鳥取県立中央病院で起きたエクモ誤操作事故の真相:20分間の酸素停止が招いた悲劇と医療安全の課題

鳥取県立中央病院で起きたエクモ誤操作事故の真相:20分間の酸素停止が招いた悲劇と医療安全の課題

令和8年9月1日、鳥取県立中央病院は、同病院で発生した重大な医療事故に関する記者会見を行いました。心筋梗塞で入院していた70代の男性患者に対し、生命維持装置である「エクモ(ECMO)」の操作ミスが原因で、酸素供給が約20分間にわたって停止し、男性が意識不明の重体となったという衝撃的な内容です。

医療の最前線で命を救うはずの装置が、なぜこのような悲劇を招いてしまったのでしょうか。本記事では、報道された事実に基づき、この事故の経緯と問題点、そして今後の課題について詳しく解説します。

1. 「エクモ(ECMO)」とは何か?:命を繋ぐ最後の砦

今回の事故を理解するために、まず「エクモ(ECMO:体外式膜型人工肺)」という装置について知る必要があります。

エクモは、心臓や肺の機能が著しく低下し、通常の治療(人工呼吸器など)では命を維持できない患者に使用される「最終手段」とも言える装置です。太い管を血管に通し、体内の血液を一度外に取り出します。そして、「人工肺」という装置を通して血液に酸素を取り込み、二酸化炭素を取り除いた後、再びポンプを使って体内に戻します。

つまり、心臓と肺の役割を機械が代行する仕組みです。この装置が停止するということは、その間、患者の全身(特に脳)に新鮮な酸素が届かなくなることを意味します。非常に高度な技術を要する装置であり、専門の知識を持ったスタッフによる厳重な管理が欠かせません。

鳥取県立中央病院

2. 事故の経緯:旅行中の急病から悲劇の20分間へ

事故に遭ったのは、神奈川県から鳥取県へ旅行に来ていた70代の男性でした。楽しいはずの旅行中に突然、胸の不快感を訴え、鳥取県立中央病院へ搬送されました。診断の結果は心筋梗塞。男性はすぐに入院し、懸命な治療が続けられました。

しかし、その後容態が悪化したため、心臓と肺の機能を補助するためにエクモが装着されました。事故が発生したのは、男性を集中治療室(ICU)から、より専門的な治療を行う「心臓治療専用の部屋」へと移動させる際のことでした。

移動中の「酸素供給の切り替え」

患者を移動させる際、エクモの酸素供給源を、壁に固定された配管から、持ち運び可能な「酸素ボンベ」へと一時的に切り替える必要があります。ここまでは通常のプロセスです。

運命を分けた接続ミス

問題は、新しい部屋に到着した後に起こりました。本来であれば、移動用の酸素ボンベから、部屋にある常設のエクモ本体側の供給源、あるいは壁の配管へと酸素チューブを「接続し直す」必要がありました。

ところが、操作を担当していた臨床工学技士は、酸素チューブをエクモ本体に接続し直す作業を失念したまま、移動用に使っていた酸素ボンベの栓を閉じてしまったのです。この瞬間、患者の血液に酸素を供給するルートが完全に遮断されました。

空白の20分間

その後、医師が異常を発見するまで、約20分もの間、男性への酸素供給は止まったままでした。エクモが血液を循環させてはいても、その血液には酸素が含まれていないという、極めて危険な状態が続いたのです。

3. なぜベテランがミスをしたのか:現場の過酷な環境

報道によると、操作を誤った技士は10年以上の経験を持つ「ベテラン」でした。熟練した技術者が、なぜこれほどまでに初歩的かつ致命的なミスを犯してしまったのでしょうか。そこには、個人の不注意だけでは片付けられない、医療現場の構造的な問題が見え隠れします。

「1人で3台の機械を担当」という重圧

事故当時、この技士はエクモを含む3つの高度な医療機器の調整と維持を「1人」で担当していました。重症患者の移動は非常に神経を使う作業であり、複数のスタッフが連携して行うのが理想です。しかし、人手不足や業務の集中により、一人のスタッフに過度な負担がかかっていた可能性があります。

慣れと注意力の分散

10年の経験は「確かな技術」を生む一方で、「慣れ」による油断を生む危険性も孕んでいます。しかし、3台の機械を同時に管理するという極限状態では、注意力が分散され、本来なら無意識でもできるはずのチェック項目が抜け落ちてしまったのかもしれません。

4. 医療事故が招いた「重度の後遺症」:低酸素脳症の恐ろしさ

20分間の酸素停止により、男性は脳に重度の炎症を起こしました。これは「低酸素脳症」と呼ばれる状態で、脳に酸素が行き渡らないことで脳細胞が壊死してしまう非常に深刻な病態です。

脳は体の中で最も酸素を必要とする臓器であり、わずか数分間の酸素不足でも修復不可能なダメージを受けることがあります。20分という時間は、生命を維持できたとしても、以前のような生活に戻ることを極めて困難にする時間です。

現在、男性は意識不明の重体となっており、回復したとしても重い後遺症が残ることが避けられない見通しです。旅行先で突然の病に倒れ、家族が回復を祈る中で起きたこの事故は、ご家族にとっても筆舌に尽くしがたい悲しみであるはずです。

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5. 病院側の対応と再発防止への課題

鳥取県立中央病院は、今回の件を重く受け止め、外部有識者を交えた「事故調査委員会」を設置しました。今後、以下の点が焦点になると考えられます。

  1. アラーム機能の不備、あるいは見落とし: エクモには酸素供給が止まった際に警告を発するアラームが備わっているはずですが、なぜ20分間も気づかれなかったのか。

  2. ダブルチェックの体制: 高リスクな作業において、複数のスタッフで確認を行う体制が整っていたのか。

  3. 機器の配置と手順の標準化: 移動時や接続切り替え時のマニュアルが実効性のあるものだったのか。

病院側は「実効性のある再発防止策を策定する」としていますが、これは単に「注意を徹底する」といった精神論で解決する問題ではありません。人間は必ずミスをするという前提に立ち、システムとしてミスを防ぐ「フールプルーフ(誤操作防止)」の導入が急務です。

まとめ:安全な医療体制の構築に向けて

今回の鳥取県立中央病院での医療事故は、一つの操作ミスが取り返しのつかない結果を招くという、医療の現場が持つ「隣り合わせの危機」を浮き彫りにしました。

  • 事故の核心: 70代男性の移動時、エクモの酸素チューブを接続し直さずにボンベを閉栓し、20分間酸素が停止した。

  • 原因の背景: ベテラン技士への業務集中(1人で3台の機械を担当)と、作業工程での確認漏れ。

  • 現状と今後: 患者は意識不明の重体。病院は事故調査委員会を設置し、原因究明と再発防止に努める。

医療技術がどれほど進歩しても、それを操作するのは人間です。今回の悲劇を単なる「一病院の失態」として終わらせるのではなく、全国の医療機関が自らの安全管理体制を見直す契機としなければなりません。

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