水分不足は腸内環境を悪化させ、感染症にかかりやすくする: 北里大などマウスで解明
北里大学薬学部の研究チームは、マウスによる実験で水分不足が腸内環境を悪化させて、感染症のリスクが上昇する可能性に、米科学雑誌「アイサイエンス」電子版に掲載しました。以下に概要をしるします。
水分不足は腸内環境を悪化させ、感染症にかかりやすくする: 北里大などマウスで解明
概要
- 水分摂取を制限したマウスは、腸内細菌のバランスが崩れ、病原菌の排出にも時間がかかることが、北里大学などの研究グループによってマウス実験で明らかにされた。
- 水分量が通常の半分に減らすと、腸の免疫に著しい乱れが生じ、感染症にかかりやすくなることが確認できた。
- 今後はヒトでも同様の結果が生じるかどうかを調べる。
主なポイント
- 水分摂取量が少ないと、便秘になるだけでなく、腸内細菌のバランスが崩れ、病原菌の排出にも時間がかかるようになる。
- 水分不足は腸の免疫機能を低下させ、感染症にかかりやすくする。
- 水分は食物繊維や乳酸菌と同じくらい腸にとって重要である。
- 水分不足を自覚しにくい高齢者や乳幼児は、普段から意識的に多めの水分をとった方が良い。
詳細
- マウス実験では、水分摂取量を通常の25%または50%制限した。
- 制限群のマウスは、便秘になるだけでなく、腸内細菌の総数が増加し、免疫機能が低下した。
- 特に50%制限群では、免疫のバリア機能が失われていた。
- マウス特有の腸管病原性大腸菌を感染させたところ、通常群より制限群のほうが菌の排出に時間がかかった。
- その理由は、病原細菌を排除したり、腸内環境を整えたりするための「Th17」という細胞が制限群では有意に減少していたためだった。
- 水分不足がTh17に与える影響を詳しく調べたところ、アクアポリン3というタンパク質がなくなるとTh17も併せて減少することが分かった。
- アクアポリン3は、細胞表面にある水分を取り込むためのタンパク質である。
- これらの結果から、水分が不足すると腸内環境が悪化し、免疫の機能がうまく働かなくなり、感染症にかかりやすくなったり、感染した場合に菌の排出に時間がかかったりすることが分かった。
今後の展望
- 今後はヒトでも同様の結果が生じるかどうかを調べる。
- 特に、水分不足を自覚しにくい高齢者や乳幼児の研究を進める。
真夏日に清涼飲料水を飲んでも、脱水対策にはならない&急性腎障害のリスクが増えるかも
室温31.5度の環境下で4時間運動を行い、その間に給水として水2Lまたはマウンテンデュー2Lを飲んだ場合の体調変化に関する報告がありました。テーマとしては非常に攻めたテーマだなぁと私は感じたのですが、興味深かったので読んでみました。
マウンテンデューを1日3L飲む調査の詳細
被験者:健康成人12人
調査内容
31.5度の室温において、時速4.8kmの速さで30分間歩行を行い(トレッドミル)、続いてダンベル運動などの筋肉トレーニングを15分間行います(トータル45分間の運動です)。その後、15分間休憩を取ります。休憩中に冷たい水500ml、又は冷たいマウンテンデュー500mlを飲みます。このサイクルを4回行います(運動45分間×4、休憩15分間×4、トータル4時間)。
上記の運動については、炎天下における屋外での力作業が想定されており、半日(4時間)労働した場合の給水として水2Lまたはマウンテンデュー2Lを飲んだ場合の体調変化を確認する狙いを指標として設定されております。
被験者は休憩中に体温・心拍数・血圧測定を行います。最後の休憩中には体温・心拍数・血圧・採血・尿検査も行われました。
