マウスの膵臓につながる迷走神経を活性化させて膵臓のβ細胞を増やすことに成功(2023/11/22)
東北大学の研究チームがマウスの糖尿病治療で膵臓のβ細胞を増や手法を開発し、その手法が公開されました。
脳と膵臓をつなぐ自律神経の一種「膵臓迷走神経」を活性化させることで、膵臓のβ細胞を増やすこと可能とした技術です。
遺伝子を組み替えた手法のためヒトへの流用はできませんが、迷走神経の活性化によりβ細胞が増えるという事実が明らかとなって点が、今後の糖尿病治療の新たな展開につながることが期待されます。
迷走神経を刺激する概要
①青い光があたると膵臓の迷走神経が活性化される遺伝子を組み替えられたマウスを作成する
②体外から近赤外光をあてると青い光を発する物質をマウスの膵臓に留置する(近赤外光はマウスを透過して膵臓まで届きます)
③近赤外光が当たった時だけ膵臓が青く光り、その光に反応して膵臓の迷走神経が活性化される
上記の仕組みを利用し、生きたマウスに対してヒトの必要とするタイミングで近赤外光をあてて膵臓の状態をしらべた実験です。
結果
膵臓につながる迷走神経だけを限定的に刺激できる今手法により、糖分を与えた時の血中インスリン量の像羽化が確認されています。
2週間ほど続けた結果、膵臓β細胞の数が2倍以上にまで増加したことが報告されました。
筆者らは「膵臓迷走神経の刺激が質と量の両面からβ細胞を活性化し、血中のインスリン量を増加させた」とまとめています。
東北大学「迷走神経活性化によりインスリンの産生細胞再生(マウス)」
ツイミーグ錠500mg(イメグリミン塩酸塩)が糖尿病標準診療マニュアル2022に記載されました
2022年4月13日追記
2022年4月1日、糖尿病標準診療マニュアル2022(一般診療所、クリニック向け)が公開されました。
糖尿病の治療に関しては
食事・運動療養にて数カ月
↓
単剤(ビグアナイド)で薬物療法開始(ステップ1)
↓
1剤上乗せ(DPP4阻害またはSGLT2阻害)(ステップ2)
↓
さらに1剤上乗せ(SU剤またはαGI)(ステップ3)
という治療指針が示されましたが、ツイミーグ錠はステップ3のオプションとして1日2回経口投与することが記されました。
テトラヒドロトリアジン系薬(ステップ3のオプション)
・1日2回経口投与する(イメグリミン(ツイミーグ2000mg分2)
・eGFR<45ml/分/1.73㎡での投与は推奨しない
・長期的な効果と安全̪は未確定
糖尿病標準診療マニュアル2022(一般診療所、クリニック向け)を以下に記します。
糖尿病標準診療マニュアル2022(一般診療所、クリニック向け)
ツイミーグ錠はミトコンドリアへの作用を介して、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促す作用と、肝臓・骨格筋における糖代謝を改善する膵外作用の2つのメカニズムにより血糖作用を示すことが報告されています。
通常、成人にツイミーグ錠として1回1000mgを1日2回朝、夕に経口投与します。
ツイミーグ錠とメトホルミンは作用機序の一部が共通している可能性があることと、両剤を併用した場合、他の糖尿病用薬との併用療法と比較して消化器症状が多く認められたことから、併用薬剤の選択の際に留意することとしています。
ツイミーグ錠とメトホルミンの併用について
・併用により血糖降下作用が増強されるおそれがある。
・併用初期に消化器症状が発現する傾向が認められている。
下痢(15.6%)、悪心(10.9%)、嘔吐(4.7%)、上腹部痛(3.1%)、腹部不快感(3.1%)、食欲減退(3.1%)
・メトホルミン服用では、まれに重篤な乳酸アシドーシスを起こすことがありますが、ラットを用いたデータによると、ツイミーグ錠使用による血中乳酸濃度への明らかな影響は認められておらず、臨床試験では乳酸アシドーシスの発現は認められていないとしています。ただし、ツイミーグ錠とメトホルミンの作用機序の一部が共通している可能性があるため、ビグアナイド系の添付文書を参考に乳酸アシドーシスのリスク因子について記載されています。
ツイミーグ錠とメトホルミンの併用試験
健康成人男性15例を対象として、ツイミーグ錠1回1500mg、メトホルミン1回850mgを1日2回6日間投与した時、メトホルミン血中濃度は単独投与と比較してAUC0.86倍、Cmax0.9倍でした。
