アトモキセチン錠のニトロソアミン管理と安全性について詳しく解説

アトモキセチン錠のニトロソアミン管理と安全性について詳しく解説

注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療薬として広く処方されているアトモキセチン。日々の学業や仕事、生活を落ち着いて送るために、欠かせないパートナーとして服用を続けている方も多い医薬品です。

2026年9月、ジェネリック医薬品メーカーである第一三共エスファ株式会社より、同社が製造販売する『アトモキセチン錠 5mg/10mg/25mg/40mg「DSEP」』に関して、「ニトロソアミン化合物の管理について」という文書が医療関係者向けに発表されました。

処方箋や薬局のお薬手帳などでこの製品名を見かけたり、ニュースや医療現場でこの話題を耳にしたりして、「発がん性がある物質が入っているのではないか」「このまま飲み続けても本当に大丈夫なのだろうか」と不安を抱いた方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、公表された公式文書の内容をもとに、今回検出された物質の性質、設定された基準値の意味、そして現在このお薬を服用している方がどのように受け止め、行動すべきかについて順を追って解説します。以下に第一三共エスファが公表したPDFファイルを添付します。

ニトロソアミンの管理について


今回公表された発表の概要

まずは、発表された文書の重要ポイントを整理します。

  1. 対象となる製品

    第一三共エスファ株式会社が販売している以下の製品です。

    • アトモキセチン錠 5mg「DSEP」

    • アトモキセチン錠 10mg「DSEP」

    • アトモキセチン錠 25mg「DSEP」

    • アトモキセチン錠 40mg「DSEP」

  2. 確認された事象

    製品中に微量の不純物として「N-ニトロソアトモキセチン(N-nitroso-atomoxetine)」というニトロソアミン化合物が存在することが確認されました。

  3. 当面の対応(出荷方針)

    厚生労働省との協議に基づき、海外当局のガイドラインに準拠して設定した「暫定管理値(5.583ppm)」で管理し、この基準値以下であることが確認された製品のみを出荷しています。

  4. 今後の抜本的な対策

    混入するニトロソアミン化合物の含有量をさらに低減させるため、新しい製剤の開発が進められています。恒久的な許容限度値である「0.83ppm以下」を達成・維持できることを確認するための安定性試験が並行して実施されています。

  5. 患者さんへの重要な注意喚起

    厚生労働省は、患者さんが自己判断だけで薬の服用を中止しないよう、医療機関から説明を行うことを求めています。


そもそも「ニトロソアミン類」とは何か?

今回の発表で最も気になる点は、「ニトロソアミン」という化合物の危険性についてではないでしょうか。

ニトロソアミン類の性質と発がん性の懸念

ニトロソアミン類とは、化学構造の中に「アミン類」と「亜硝酸塩」が結びつくことで生成される物質の総称です。この化合物は、生体内のDNAと反応して遺伝子を傷つける性質があり、長期的に摂取し続けることで発がんのリスクを高める可能性が指摘されています。

国際的な医薬品規制において、ニトロソアミン類は厳しく監視される対象となっており、極力医薬品に含まれないよう、また含まれる場合でも健康被害が生じない極めて微小なレベルに抑えるよう求められています。

日常生活の中にも存在する物質

「発がん性物質」と聞くと恐怖を感じてしまいますが、実はニトロソアミン類は医薬品特有の人工物質というわけではありません。私たちの身の回りの食品(加工肉、魚の燻製、漬物、ビールなど)や、飲料水、土壌、タバコの煙などの中にも微量に存在しています。

そのため、微量に触れたからといって直ちに身体へ害を及ぼしたり、すぐにがんを発症したりするものではありません。問題となるのは、「一定以上の量を、長期間にわたって体内に取り込み続けること」です。

医薬品業界全体で進む自主点検の流れ

2018年以降、世界各国で降圧薬や胃腸薬などの一部の医薬品からニトロソアミン類が検出されたことを契機に、国際的な規制当局(アメリカのFDAや欧州のEMAなど)が厳格な点検を求め始めました。

日本国内でも、2021年10月に厚生労働省から「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」という通達が出され、すべての製薬会社に対して製品の総点検が指示されました。今回の第一三共エスファの発表も、こうした厳格な自主点検と品質管理のプロセスの中で確認された結果によるものです。


