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アデノ随伴ウイルスベクターを用いた「エレビジス」で死亡例

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アデノ随伴ウイルスベクターを用いた「エレビジス」で死亡例

幼少期から筋力が低下する難病「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)」に対する治療薬「エレビジス」を投与された10代の2名が急性肝不全で亡くなりました。(米国)

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)とは、体の筋肉を無傷で保ち続けるために必要なタンパク質であるジストロフィンの異常または欠如を引き起こす遺伝子の欠陥が原因で発症する難病で、時間の経過とともに筋力の低下・衰弱を来す疾患です。

治療薬である「エレビジス」は遺伝子治療薬であり、正常な筋細胞にエレビジスマイクロジストロフィンという遺伝子を送り込むことで、ジストロフィンの産生を促すように設計された治療薬です。

ここまでの話だけを見ると、難病のために欠如している遺伝子を薬で注入することで、筋細胞が正常に機能できるようになるのかぁ・・・最新の医療はすごいなぁということになるのですが、この治療で死亡例がでたとなると話は別ですね。

今回用いられた遺伝治療薬に関して、治療に必要な遺伝子を筋細胞へ輸送するための方法が「アデノ随伴ウイルスベクター」を用いた方法なんですね。

「ウイルス」と聞くと私たちにとっては、風邪症状などを引き起こす「ばい菌」のイメージがあるですが、アデノウイルスベクターとは、ばい菌ウイルスが持っている「増殖関連遺伝子」を取り除いてしまって「非増殖型ウイルス」として設計されたウイルスのことなんですね。

ウイルスとは「感染」という方法で、ヒトの細胞へ外部の遺伝子を組み入れる生き物のことです。

例えばですが、風邪のウイルスに感染すると、風邪ウイルスが私たちの喉や肺の細胞に「感染」という方法で入り込み、とんでもない速度で増殖を繰り返します。

その結果、発熱や喉の痛み、咳や鼻水といった症状が発症して、風邪ウイルスと私たちの体が戦うこととなります。

しかし、増殖関連遺伝子を取り除いた「アデノ随伴ウイルスベクター」であれば、必要な遺伝子を人の身体に注入することで、「感染」によって必要な遺伝子が必要部位に入り込み、機能不全を改善できることが期待されるわけです。

 

しかし、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた治療には副作用も報告されていることを知っておく必要があります。

高用量投与や肝臓志向性のベクターを使用した場合、肝細胞障害が報告されております。

同社が治験を行っている製品の中で、肢帯型筋ジストロフィーの遺伝子治療で初期段階の臨床試験に参加していた51歳の患者も2025年6月に、急性肝不全で死亡したことが明らかとなっています。

また、脳炎や末梢神経障害などの副作用も報告されており、中枢神経系を標的とした遺伝子治療では注意が必要とされています。

コロナウイルスに対するワクチンの中にアデノウイルスベクターを用いたワクチンがありますのでご承知おきください。

話を戻しますがアデノ随伴ウイルスベクターを用いた「エレビジス」は日本では歩行可能な3~7歳の患者を対象とした医薬品として承認されていますが、まだ販売されていない状態です。

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執筆者:ojiyaku

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