救急・集中治療の生命維持治療終了とは?4学会合同指針を徹底解説

  1. 救急・集中治療の生命維持治療終了とは?4学会合同指針を徹底解説
  2. 1. ガイドライン策定の背景とこれまでの歴史的経緯
    1. 日本における法制度の現状と過去の刑事事件
    2. 10年ぶりの大改訂が必要とされた理由
  3. 2. 旧ガイドラインからの主な改訂点と言葉の整理
    1. 「終末期」をあえて一律に定義しない選択
    2. 誤解を招く用語の排除と表現の適正化
  4. 3. 生命維持治療の終了・差し控えを判断するためのプロセス
    1. 医療・ケアチームによる多角的な「臨床倫理的検討」
    2. 患者・家族等との共同意思決定(SDM)
  5. 4. 「一度始めたらやめられない」を防ぐ期限付き治療の試行(TLT)
    1. TLT(タイム・リミテッド・トライアル)の仕組み
    2. メリットと運用上の厳格な注意点
  6. 5. 治療の終了・差し控えに伴う手厚い「緩和ケア」と家族支援
    1. 治療終了時に行うこと・終了を検討すること
    2. 身体的苦痛を徹底的に取り除く薬物療法
    3. 家族に対する心理的ケアとグリーフケア
  7. 6. よくある疑問や懸念に対するガイドラインの回答
    1. 医療費削減やICUのベッド空けが目的なのか?
    2. 犯罪(殺人罪や自殺幇助罪)に問われないのか?
    3. 障がいのある人や、日常的に医療的ケアを受けている人の命が軽視されないか?
    4. 臓器提供を増やすために治療終了を誘導するのではないか?
  8. 7. 医療従事者自身の心のケアと組織的な取り組み
  9. まとめ

救急・集中治療の生命維持治療終了とは?4学会合同指針を徹底解説

突然の事故や重い病気によって、大切な家族や自分自身が救急搬送され、集中治療室(ICU)に運ばれる事態は、誰の身にも起こり得ます。人工呼吸器や人工心肺装置などの医療機器をつなぎ、生命をつなぎとめる治療が行われる中で、「これ以上の治療を続けることが、本当に本人のためになるのだろうか」「苦痛ばかりを長引かせてしまっていないだろうか」という極めて重い問いに直面することがあります。

日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、救急・集中治療の現場における「生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」を取りまとめ、説明文、本編、緩和ケア別編、Q&A集からなる詳細な指針を公表しました。

今回の改訂は、2014年に発表された従来の3学会提言から10年以上を経て行われた大幅な見直しです。本稿では、この新しいガイドラインがどのような背景で生まれ、何を大切にし、現場でどのように患者と家族を支えようとしているのかを詳しく解説していきます。以下にガイドラインのリンクを添付します。

救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4 学会合同ガイドライン


1. ガイドライン策定の背景とこれまでの歴史的経緯

日本における法制度の現状と過去の刑事事件

多くの欧米諸国では、生命維持治療の終了や差し控えに関する法律が明文化されています。しかし、現在の日本にはそうした法律が存在しません。法的な強制力を持つ法律がない代わりに、裁判所の「判例」や、社会的な規範として尊重される「ソフトロー(soft law)」としての厚生労働省ガイドラインや各学会の指針が、臨床現場の判断を支える重要な基準となってきました。

これまで日本の終末期医療をめぐっては、医療者や市民の間で大きな議論を呼んだ重大な事件がいくつか存在します。

  • 東海大学病院事件(1991年):多発性骨髄腫の末期患者に対し、家族からの強い懇願を受けた主治医が塩化カリウム等を静注して死に至らしめた事件です。横浜地方裁判所は殺人罪として有罪判決を下しました。判決の理由を述べる中で、治療中止が許容される要件として「患者が治癒不可能な病気で死が避けられない末期状態にあること」「治療中止を求める患者の意思表示が存在すること(推定意思も含む)」などを挙げました。