発表された数値の意味をひもとく

文書中には「100ng/日」「5.583ppm」「0.83ppm」といった専門的な数値が記載されています。これらが何を意味しているのかを理解することで、現在置かれている状況をより客観的に把握することができます。

1日許容摂取量「100ng/日」の考え方

N-ニトロソアトモキセチンの1日許容摂取量として設定されている「100ng(ナノグラム)/日」という基準値は、非常に厳しい前提のもとで算出されています。

  • 1ナノグラムとは: 1ミリグラムの100万分の1、1グラムの10億分の1という極小の単位です。

  • 設定の前提条件: 「人が生涯(70年間)、毎日この量を摂取し続けた場合」を想定して計算されています。

国際的な基準では、「10万人が70年間毎日摂取し続けたときに、がんを発症する人が1人増えるか増えないか」という極めて安全側に倒した理論上の数値をベースに許容摂取量が定められています。

暫定管理値(5.583ppm)が設定された背景

文書には、海外当局のガイドラインに基づき「暫定管理値(5.583ppm)」を設定し、これ以下の製品のみを出荷すると記載されています。

「なぜ最終的な許容限度値(0.83ppm)よりも高い暫定値が設定されるのか?」と疑問に思うかもしれません。これには、医療現場における現実的なバランスが関係しています。

もし基準を瞬時に最も厳しい水準まで引き下げ、市場への供給を即座にストップしてしまうと、国内でアトモキセチンを必要としている大勢の患者さんに薬が届かなくなってしまいます。ADHD治療薬の供給が途絶えることは、服薬を続けている患者さんの日常生活や学業、仕事、社会生活に極めて深刻な悪影響を及ぼします。

そのため、海外の規制当局でも「短期間・限定的な期間の摂取であれば、暫定管理値の範囲内であっても患者の生涯発がんリスクが著しく高まることはない」という科学的知見に基づき、治療の継続性を確保するための暫定的な基準(移行期間の管理値)を認める運用が定着しています。

厚生労働省と協議のうえで設定されたこの暫定管理値(5.583ppm)は、薬の供給を守りつつ、患者さんの安全を担保するための現実的な判断といえます。

許容限度値(0.83ppm)に向けた改良

第一三共エスファでは、暫定値にとどまることなく、より厳しい「許容限度値(0.83ppm以下)」を達成するための製剤開発をすでに進めています。薬を安定して長期間保管してもニトロソアミンの生成が増えないことを確認する「安定性試験」が並行して進められており、より安全性の高い製品への切り替えが進められています。

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「生涯発がんリスクが著しく高まる可能性は低い」とされる理由

第一三共エスファの発表文には、「患者さんの生涯発がんリスクが著しく高まる可能性は低いと判断しております」と明記されています。この判断を支える主な根拠は以下の2点です。

1. 「70年間の連続服用」を前提とした基準であること

前述のとおり、許容摂取量の基準は「生涯(70年間)にわたり、毎日休まず飲み続けること」を想定しています。

しかし、ADHDの治療において、同一の製剤を70年間毎日飲み続けるケースは一般的ではありません。成長過程での症状の変化、生活環境の変化、成人期に向けた服薬調整、あるいは他のお薬への変更などがあり、生涯を通じて切れ目なく同一製品を摂取し続けることは稀です。

服薬期間が生涯(70年間)よりも短い期間であれば、そのぶん体内に取り込まれる化合物の総量は少なくなるため、暫定管理値レベルの微小な混入があったとしても、理論上のリスクが著しく増大する可能性は極めて低いと考えられています。

2. 服用を急に中止することによる「確実な不利益」との比較

医療においてリスクを評価する際は、「微小で理論上のリスク」と「薬をやめることで生じる現実の不利益」を比較検討する必要があります。

アトモキセチンを突然中止してしまうと、以下のような明確な悪影響が生じるおそれがあります。

  • 注意力や集中力の急激な低下

  • 衝動性の亢進による対人トラブルや事故の危険

  • 多動・不穏による強い疲労感や日常生活の破綻

  • 学業不振や職場でのトラブル、二次的な抑うつ・不安の発生

これらの生活上の困難は、服用を中断した直後から確実に患者さん本人に降りかかります。一方、ニトロソアミンによる発がんリスクは「70年間飲み続けた場合に極めて稀に生じるかもしれない」という不確実なものです。