ツイミーグ錠とメトホルミンを併用しても、ツイミーグ錠を単独投与したときと比較してツイミーグ錠の吸収は同程度(AUC比:0.8~1.18)と推察されています。
また、「ツイミーグ錠はメトホルミンの薬物動態に影響を与えなかった」ことがインタービューフォームに記されています。
ツイミーグ錠500mg(イメグリミン塩酸塩)が医薬品として承認される(2021/5/26)
ツイミーグ錠500mgが医薬品として承認されました。
2021年5月26日、厚生労働省の薬食審医薬品1部会にて新規作用機序の2型糖尿病治療薬”ツイミーグ錠500mg”(大日本住友製薬)が医薬品として承認されました。
ツイミーグ錠500mgは膵臓β細胞のミトコンドリアをターゲットとした作用を持ち、ミトコンドリアの機能を改善することによりインスリン分泌機能、肝臓および筋肉におけるインスリン抵抗性改善作用が期待される製剤です。
単剤療法および既存の血糖降下薬やインスリン併用療法において有効性・安全性・忍容性が確認されているとしています。
通常摂取量は1日2回朝・夕、1回1000mgを経口摂取します。
ツイミーグ錠500mg(イメグリミン塩酸塩)が承認されました
以下に、これまで記載してきたツイミーグ錠500mg(イメグリミン)の効能効果・臨床データを示します。
イメグリミン塩酸塩を2型糖尿病を適応症として国内承認申請(大日本住友製薬)
2020年7月30日、大日本住友製薬は2型糖尿病を適応症としてイメグリミン塩酸塩の国内における製造販売承認申請を行いました。
イメグリミンはミトコンドリアの機能を改善するという新しい作用機序を有する2型糖尿病治療薬です。2型糖尿病のお主な成因であるインスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両方を改善する効果が期待されています。ミトコンドリアの機能を改善することにより
膵臓、筋肉、肝臓
に作用して、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促進するとともに、インスリン抵抗性を改善し、糖新生を抑制することで血糖降下作用を示すと考えられています。さらに、糖尿病により生じる細小血管、大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善や、膵臓β細胞保護作用を有する可能性も示唆されており、非常に幅広い効果が報告されております。
イメグリミンの作用機序について
イメグリミン(imeglimin)はWHO世界保健機関においてGliminsという化合物クラスに登録されており、新規作用機序の糖尿病治療薬として臨床試験が実施されています。イメグリミンはミトコンドリアの生体エネルギー利用能を標的とする化合物で、血糖やインスリン感受性に応答してインスリン分泌を改善するはたらきが報告されています。
試験管レベルの実験報告によると、高濃度の糖が存在する状況下において、インスリンを分泌するヒト膵臓β細胞の中にあるミトコンドリアは、PTP(ミトコンドリア膜透過性遷移孔)という穴を開いて細胞死することがこれまでにわかっていました(高グルコース誘発性の細胞死)。イメグリミン(imeglimin)はPTPが開くことを抑制する効果が報告されており、高濃度の糖にさらされた膵臓β細胞にイメグリミンを添加することでPTP(ミトコンドリアの開口穴)が開くことを抑制することで細胞の生存率が向上することが示されています。
膵臓β細胞はインスリンを分泌する機関ですので、高濃度の糖存在下において膵臓β細胞の減少を抑えることができれば、インスリン分泌能を維持することができ、インスリン抵抗性の改善や糖新生の抑制といった作用により血糖値を下げることが期待されます。
“禁忌”ではなく“警告” 糖尿病と抗精神病薬エビリファイについて
追記
肝臓における糖新生抑制作用について
肝臓における過剰なグルコース産生を抑制する作用(糖新生抑制作用)に関して、イメグリミンはメトホルミンの有効性と同レベルでの阻害活性を有することが示唆されています。
骨格筋へのグルコース取り込みについて
ラットでの報告ですが、イメグリミンを経口投与したラットは45日間の治療期間において、グルコース分子の骨格筋への取り込みが有意に増加していたことが確認されました。