  • 川崎協同病院事件(1998年):気管支喘息発作で心停止となり、蘇生後も昏睡状態だった患者から気管チューブを抜管し、その後苦悶呼吸が生じたため筋弛緩薬を投与して死亡させた事件です。最高裁判所は、患者の回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況になく、本人の意思も推定できないとして殺人罪の成立を認めました。この最高裁判決は、逆に言えば「患者の推定意思に基づく治療終了が法的に許容される場合がある」ことを最高裁として初めて認めた重要な判例と位置づけられています。

  • 射水市民病院事件(2000〜2005年)および道立羽幌病院事件(2004年):いずれも回復の見込みがないと判断された患者の人工呼吸器を取り外したことで医師が殺人容疑などで捜査を受けましたが、最終的に検察によって不起訴処分となりました。

これらの事件を契機に、厚生労働省は2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定し、改訂を重ねて2018年には「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(厚労省プロセスガイドライン)」へと発展させました。救急や集中治療の学会もそれぞれ指針を策定し、2014年には3学会合同提言を出していましたが、なお現場には強い迷いや課題が残されていました。

10年ぶりの大改訂が必要とされた理由

2014年の旧ガイドライン公表から10年が経過し、医療技術はさらに進歩しました。高度な生命維持装置によって、以前であれば救命が難しかった重篤な状態でも、心臓や肺の機能を人工的に維持し続けることができるようになりました。

しかし、その進歩は同時に新たな倫理的ジレンマを生み出しました。「機械をつなぎ続ければ心臓は動き続けるが、本人が望むような意識の回復や生活への復帰は望めず、苦痛ばかりが続いてしまう」という状況です。

さらに、臨床現場には深刻な実践上の課題がありました。「一度始めた生命維持治療は、たとえ本人が望んでいなくても絶対にやめられないのではないか」「人工呼吸器を外したら法的な罪に問われるのではないか」という医療従事者の恐怖心です。この心理的障壁が強すぎるあまり、「一度始めたら止められないのなら、最初から救命治療を始めるのをやめておこう」という誤った判断につながり、本来なら助かるはずの命が見過ごされてしまう危険性が懸念されていました。

こうした課題を解決し、患者本人の尊厳を守りながら、救える命を全力で救うための環境を整えるために、緩和医療のエキスパートである日本緩和医療学会を加えた4学会による全面改訂が行われたのです。


2. 旧ガイドラインからの主な改訂点と言葉の整理

新しいガイドラインでは、読者や現場の混乱を避けるために、これまでの用語の使い方や定義が根本から見直されました。

「終末期」をあえて一律に定義しない選択

旧ガイドラインでは、終末期を「適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期」と定義し、4つの具体例(不可逆的な脳機能不全、多臓器不全、近いうちに死亡が予測される場合、回復不能な悪性腫瘍の末期など)を挙げていました。

しかし、現場ではこの4パターンだけが終末期であると硬直的に解釈されたり、Q&Aに記載されていた「近いうちに死亡(およそ2〜3日以内)」という目安にとらわれ、本当に亡くなる直前まで治療の見直しができないという弊害が生じていました。急性期の医療現場において、患者の予後(病気の進展や余命)を正確に予測することは極めて困難です。

そこで新ガイドラインでは、あえて「終末期」を一律に定義することをやめました。病名や余命の枠組みで機械的に線引きをするのではなく、患者一人ひとりの病態、価値観、苦痛の度合いを踏まえて、治療方針を話し合うべき時期かどうかを判断するアプローチへと舵を切ったのです。

誤解を招く用語の排除と表現の適正化

新ガイドラインでは、現場や市民に誤解を与えやすい以下の言葉について、明確な整理を行っています。

  • 「延命治療・延命措置」という言葉を使わない

    医療現場で根治を目指して全力を尽くしている治療において、「どこからが治すための治療で、どこからが単なる延命なのか」を明確に区切ることはできません。そのため、ガイドラインでは主観的な「延命治療」という言葉を避け、「生命維持治療」という客観的な表現に統一しました。

  • 「中止」ではなく「終了」に統一

    「中止」という言葉には「状況が変われば再開する」というニュアンスが含まれることがあります。生命維持治療を止める判断は極めて重大であり、再開を前提としにくい医学的状況を正確に示すため「終了」という言葉を採用しました。また、すべての治療を投げ出すわけではないため、「治療の終了」ではなく「生命維持治療の終了」と呼びます。