リスクとベネフィット(治療の恩恵)を冷静に天秤にかけた場合、自己判断で服用を中断するデメリットのほうが圧倒的に大きいため、厚生労働省も「自己の判断のみで服用を中止しないように」と強く求めているのです。

アトモキセチン


服用中の方へのアドバイスと対応方針

現在、第一三共エスファのアトモキセチン錠を服用中の方、あるいはご家族が服用されている方は、以下の点に留意して対応することをおすすめします。

1. 決して自己判断で服薬をやめない

最も大切な原則は、ご自身の判断だけで急に薬を飲むのをやめたり、勝手に飲む量を減らしたりしないことです。

症状が急激に悪化して生活に大きな支障をきたすだけでなく、お薬の種類によっては急激な中断による離脱症状や心身の不調を招く恐れがあります。

2. 不安がある場合は主治医やかかりつけ薬剤師に相談する

どうしても不安が残る場合や、薬の変更を希望する場合は、次回の診察時や調剤薬局で遠慮なく相談してください。

医療現場では、以下のような選択肢について相談に乗ってもらえます。

  • 現在の症状と服薬継続の必要性の再確認

  • 先発医薬品(ストラテラなど)への変更が可能かどうかの検討

  • 他のジェネリックメーカーの製品への切り替えの可否

  • 剤形(カプセル剤、内用液など)の変更の検討

地域の薬局の在庫状況や患者さんの体質に合わせて、医師や薬剤師が適切な対応を一緒に考えてくれます。

3. 公式の問い合わせ窓口を活用する

製品のより詳細な情報や最新の供給状況について確認したい場合は、第一三共エスファの公式問い合わせ窓口を利用することも可能です。

  • 第一三共エスファ株式会社 お客様相談室

    • フリーダイヤル:0120-100-601


よくある疑問への回答

Q1. いま手元にある薬をそのまま飲み切っても大丈夫ですか?

A1. はい、現在手元にあるお薬も、暫定管理値の範囲内で適切に管理・出荷されたものです。短期間の服用によって健康被害が生じる可能性は極めて低いため、医師の指示どおりに服用を続けて問題ありません。

Q2. なぜこれまで見つからず、今になって分かったのですか?

A2. 製造工程で意図的に入れたものではなく、有効成分や添加物が微細な化学変化を起こして生成される不純物であるためです。近年、分析技術が飛躍的に進歩し、10億分の1(ナノレベル)という超微量の物質まで検出できるようになったこと、そして国際的な安全点検の強化に伴って詳細な測定が行われるようになった結果として確認されました。

Q3. 先発品(ストラテラ)や他社のアトモキセチン製品も同じですか?

A3. 今回の公表は第一三共エスファの「アトモキセチン錠「DSEP」」に関するものです。ただし、アトモキセチンという成分自体の化学構造に由来してニトロソアミンが生成される可能性があるため、国内外の他社製品についても同様の検証が進められています。ご自身のお薬がどのメーカーのものか気になる場合は、お薬手帳や薬剤情報提供文書を確認し、薬剤師に尋ねてみてください。


まとめ

第一三共エスファ株式会社から発表された「アトモキセチン錠「DSEP」」におけるニトロソアミン化合物の管理方針について、重要なポイントを改めて整理します。

  • 検出の事実: 製剤中から微量の「N-ニトロソアトモキセチン」が確認されました。

  • 現在の対策: 厚生労働省と協議し、海外ガイドラインに基づいた暫定管理値(5.583ppm)以下の製品のみが出荷されています。

  • 今後の対策: 恒久的な許容限度値(0.83ppm以下)を満たすための新製剤の開発と安定性試験が進行中です。

  • リスクの評価: 基準値は「70年間の毎日服用」を前提に厳しく設定されているため、患者さんの生涯発がんリスクが著しく高まる可能性は極めて低いと判断されています。

  • 最も大切な行動: 薬の急な中断はADHD症状の悪化などの重大な不利益をもたらすため、自己判断で服用を中止せず、気になる点は必ず主治医やかかりつけ薬剤師にご相談ください。

医薬品における不純物の管理は、医療技術と分析技術の進歩に伴って年々厳格化されており、今回の発表も製品の安全性をより高いレベルで維持するための取り組みの一環です。不安な気持ちを一人で抱え込まず、専門家のアドバイスを受けながら、日々の安定した生活を守るための治療を落ち着いて継続していきましょう。

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