被験者は帰宅後も、割り当てられた飲料を1L飲むようなスケジュールとなっていました。(水を飲む群は帰宅後に1Lの水をのみ、マウンテンデュー群は帰宅後に1Lのマウンテンデューを飲みます)
調査期間中に排泄された尿は全量回収されています。
さて、ここまでの調査内容を読んで、なぜ“マウンテンデュー”なのかという疑問が湧いたので、先にその理由を調べたところ、マウンテンデューには“塩分が含まれていないこと”、“リンの含有量が少ないこと”という2点がポイントとなっていることがわかりました。
ソリタT配合顆粒3号とスポーツドリンクの吸収率の違いについて
ソフトドリンクの代表”マウンテンデュー”
マウンテンデューの成分
果糖ブドウ糖液糖
炭酸
酸味料
香料
カフェイン
保存料(安息香酸Na)
カロチン色素
清涼飲料水中には幾分かのリンが含まれております。“リン”は炎天下での労働において腎機能を悪化させる可能性が示唆されているという報告が過去になされていたため、清涼飲料水の代表格”コーラ”よりもリン含有量が低い“マウンテンデュー”が清涼飲料水の代表として選ばれました。
(果糖を含み、塩分を含まず、リンの含有量が低い飲み物であれば何でもいいのだと思います。)
尚、マウンテンデューに含まれるカフェインについては、炎天下での作業における適度なカフェイン摂取が体液調節に与える影響が非常に小さいことと、安静時に摂取するカフェインと比較して、運動中に摂取するカフェインの利尿効果は無視される(影響は考えなくてよい)という報告があることから、筆者らはカフェインの影響は考えておりません。
調査の結果(検査内容に変化があったもの)
水を飲んだ群と比較してマウンテンデューを飲んだ群ではeGFR(腎機能の指標)が低下することがわかりました(一過性です)。さらにマウンテンデュー群は血清クレアチニン値の上昇・夜間の尿流量の減少・軽度の脱水も確認されました。
マウンテンデューなどの清涼飲料水には“甘み”として果糖が含まれています。ヒトにおける研究によると、果糖を摂取すると浸透圧とは無関係にバソプレシン(抗利尿ホルモン)を刺激することが報告されています。抗利尿ホルモンが活性化されますので、尿量が減少します。さらに果糖は腎皮質・髄質におけるATPを減少させて血清尿酸値を上昇させたという報告はあります。
筆者らは炎天下の中で清涼飲料水を飲むと、水を飲んだときと比較して、バソプレシン(抗利尿ホルモン)および血清尿酸値が上昇するため腎機能が一時的に低下する可能性・脱水症状となる可能性があると示唆しています。
また、炎天下での作業中に清涼飲料水を飲んでも水分補給にはならない可能性がある(脱水となる可能性がある)と注意喚起を促しています。ここで記されている脱水とは、通常の熱中症(水分欠乏型脱水)の可能性に加えて、Na欠乏型脱水の可能性もあるかもしれないなぁと私は感じました。
マウンテンデューなどの清涼飲料水には塩分が含まれておりません。塩分を含まずに、果糖を多く含む清涼飲料水を1日3L飲んだ場合、筆者らの見解では、抗利尿ホルモンが活性化するため、尿量の減少が起こります。体に蓄えられている液量が減りません(尿として排泄されません)。この時の体内の水の量について考えますと、血管の中を流れる血液には一定量の塩分が必要なのですが、3Lの清涼飲料水を飲んだのに対して塩分が少ないため、血液の量(厳密には血液を含む細胞外液の量)が減ります。一方で多くの塩分を必要としない細胞内液は、しっかり満たされます。この差を“軽度の脱水”と表現していのかもしれません。
この報告を読んで個人的に感じたことですが、清涼飲料水(コーラ・ファンタ・マウンテンデューなど)を1日3L飲むという異次元な前提で話が進めながら、果糖飲料によって“軽度の脱水が起こりうる”という結論を見出した点に筆者らの熱意のようなものを感じました。