処方箋と調剤録の保管が5年に延長!法改正の背景と私たちの生活への影響
病院やクリニックを受診した後に、調剤薬局へ持参して薬を受け取るために使う「処方箋(しょほうせん)」。そして、薬局側が「いつ・誰に・どんな薬を・どのように調剤したか」を正確に記録した「調剤録(ちょうざいろく)」。これらのお薬に関する重要な書類の保存期間について、大きな制度変更が行われることになりました。
令和9年(2027年)5月20日より、処方箋および調剤録の保存期間が、これまでの「3年間」から「5年間」へと2年間延長されます。
厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)において示された資料をもとに、今回の見直しの具体的な内容や法改正の背景、そしてこの変更が私たちの日常や医療現場にどのような変化をもたらすのかについて、順を追って解説していきます。
令和9年5月から何が変わるのか?ルールの変更点
まずは、今回の改正で何がどのように変わるのか、具体的な変更点を確認していきましょう。
処方箋と調剤録の保存期間が「3年」から「5年」へ
これまで、私たちが薬局で薬を受け取った後に薬局側で保管されていた調剤済みの処方箋や、調剤録と呼ばれる調剤の記録は、法律上「3年間」保存することが義務付けられていました。
今回の法改正に伴い、令和9年5月20日以降は、この保存期間が「5年間」へと延長されます。
具体的には、保険薬局が守るべき基準を定めた省令(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則、通称「療担規則」)の第6条において、次のように文言が改められます。
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現行の規定:
「保険薬局は、患者に対する療養の給付に関する処方箋及び調剤録をその完結の日から三年間保存しなければならない。」 -
改定後の規定:
「保険薬局は、患者に対する療養の給付に関する処方箋及び調剤録をその完結の日から五年間保存しなければならない。」
また、75歳以上の後期高齢者などを対象とする「高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付等の取扱い及び担当に関する基準」第28条においても、全く同様に「3年間から5年間への延長」が規定されます。
薬剤師による指導記録の保存もあわせて5年に
処方箋や調剤録だけでなく、薬局で薬剤師が患者さんに対して行った「お薬の説明や服薬指導の内容」「指導を行った年月日」「担当した薬剤師の氏名」などを記した記録(医薬品医療機器等法施行規則第15条の14の3に規定される記録)についても、保存期間が従来の3年間から「最終の記載の日から5年間」へと延長されます。
このように、薬局が作成・管理する「お薬の処方・調剤・服薬指導に関する記録全般」が、足並みをそろえて5年間保存される仕組みへと統一されます。
なぜ今、保存期間が延長されるのか?法改正の背景
今回の見直しは、単に書類の保管期限を延ばしただけではありません。背景には、日本の医療・薬事制度全体を見据えた法改正と、医療安全に対する社会的な要請があります。
1. 令和7年「薬機法等改正」を受けた統一的な見直し
今回の見直しの起点となったのは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性等の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)」、いわゆる薬機法等の改正です。
この法律改正によって、医薬品の品質・安全性の確保や安定供給体制の強化、さらには薬局機能の見直し(調剤業務の一部の外部委託の導入など)が幅広く盛り込まれました。その一環として、大元の法律である「薬剤師法」が改正され、第27条(処方箋の保存)および第28条(調剤録の保存)において、保存義務期間が「3年」から「5年」へと引き上げられました。
今回の厚生労働省・中医協における審議は、上位法である薬剤師法の改正に合わせて、保険医療の現場ルールである「療担規則」や「薬機法施行規則」などの省令・告示も同じ5年間に揃えるための必要な手続きです。
2. 医師のカルテ(診療録)との期間のズレを解消する
これまで、日本の医療現場にはひとつの制度的なズレが存在していました。それは、病院やクリニックで医師が記入する「カルテ(診療録)」の保存期間と、薬局の「処方箋」の保存期間の違いです。
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医師のカルテ(医師法第24条):保存期間は5年間
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薬局の処方箋・調剤録(従来の薬剤師法など):保存期間は3年間
医師側のカルテは5年残っているのに、同じ治療の一環として出された処方箋や調剤の記録が薬局側では3年で破棄されてしまう可能性があり、過去の治療経過を振り返る際に不都合が生じる懸念がありました。今回の改正によって、カルテと処方箋・調剤録の保存期間がともに「5年間」で統一され、医療情報の連続性が保たれるようになります。
3. 長期的な安全管理と副作用への備え
医薬品の中には、長期間にわたって服用を続けたり、服用を終了してから年数が経過した後に予期せぬ副作用や健康への影響が判明したりするものもあります。
万が一、医薬品に関する安全上の問題や健康被害が生じた場合、過去にどのような薬がどのくらいの期間・用量で調剤されていたのかを正確にさかのぼって調査できなければなりません。記録が5年間残ることにより、長期的な安全性の検証や健康被害救済の手続きがより確実に行える環境が整います。
厚生労働省・中医協資料から読み解く具体的なポイント
中医協に提出された資料(総-5-1、総-5-2)では、今回の見直しの位置付けと関連法令の条文が明示されています。要点を整理すると、以下の3点が重要な柱となっています。
| 区分 | 対象となる記録 | 改正前の保存期間 | 改正後の保存期間(令和9年5月20日〜) |
| 薬剤師法(第27条・28条) | 調剤済み処方箋、調剤録 | 3年間 | 5年間 |
| 療担規則・高齢者基準 | 保険給付に係る処方箋、調剤録 | 3年間 | 5年間 |
| 薬機法施行規則 | 服薬指導・情報提供の要点等の記録 | 3年間 | 5年間(最終記載日から起算) |
資料では、令和7年法律第37号の公布以降、段階的に施行される項目のスケジュールも示されています。調剤業務の一部の外部委託や、遠隔管理による医薬品販売のルール整備などとともに、この保存期間延長の規定は「公布後2年以内に政令で定める日」として設定され、最終的に令和9年5月20日に施行されることが確定しています。
薬局が担う役割が多様化し、調剤の一部を別の専門施設に委託できる仕組みなどが導入される中で、責任の所在を明確にし、調剤や服薬指導の履歴を長期にわたって適正に管理することの重要性が高まっていることが、資料の記述からも読み取れます。
私たちの生活や医療にはどのような影響があるのか?