  • 「消極的安楽死」という用語を使わない

    これまで、薬物で意図的に命を縮める行為を「積極的安楽死」、治療を取りやめることを「消極的安楽死」と呼ぶ慣習がありました。しかし、生命維持治療の終了や差し控えは、病気の自然な進行を受け入れるものであり、命を人為的に終わらせる安楽死とは本質的に異なります。混同による不要な恐怖や抵抗感を防ぐため、「消極的安楽死」という言葉は使用しないこととしました。

  • 「BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)」という用語を使わない

    治療方針を変更する際によく使われてきた「BSC」ですが、患者や家族から見ると「もう何もしてくれない」「見放された」と受け取られがちでした。新指針ではこの言葉を使わず、提供されるべき具体的な「緩和ケア」の内容を詳細に明記することにしました。


3. 生命維持治療の終了・差し控えを判断するためのプロセス

ガイドラインの根幹をなすのは、「誰が、どのようにして治療方針を決めるのか」という決定の手順です。ガイドラインは結論を一律に決めるものではなく、公正で丁寧なプロセスを踏むことを求めています。

医療・ケアチームによる多角的な「臨床倫理的検討」

治療方針の再検討にあたっては、医師一人の独断で決めることは固く禁じられています。医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど、患者に関わる多職種からなるチーム全員で話し合います。その際、医師だけでなくすべてのスタッフが対等に意見を言える環境(心理的安全性)の確保が重視されます。

検討には、臨床倫理の代表的な枠組みである「Jonsen(ジョンセン)の4分割法」などが活用されます。以下の4つの観点をもれなく整理します。

  1. 医学的側面:正確な診断、予後の見通し、治療の有効性と限界はどうか。

  2. 患者の意向:本人は何を望んでいるか。意思表示ができるか。事前の対話記録(ACPや事前指示書)はあるか。

  3. 生活・人生の質(QOL):治療を続けた場合、患者はどのような生活を送ることになるのか。苦痛の程度や尊厳は保たれるか。

  4. 周囲の状況:家族の思いや介護力、経済的・社会的状況、法制度などの環境要因はどうか。

患者・家族等との共同意思決定(SDM)

方針の検討は、医療者側だけで完結させるのではなく、患者や家族等と情報を共有し、対話を重ねて一緒に決めていく「共同意思決定(shared decision making: SDM)」の形で行われます。

患者の意思疎通の状態に応じて、以下の順序で意思を尊重します。

  • 患者本人の意思が確認できる場合:本人の意思決定能力を専門的に評価した上で、十分な情報提供を行い、本人の意思を最優先に尊重します。

  • 本人の意思は確認できないが、推定できる場合:事前の話し合い(人生会議/ACP)の記録や、日頃の言動、価値観をもとに、家族等と医療チームで「本人ならどう望むだろうか」と意思を推定し、それを尊重します。

  • 意思も推定意思も確認できない場合:家族等を「患者に代わる者」として位置づけ、何が患者にとって最善の利益であるかを十分に話し合います。

  • 身寄りがない、あるいは家族と連絡が取れない場合:年齢や外見などの偏見を完全に排除し、福祉関係者などの情報も集めながら、医療チームや臨床倫理委員会が公正で透明性のある手続きを経て、本人にとっての最善を慎重に判断します。

ここでいう「家族等」とは、法律上の血縁関係に限定されません。内縁のパートナーや親しい友人など、患者の価値観を最もよく理解している人が含まれます。

救急車


4. 「一度始めたらやめられない」を防ぐ期限付き治療の試行(TLT)

急性期の医療現場で最も画期的な導入となったのが、「期限付きの特定の治療の試行(time limited trial: TLT)」の明記です。

TLT(タイム・リミテッド・トライアル)の仕組み

救急搬送された直後は、病状がどこまで回復するのか、どのような後遺症が残るのか、正確に見通すことが困難です。そのため、患者や家族と医療者の間で方針についての意見が分かれたり、判断に迷ったりすることが少なくありません。

