【令和8年度から】生活保護の医療扶助が改正!お薬手帳の原則持参と医薬品の適正使用を徹底解説

【令和8年度から】生活保護の医療扶助が改正!お薬手帳の原則持参と医薬品の適正使用を徹底解説

1. 生活保護に関する医療扶助の仕組み変更

生活保護を受けている方にとって、病気やケガの際に自己負担なく治療が受けられる「医療扶助」は、生活を守るための大切な柱です。しかし現在、この医療扶助をめぐって、いくつかの大きな課題が浮き彫りになっています。

その最大の課題が「高齢化」と「お薬の多剤投与(ポリファーマシー)」です。

現在、生活保護を受給している方のうち、65歳以上の方は5割を超え、75歳以上の方も3割を超えています。一般の方々と比べても、受給者の高齢化は非常に速いスピードで進んでいます。高齢になると、どうしても複数の持病(糖尿病、高血圧、関節痛など)を抱えやすくなります。

その結果、複数の病院に通い、それぞれの病院から多くの薬を処方されることで、本人が気づかないうちに「薬の種類が多すぎる」「同じ成分の薬を重複して飲んでいる」という状況が発生しやすくなっています。これは、単に薬代がかさむという経済的な問題だけでなく、薬の副作用による転倒や認知機能の低下など、健康を損なう大きなリスクをはらんでいます。

今回の改正は、こうしたリスクを未然に防ぎ、一人ひとりがより安全で適切な医療を受けられるようにすることを目的にしています。

生活保護受給者の服用状況確認

2. 令和8年4月からの最大の変更点:お薬手帳の持参が「原則」になります

今回の改正で、最も私たちの身近なルールとして変わるのが「お薬手帳」の扱いです。

お薬手帳は「1冊」にまとめ、必ず持参する

令和8年4月からは、生活保護を受給している方が病院(医療機関)を受診したり、薬局を利用したりする際、「お薬手帳の持参を原則とする」というルールが明文化されます。

これまでは「持っていれば便利」という位置づけでしたが、これからは「医療を受けるための基本的なルール」となります。しかも、複数の病院に通っている場合でも、お薬手帳は「1冊」に限定することが求められます。

生活保護受給者の服用状況確認

なぜ「1冊」で「必ず持参」なのか?

もし、お薬手帳を複数持っていたり、持っていかなかったりすると、医師や薬剤師は「患者さんが今、全部で何種類の薬を飲んでいるのか」を正確に把握することができません。

1冊にまとめることで、以下のことが可能になります。

– 重複投与の防止: A病院とB病院から、名前は違うけれど同じ成分の薬が出ていないかチェックできます。
– 飲み合わせのチェック: 飲み合わせが悪い薬(併用禁忌)が混ざっていないか確認し、副作用を防ぎます。
– 副作用の履歴確認: 以前に体に合わなかった薬の情報を共有し、再発を防ぎます。

急な体調不良でお薬手帳を持っていない外出先で受診する場合などを除き、基本的には「お薬手帳がなければ適切な医療が提供できない」という考え方に変わるのです。

3. デジタル化の波:電子処方箋とマイナンバーカードの活用

お薬手帳の持参と並行して進められるのが、医療現場のデジタル化です。

電子処方箋管理サービスの導入

政府は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進しており、生活保護の現場でもデジタルデータの活用が始まります。

「電子処方箋管理サービス」が普及すると、医師や薬剤師はコンピューター上でリアルタイムに患者さんの服薬状況を確認できるようになります。これによって、お薬手帳を忘れてしまった場合でも、システムを通じて「今の薬の状況」を確認できる環境が整っていきます。

マイナンバーカードの利用登録

生活保護受給者の方も、マイナンバーカードを健康保険証として利用(資格確認)できる仕組みが導入されています。マイナンバーカードを病院の受付で提示することで、過去の診療情報やお薬の情報を医師に共有することに同意すれば、より正確で安全な診療を受けることができるようになります。

福祉事務所からも、マイナンバーカードの利用登録を勧める指導が行われるようになります。これは、手続きの簡素化だけでなく、何よりも「安全な医療の提供」のためです。

4. 「多剤投与」と「重複投薬」への厳しい対策

今回の資料の中で、特に重点的に語られているのが、薬の飲みすぎや、重複した処方への対策です。福祉事務所が主体となって、以下のような取り組みが行われます。

福祉事務所によるデータの分析

福祉事務所では、「レセプト(診療報酬明細書)」というデータを活用して、受給者の方がどのような医療を受けているかを把握しています。今後は、このデータをより詳しく分析し、以下のような方を「重点的にサポートが必要な人」としてリストアップします。

1. 重複投薬者: 同じ月に、複数の医療機関から同じ成分の薬を処方されている人。
2. 多剤投与者: 1ヶ月の間に、非常に多くの種類(目安として15種類以上、または一定のリスクがある6種類以上)の薬を処方されている人。

リスクに応じた2段階のアプローチ

リストアップされた方に対しては、そのリスクの高さに応じて、福祉事務所から具体的な指導が入ります。

① 文書による注意喚起(一定のリスクがある人)

