おじさん薬剤師の日記

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低価値医療 風邪薬

風邪に去痰薬は低価値医療?

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風邪に去痰薬は低価値医療?

筑波大学が医療に関する興味深い報告をしていましたので概要を記します。

 

プライマリケアにおける「低価値医療・無価値医療」の提供実態を分析しました。その結果、こうした医療の⼤部分は⼀部の医師によって提供されており、特に年齢が⾼い、専⾨医資格がない、患者数が多い、などの特徴がある医師ほど、その傾向が強いことが分かりました。

 

研究の背景
– 低価値医療・無価値医療とは、特定の状況で患者にほとんど、または全く健康改善効果をもたらさない医療行為。
– これらを減らすことで、医療費の削減・過剰医療の抑制・医療資源の有効活用が可能。
– 特に診療所の医師は、患者と長期的に関わるため、削減に重要な役割を担う。

 研究内容
– 先行研究と文献レビューをもとに、診療所で行われる低価値医療10項目を選定。
– 全国の診療所レセプトデータベース(2022年10月〜2023年9月)を用いて、成人患者約254万人を対象に分析。
– 患者属性を統計的に調整し、医師ごとの提供率を算出。

主な成果
– 約10人に1人(276,622人)が1年間に少なくとも1回、低価値医療を受けていた。
– 患者100人あたり年間約17.2回の提供があり、風邪に対する去痰薬・抗菌薬など5項目に集中。
– 全体の約半数は、医師全体の10%によって提供されていた。
– 高齢・専門医資格なし・患者数が多い・西日本で診療している医師に多く見られた。

今後の展開と課題
– 特定の医師層へのターゲット介入が有効と考えられる。
– 医療制度の持続可能性と患者安全の両立が課題。
– 出来高払い制度や保険適用範囲が、過剰医療の要因となっている可能性。
– 今後は、医師の診療行動の背景や制度的要因の解明が必要。

 

さて、ここで挙げてらている低価値医療・無価値医療について記します。

筑波大「低価値医療・無価値医療」

低価値医療・無価値医療

薬剤
⾵邪に対する去痰薬処⽅

⾵邪に対する抗菌薬処⽅

⾵邪に対するコデイン(咳⽌め)処⽅

腰痛に対するプレガバリン処⽅

糖尿病性神経障害に対するビタミンB12処⽅

検査
⾻粗鬆症に対する1年間で2回⽬以降の⾻密度検査

甲状腺機能低下症に対する⾎清T3検査

適応のないビタミンD検査注4)

⼿技
腰痛に対する硬膜外、椎間関節、トリガーポイント注射

消化不良や便秘に対する不必要な内視鏡検査

風邪に対する去痰薬(ムコダイン・ムコソルバン・クリアナール・ビソルボン等)に関しては賛否両論あるかとは思います。

風邪に対する去痰薬が低価値医療と言えるかどうかは、一概には言えません。しかし、多くの専門家は、一般的な風邪に対しては、去痰薬の効果は限定的であり、低価値医療とみなされることが多いと考えているようです。

 

1. 風邪の病態と去痰薬の作用

風邪の主な原因: 風邪のほとんどはウイルス感染によって引き起こされます。ウイルス自体を直接攻撃する薬はなく、風邪は通常、免疫システムがウイルスを排除するのを待つことで自然に治癒します。

去痰薬の作用: 去痰薬は、気道に溜まった痰を薄くして排出しやすくする効果があります。しかし、風邪による痰の多くは、ウイルス感染に対する免疫反応の結果として生じるものであり、必ずしも病気を悪化させているわけではありません。

体液の自然な排出機構: 健康な人であれば、気道には自然に痰を排出する機能が備わっています。咳反射や線毛運動によって、痰は自然に上部気道へと運ばれ、飲み込むことで排出されます。

2. 去痰薬の効果に関するエビデンス

限定的な効果: 多くの臨床試験において、去痰薬が風邪の症状(鼻水、咳、痰など)を改善する効果は、プラセボ(偽薬)と比べてわずかしか差がないことが示されています。

症状の緩和期間への影響は少ない: 去痰薬の使用が、風邪の症状が治まるまでの期間を短縮するという明確な証拠はありません。

効果が期待できるケース: 慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息など、慢性的な呼吸器疾患を持つ患者さんでは、去痰薬が痰の排出を助け、呼吸を楽にする効果が期待できる場合があります。しかし、これは一般的な風邪とは異なる状況です。

3. 副作用のリスク

消化器系の不調: 去痰薬の中には、吐き気、下痢、腹痛などの消化器系の副作用を引き起こす可能性があります。

薬物相互作用: 他の薬を服用している場合、去痰薬との相互作用に注意が必要です。

4. 低価値医療とみなされる理由

上記の理由から、一般的な風邪に対して去痰薬を使用することは、以下のような点で低価値医療とみなされることがあります。

費用対効果が低い: 限定的な効果しか期待できないにもかかわらず、薬代がかかります。

不必要なリスク: 副作用のリスクがあるにもかかわらず、得られる利益が少ない場合があります。

患者の不安を煽る可能性: 去痰薬を使用することで、「痰を出すことが重要だ」という誤った認識を植え付け、患者の不安を煽る可能性があります。

 

風邪に対する去痰薬は、効果が限定的であり、副作用のリスクもあるため、一般的な風邪に対しては、積極的に使用する必要はないと考えられます。ウイルス性の風邪の症状を緩和するためには、安静、水分補給、加湿などの基本的な対処法を優先し、必要に応じて医師や薬剤師に相談しましょう。

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執筆者:ojiyaku

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