TLTとは、「あらかじめ目標と期間を決めて、集中的な治療を試行してみる」という方法です。例えば、「まず7日間、人工呼吸器による集中治療を行い、肺や他の臓器の機能が回復に向かうかどうかを見極める」といった計画を立て、患者・家族と合意します。

メリットと運用上の厳格な注意点

TLTを導入することで、以下のような大きな利点が生まれます。

  • 「一度装着したら二度と外せない」という不安が解消されるため、救命の可能性がある患者に対して、ためらわずに迅速な初期治療を開始できる。

  • 予後を見極めるための時間的猶予ができるとともに、突然の事態に動揺する家族が心の準備を整え、状況を受け止める時間を作ることができる。

一方で、ガイドラインではTLTの安易な濫用を強く戒めています。目標や期間が曖昧なままダラダラと延長を繰り返すと、結果的に「決められないから先送りする」「無駄な延命を長引かせて患者に苦痛を与え続ける」という事態に陥りかねません。

そのため、TLTを行う際には「何を指標として評価するのか」「いつ再評価を行うのか」「その結果が本人の価値観とどう結びつくのか」を事前に明確にし、設定した期限が来たら必ず立ち止まって多職種で厳格な見直しを行うことが定められています。


5. 治療の終了・差し控えに伴う手厚い「緩和ケア」と家族支援

「生命維持治療を終了する」ということは、決して「医療をやめる」「見放す」ということではありません。侵襲的な機械による治療を止める代わりに、苦痛を取り除き、人間らしい最期を穏やかに迎えるための「緩和ケア」を最大限に行うことが、ガイドラインの本編および別編で極めて手厚く規定されています。

治療終了時に行うこと・終了を検討すること

治療方針が苦痛緩和を最優先とする形に切り替わった場合、行われている医療行為を一つひとつ吟味します。

  • 基本的に終了するもの

    透析、昇圧薬(血圧を上げる薬)、経管栄養、抗菌薬、輸血、筋弛緩薬、身体拘束など。心停止時の胸骨圧迫(心臓マッサージ)や電気ショックなどの心肺蘇生は行いません。

  • 終了を検討するもの

    機械的循環補助装置、ペースメーカーの作動停止、各種血液検査、レントゲン検査、過剰な輸液(点滴は浮腫や肺の水たまりを悪化させ、呼吸困難や喘鳴の原因になるため減量・終了を検討)など。

  • 生体モニターの取り扱い

    心電図モニターのアラーム音や数値の点滅は、家族が患者と過ごす貴重な時間を妨げ、不要な不安を煽ることがあります。そのため、アラームをオフにしたり、場合によってはモニターそのものを外すことも選択肢とされています。観察すべきは画面の数値ではなく、患者本人の表情や呼吸の様子です。

身体的苦痛を徹底的に取り除く薬物療法

人工呼吸器を取り外す(抜管する)際、患者が呼吸困難や息苦しさを感じることは絶対に防がなければなりません。

そのため、抜管の前にあらかじめモルヒネやフェンタニルといった「医療用麻薬(オピオイド)」や、ミダゾラムなどの「鎮静薬」を投与し、苦痛を予防・緩和する手順が詳細に示されています。痛みを抑えるオピオイドには「投与量の上限」は設けられておらず、患者の呼吸苦や痛みが治まるまで、必要十分な量がしっかりと投与されます。また、のどに分泌物が溜まってゴロゴロと音が鳴る死前喘鳴に対しては、抗コリン薬を事前に投与するなどの配慮も行われます。

家族に対する心理的ケアとグリーフケア

集中治療室という非日常的な空間で突然の別れに直面する家族は、激しいショックや罪悪感に苛まれます。ガイドラインでは、意思決定の前後から死別後に至るまで、一貫したグリーフケア(悲嘆のケア)を行うことを医療チームに義務づけています。

  • 思い出作りの支援:お気に入りの服を着せる、好きな音楽を流す、家族の手で身体を拭いてあげる、手形や髪の毛を形見として残す、記念写真を撮るなど、その人らしさを保ったお別れができるよう支援します。