薬の種類が多い方などに対して、「薬の飲みすぎによる健康被害のリスクがありますよ」という手紙を送ったり、家庭訪問の際に説明したりします。まずは自分の薬の状況に気づいてもらうことが目的です。

② 重点的な対面指導(特にリスクが高い人)

15種類以上の薬を飲んでいる方や、同じ成分の薬を複数の病院でもらっている方に対しては、ケースワーカーなどが直接面談を行います。この際、単に「薬を減らせ」と言うのではなく、**「薬剤一覧(今飲んでいる薬のまとめリスト)」**を作成して渡してくれます。

受給者の方は、この「薬剤一覧」を持って、いつも行く薬局の薬剤師さんに相談するように指導されます。

2026年6月から「エンシュアHが自費」。処方する際は保険給付の理由を明確化すること
2026年6月から「エンシュアHが自費」。処方する際は保険給付の理由を明確化すること2026年6月から、医療保険制度に大...

5. 薬剤師が「健康のコンサルタント」になる

薬局での専門的なチェック

受給者の方が福祉事務所から渡された「薬剤一覧」を持って薬局に行くと、薬剤師さんはプロの視点で以下のような対応を行います。

– 服薬状況の確認: 本当に指示通りに飲めているか、飲み残し(残薬)がないかを確認します。
– 処方医への相談(疑義照会):
もし薬が多すぎたり、重複があったりした場合は、処方した先生に「この薬は減らせませんか?」「こちらの薬と重複していますよ」と連絡を取り、処方の調整を提案します。
– 飲み方の工夫: たくさん薬があって飲みきれない場合、1回分を1つの袋にまとめる「一包化」などを提案し、正しく飲めるようにサポートします。

「かかりつけ薬局」を決めることの重要性

複数の病院にかかっていても、薬をもらう場所を「1箇所の薬局」に固定すれば、その薬局の薬剤師さんがあなたの「薬の番人」になってくれます。今回の通知でも、利用する薬局を一箇所に固定するように指導することが盛り込まれています。

6. 「適切な受診」を促す取り組み

薬の問題だけでなく、病院への通い方(受診行動)についても、新しい仕組みが導入されます。

頻回受診(通いすぎ)への対策

同じ病気で1ヶ月に15日以上受診するなど、必要以上に病院に通ってしまうケース(頻回受診)があります。これまではレセプトを見てから数ヶ月後に指導が行われていましたが、今後は「オンライン資格確認」のログデータなどを活用し、より早い段階で福祉事務所が状況を把握し、本人に寄り添った指導ができるようになります。

通いすぎてしまう背景には、孤独感や精神的な不安が隠れていることも少なくありません。そのため、単に「病院に行くな」と言うのではなく、ボランティア活動や地域のコミュニティなど、病院以外の「居場所」を案内するような自立支援も組み合わせて行われることになります。

訪問看護の見直し

近年、訪問看護の利用が急増しています。適切なサービス提供が行われているかを確認するため、国はデータを分析し、不適切な請求や過剰なサービスが行われていないか、医療機関への個別指導を強化する方針です。

7. 「都道府県による市町村支援」の強化

これまでは、各市区町村の福祉事務所が個別に頑張ってきましたが、令和7年度からは「都道府県」がより積極的に関与することになります。

都道府県が広域的な視点でデータを分析し、効果的な指導のノウハウを市町村に共有することで、日本中どこに住んでいても同じレベルの質の高いサポートが受けられる体制を作ります。これは、受給者の方にとっても、より専門的な知見に基づいたアドバイスが受けられるというメリットがあります。

8. 準備すべきこと

令和8年4月に向けて、今からできることは何でしょうか。

1. お薬手帳を1冊にまとめる: もし複数の手帳を持っているなら、今のうちに1冊に統合しましょう。
2. マイナンバーカードの準備: 健康保険証としての利用登録を済ませておくと、将来的に手続きがスムーズになります。
3. 信頼できる「かかりつけ薬局」を見つける:
どこで薬をもらっても自由ですが、自分のことをよく知ってくれる薬剤師さんを見つけておくことは、大きな安心につながります。
4. 自分の体の変化に敏感になる:
「最近、薬を飲んでからふらつく」「昼間もずっと眠い」といった症状があれば、それは薬の飲みすぎのサインかもしれません。恥ずかしがらずに、ケースワーカーや薬剤師さんに相談してください。

9. まとめ

今回の医療扶助の全部改正は、決して「医療費を削るため」だけのものではありません。その根底にあるのは、「高齢化社会において、いかにして生活保護受給者の健康寿命を延ばし、安全な医療を提供するか」という強い想いです。

薬は毒にも薬にもなります。適切な種類、適切な量を正しく飲むことで、初めてその効果が発揮されます。反対に、多すぎる薬は体に重い負担をかけ、自立した生活を妨げる原因にもなりかねません。

令和8年4月からの新しいルールを正しく理解し、お薬手帳をしっかりと活用することで、医師や薬剤師、そして福祉事務所のケースワーカーと一体となって、あなたの健康を守っていく。それが今回の制度改正の真の姿です。

医療は進化し、制度もそれにあわせて変わっていきます。デジタル化や新しいルールの導入に最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、それらはすべて「あなたの安全」を第一に考えた結果なのです。

 

タイトルとURLをコピーしました