2019年12月21日追記(TIMES2試験)
日本人の2型糖尿病患者714人を対象として、既存の血糖降下剤とイメグリミンを52週間(1年間)併用した際のHbA1c降下作用に関する報告がありましたので記載します。
イメグリミンの服用量:1日2回、1回1000mg
イメグリミンを服用する前の状態のHbA1c(ベースライン)から比較して、イメグリミンを追加して1年間服用した時点でのHbA1cの変化量を評価しています。
イメグリミン単剤服用:-0.46%
DPP4阻害剤とイメグリミン併用:-0.92%
チアゾリジンとイメグリミンの併用:-0.88%
αGI薬とイメグリミンの併用:-0.85%
グリニド薬とイメグリミンの併用:-0.7%
ビグアナイド薬とイメグリミンの併用:-0.67%
SGLT2阻害薬とイメグリミンの併用:-0.57%
SU薬とイメグリミンの併用:-0.56%
GLP-1受容体作動薬とイメグリミンの併用:-0.12%
有害事象に関しては、良好な忍容性を示しており、イメグリミン単剤投与試験(TIMES1)、インスリンとイメグリミンの併用試験(TIMES3)と同様の結果が示されています。
イメグリミン:ミトコンドリアの機能を改善することで、膵臓におけるインスリン分泌機能亢進およびβ細胞保護作用、筋肉におけるインスリン抵抗性の改善、肝臓における糖新生の抑制作用などの効果が期待される新規薬理作用が期待される化合物です。日本国内では大日本住友製薬が2021年度の発売を目指して臨床試験を実施しております。
2019年11月28日追記(TIMES3試験)
日本人208例を対象として、
インスリンと併用して1日2回1回1000mgのイメグリミンを52週間(1年間)服用した際のHbA1cの減少率:-0.64%
インスリン&プラセボを16週間(4カ月)併用後、インスリン&1日2回1回1000mgのイメグリミンを36週間(8カ月)服用した際のHbA1cの減少率:-0.54%
忍容性は52週間全体を通して良好であり、プラセボ対象試験においてもイメグリミン投与群とプラセボ投与群で有害事象は類似していた。
イメグリミンを開発しているPoxe社は2020年にイメグリミンの製造販売承認を申請する見込みです。
イメグリミンは細胞内ミトコンドリアの生存率を高めることで、インスリン分泌促進・インスリン抵抗性改善・糖新生抑制作用を示し、血管障害の予防・血管拡張作用・膵臓β細胞保護作用が示唆されている化合物です。
Poxe社
フランスの医薬品企業POXEL SAは新規2型糖尿病治療薬イメグリミン(imeglimin)の日本人を対象とした第Ⅲ相試験について患者登録が完了したことを発表しました。イメグリミンは新規作用機序の糖尿病治療薬と記されていますので、わかる範囲ですがイメグリミンの効果について調べてみました。
ヒトでの臨床試験について
イメグリミン2000mg1日1回投与、イメグリミン1000mgを1日2回服用(トータル2000mg)、メトホルミン850mgを1日2回服用(トータル1700mg)した試験では、4週間の治療後の結果、顕著な血糖値の減少が確認されました。(1日2回イメグリミン服用群とメトホルミン服用群が同等)
メトホルミン1900mg/日で服用している患者さんにイメグリミン1500mgを1日2回服用を追加すると、12週間の服用でHbA1cが0.65%減少することが示された(イメグリミンを追加しなかった群では0.21%の減少にとどまった)
日本人の2型糖尿病患者さんにイメグリミンを投与した臨床第Ⅱ相試験のデータを確認してみると、1日2回24週間にわたって299人の日本人2型糖尿病患者さんへ、イメグリミンをそれぞれ500mg、1000mg、1500mg投与した結果、HbA1cを0.52%、0.94%、1%低下させたという報告があり、1000mgと1500mgの効果に関しては何も飲まなかった比較群に比べて効果に有意差があることが確認されています。今後、第Ⅲ相試験が予定されており日本人の糖尿病患者さんを対象として1日2回1000mgのイメグリミンを52週間服用した時の他剤との比較データなどが予定されております。長期服用による臨床試験では効能効果に加えて安全性、忍容性(服用し続けることができるかどうか)なども調査されることになります。