  • 面会制限の緩和:面会時間の制限をできる限りなくし、幼い子どもや親しい友人、場合によってはペットとの面会も柔軟に検討します。

  • 罪悪感への寄り添い:「治療をやめると決めたのは正しかったのか」「自分が命を縮めてしまったのではないか」と自責の念に駆られる家族に対し、医療チームは「これは本人の意思と最善を考え抜いた上での決断であり、あなたが自分を責める必要はまったくありません」と繰り返し伝え、支え続けます。


6. よくある疑問や懸念に対するガイドラインの回答

生命維持治療の終了というテーマは、社会的な関心が高く、様々な不安や疑念が持たれやすい分野です。ガイドラインのQ&A集では、寄せられた率直な疑問に対して正面から回答しています。

医療費削減やICUのベッド空けが目的なのか?

明確に否定されています。 本ガイドラインは、治療の終了を促すためのものではありません。医療資源の効率化、病床の回転率向上、医療従事者の負担軽減などを目的に治療を止めることは固く戒められており、あくまで「患者本人の尊厳と価値観に基づいた最善の選択」を支えることだけを目的としています。

犯罪(殺人罪や自殺幇助罪)に問われないのか?

多職種による厳格な臨床倫理的検討を行い、患者本人や家族等との丁寧な共同意思決定(SDM)を経て、その全過程を診療録(カルテ)に詳細に記録していれば、正当な医療判断として法的に認められます。2007年の厚労省指針策定以降、適切なプロセスを踏んだ治療終了について、警察の介入や刑事事件に発展した事例は全国で1件も確認されていません。

障がいのある人や、日常的に医療的ケアを受けている人の命が軽視されないか?

決してそのようなことはありません。 年齢、障がいの有無、要介護度、外見、家族の介護負担などを理由に、生きる価値を一律に低く見積もることは、ガイドラインの理念に真っ向から反します。どのような障がいや病気があっても、地域で生きるための支援(重度訪問介護など)の情報を共有した上で、本人のこれまでの生き方や価値観に基づいた個別判断が徹底されます。

臓器提供を増やすために治療終了を誘導するのではないか?

治療の終了と臓器提供は、完全に切り離された独立したプロセスとして扱われます。臓器提供のために治療終了が早められたり誘導されたりすることは絶対にありません。生命維持治療に関する方針がすべて決まった後に、患者本人の尊厳ある最期の選択肢の一つとして、適切なタイミングで独立して情報提供が行われます。


7. 医療従事者自身の心のケアと組織的な取り組み

患者の命を救うことを使命として現場に立つ医師や看護師にとっても、生命維持治療の終了に立ち会うことは、非常に重い精神的負担を伴います。

  • モラルディストレス(道徳的苦悩):「本当はもっと何かできたのではないか」「自分の価値観と違う方針に従わなければならない」という葛藤から生じる苦痛。

  • 共感疲労・バーンアウト:患者や家族の深い悲しみに寄り添い続けることで感情を消耗し、燃え尽きてしまう状態。

新ガイドラインでは、医療従事者がこうした苦悩を抱え込まないよう、困難な事例の後にチームで気持ちを共有し振り返る「デブリーフィング」の実施や、臨床倫理委員会によるバックアップなど、病院組織全体でスタッフを支援する仕組み作りを求めています。医療従事者自身が心身ともに健康であって初めて、患者と家族に質の高いケアを提供できるからです。


まとめ

今回発表された「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」は、単に「医療機器を止めるためのマニュアル」ではありません。

その本質は、「どれほど厳しい状況に陥っても、患者一人ひとりを人間として尊重し、その人らしい人生の終わり方を、家族と医療チームが対話を尽くして一緒に見つけ出すための道しるべ」です。

  • あえて終末期を機械的に線引きせず、一人ひとりの状態と価値観に向き合います。

  • 「一度始めたらやめられない」という恐れを解消し、必要な治療を全力で開始できるようにします。

  • 治療を終了した後も決して患者を見放さず、手厚い緩和ケアで苦痛を取り除き、家族の心のケアを続けます。

万が一の時、自分はどのように生きたいのか、何を大切にして最期を迎えたいのか。このガイドラインは、医療従事者だけでなく、私たち一人ひとりが日頃から家族や大切な人と「人生の最期」について語り合う(人生会議/ACP)きっかけを与えてくれています。

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