカルデナリン錠のPTSDに対する治療成績をまとめてみました。
PTSD:心的外傷後ストレス障害
命の安全がおびやかされるような状況(戦争・天災・自己・犯罪・虐待など)によって強い精神的衝撃をうけることが原因で生じるストレス障害
PTSD患者12名(男性4人、女性8人:平均年齢37.9歳)に1日1回カルデナリン4mgの服用を開始し、副作用がない場合は1日1回8mgまで増加して 12週間服用した時のデータの概要が公開されています。評価にはCAPSスコア(PTSDの指標です。値が大きいほどPTSDの症状が悪化している)を用いています。カルデナリン投与前の平均CAPSスコアが77±12であったのに対して、カルデナリンを4週間服用するとスコアが72±8、8週目で55±22、12週目には53±18と有意にCAPSスコアが減少していることが確認できます。(PTDSの症状がカルデナリンの服用により軽減されている)
また、他のデータでも、51人のPTSD患者(平均年齢35.7歳)がカルデナリンを服用した結果、12週以内に悪夢の有意な減少が報告され、25%が寛解状態となったという報告があります
PTSDに対してカルデナリン錠を使用するに至った経緯について
海外での報告ですが、α1受容体遮断薬「プラゾシン(商品名:ミニプレス)」が高血圧症や前立腺肥大症の治療に加えて、PTSDによる悪夢の治療に用いられ睡眠障害の改善に成功したという報告が過去にあがっていました。
プラゾシン錠(ミニプレス)によるPTSDに伴う悪夢の発生頻度減少
プラゾシン錠によってPTSDによる悪夢症状の減少が報告された一方で、プラゾシン錠の半減期(最大の効き目が半分になるまでの時間)は2時間と短いために、就寝前に服用したプラゾシン錠の効き目は明け方までには切れてしまうため、「明け方に見る悪夢」が報告されていました。
プラゾシンによるPTSDの悪夢を改善する効果は示されなかった(2018臨床データ)
また、2018年2月にPTSDを抱えた退役軍人を対象としてPTSDによる悪夢がプラゾシンの投与で改善するかどうかを検証するための多施設共同研究が実施されました(被験者304人、期間:26週)。その結果、「プラゾシンにはPTSDによる悪夢を改善する効果はない」という結論が示されました。日中のPTSD症状に関する報告はなされておりません。同研究ではプラゾシン服用群と、服用していない群で自殺念慮の新規発生頻が示されているのですが、プラゾシン群で8%、服用していない群で15%という値となっていますので、PTSDの日中症状に関してα1受容体拮抗薬に効果があるのかどうか、といった臨床報告がこんご研究されるのではと期待しています。