法律や規則の改正と聞くと、「何か特別な手続きが必要になるのではないか」「普段の通院に変化があるのか」と気になる方も多いのではないでしょうか。ここからは、患者側・薬局側それぞれの視点から、生活への影響を考えてみます。
患者側へのメリット:過去の服薬履歴がより確実に守られる
私たち患者側にとって、今回の変更によって新たな申請をしたり、窓口で余計な手続きを求められたりすることは基本的にありません。日々の薬局利用はこれまで通りです。
一方で、得られる恩恵は小さくありません。
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過去の服薬歴・副作用歴の確実な追跡
以前に重い副作用が出た薬や、体質に合わなかった薬の情報が、より長い期間にわたって薬局側の記録に残ります。お薬手帳を紛失してしまった場合や、数年ぶりに同じ病気を再発して過去の処方内容を確認したい場合でも、薬局に正確な記録が残っている可能性が高まります。 -
医療連携の向上
転院や別の医療機関を受診した際、過去数年間の処方・調剤内容を正確に照会できる期間が延びるため、薬の重複や危険な飲み合わせ(相互作用)を防ぐ安全ネットが強化されます。
薬局現場における変化:保管スペースの課題と医療DXの加速
患者さんにとって安心感が増す半面、サービスを提供する薬局側には実務上の対応が求められます。
紙の処方箋を保管する場合、保管期間が3年から5年へと延びることは、単純計算で保管すべき書類の量が約1.6倍に膨らむことを意味します。調剤薬局の多くは限られた店舗面積の中で運営されており、紙の書類を鍵付きの保管庫などで厳重に5年間管理し続けることは、物理的なスペースやコストの面で決して小さな負担ではありません。
この課題を解決する鍵となるのが、国が進めている「電子処方箋」や「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進です。
処方箋が電子データとして管理・保存されれば、紙のように物理的な保管場所に頭を悩ませる必要がなくなります。また、データの検索性も飛躍的に向上し、過去の処方履歴の確認もスムーズになります。今回の保存期間延長は、全国の薬局において紙から電子データへの移行を一段と後押しする契機になると考えられます。
個人情報の管理とセキュリティの重要性
保存期間が5年へと長期化することに伴い、これまで以上に重要視されるのが「個人情報の厳重な保護」です。
処方箋や調剤録には、患者さんの氏名や生年月日、住所といった基本情報だけでなく、受診した診療科、処方された医薬品の種類や用量など、極めて秘匿性の高い健康・医療情報が凝縮されています。
これらが5年間にわたって薬局内に留まることになるため、薬局側には次のような徹底した管理体制が求められます。
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紙の処方箋の場合:施錠可能な保管庫での厳重管理、持ち出し制限、保存期限経過後の確実な溶解・破砕破棄
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電子データの場合:アクセス権限の厳正な管理、不正アクセス対策、通信・保存時の暗号化、定期的なバックアップ
患者さんが安心して医療を受け、調剤を任せられる信頼関係を維持するためにも、安全管理基準の徹底は不可欠な要素です。
まとめ
令和9年(2027年)5月20日から施行される「処方箋および調剤録の保存期間の3年から5年への延長」について解説してきました。最後に、重要なポイントを整理しておきます。
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実施日:令和9年5月20日より施行されます。
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改正の要点:調剤済みの処方箋、調剤録、薬剤師による指導等の記録の保存期間が、現行の「3年間」から「5年間」に延長されます。
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改正の背景:令和7年の薬機法等改正(薬剤師法の見直し)を受けたものであり、医師のカルテ(5年保存)との期間の整合性を図り、長期的な医薬品の安全管理を強化する狙いがあります。
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私たちの生活への影響:患者側の特別な手続きは不要であり、過去の服薬歴や副作用情報が長期間正確に守られる安心感につながります。薬局側では保管体制の強化や電子処方箋をはじめとする医療DXへの移行が加速すると見込まれます。
お薬に関する記録は、一人ひとりの健康を守ってきた大切な医療の足跡です。保存期間が5年に延びることで、医療の安全性がより高まり、将来にわたって安心して治療を受けられる体制が整っていくことが期待されます。

