兵庫県立はりま姫路総合医療センター「肺がん疑い」を見落とし1年4カ月後に死亡。

兵庫県立はりま姫路総合医療センター「肺がん疑い」を見落とし1年4カ月後に死亡。

兵庫県立はりま姫路総合医療センターで、極めて深刻な医療事故が発生しました。70代の男性患者が、本来であれば早期に発見・治療が開始されるべきであった「肺がん」の兆候を1年4カ月もの間見落とされ、最終的にステージ3Aと診断された後に亡くなったというニュースです。

なぜ、高度な医療機器と専門医が揃う総合病院で、このような「見落とし」が起きてしまったのでしょうか。この事案の詳細な経過を辿りながら、医療現場に潜むシステム上の課題や、私たち患者側が自衛のために知っておくべきことについて解説します。

 

 

 

1. 2022年1月の「最初のサイン」

この問題の起点となったのは、2022年1月にまで遡ります。当時、男性患者は「旧姫路循環器病センター」において、腹部大動脈瘤(お腹の大きな血管が膨らむ病気)の手術を受けるための検査を行っていました。

この際に行われたCT検査の結果、報告書には「1cm大の肺結節(はいけっせつ)」という記載がありました。結節とは、肺の中にできる「影」や「塊」のようなものです。

しかし、この時点では患者に対してこの影に関する説明は行われませんでした。主目的が「腹部大動脈の手術」であったため、手術を担当した医師やチームが、肺にある小さな異常を重要視しなかった、あるいは確認が漏れていた可能性があります。これが、最初の「小さな見落とし」でした。

2. 決定的な「警告」が発せられた2022年3月

それから2カ月後の2022年3月、男性は今度は「胸部大動脈瘤」の手術のために入院します。術後の経過を確認するために撮影されたCT検査において、放射線診断科の医師(画像を専門に診断する医師)が非常に重要な所見を報告書に書き込みました。

– 結節の増大(影が大きくなっている)
– 肺がんの疑い
– 呼吸器内科へのコンサルト(相談・精密検査)が必要

放射線科医は、画像から「これはただの影ではなく、がんの可能性が高い」と判断し、主治医に対して明確にアクションを促すメッセージを発信していたのです。しかし、ここから事態は最悪の方向へ進みます。

はりま姫路総合医療センター

3. 「確認不足」と「思い込み」が招いた空白の1年

入院中の主治医は、この放射線科医による「肺がん疑い」の報告を確認しませんでした。その結果、必要な精密検査が行われないまま、男性は2022年4月に一旦退院することになります。

さらに追い打ちをかけたのが、退院後の外来を担当した医師の「思い込み」です。外来の主治医は、放射線科の報告書があることは認識していたものの、「入院中にすでに主治医が対応(検査や説明)を済ませているだろう」と判断し、自ら内容を再確認したり、患者に確認したりすることはありませんでした。

本来であれば、電子カルテ上で「未対応の重要な所見」としてアラートが出るべきところですが、当時のシステムや体制では、そこまでの連携が行われていませんでした。こうして、命に関わる重要な情報が、誰の手にも触れられないまま「情報の埋没」が起きてしまったのです。

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4. 1年4カ月後の発覚:ステージ3Aという残酷な現実

事態が急変したのは、それから1年以上が経過した2023年5月のことでした。男性は「閉塞性肺炎(へいそくせいはいえん)」の疑いで、はりま姫路総合医療センターへ緊急入院します。肺炎の原因を調べる中で、ようやく過去のCT報告書が見直され、2022年3月の時点で「肺がん疑い」が指摘されていたにもかかわらず、未対応であったことが発覚したのです。

改めて精密検査を行った結果、診断は「肺がん ステージ3A」。 がんが元の場所だけでなく、近くのリンパ節にまで転移している状態でした。

男性は2023年6月から、放射線治療と化学療法(抗がん剤)を併用する過酷な治療を開始しましたが、1年以上の空白期間はあまりにも長く、病状の進行を止めることはできませんでした。2024年8月、男性は自宅で亡くなりました。2022年3月の指摘から、約2年5カ月後のことでした。

5. なぜシステムは機能しなかったのか?

病院側は、事故の原因として以下の2点を挙げています。

① 「既読確認」だけで満足してしまったシステム

当時の病院には、CT検査の結果を医師が読んだかどうかを確認する「既読確認システム」は存在していました。しかし、これは「医師が画面を開いたか」を確認するだけのものであり、そこに書かれている「重要な所見(肺がんなど)」に対して、実際にどのようなアクション(検査や治療)が取られたかまでを追いかける仕組みではありませんでした。

② 診療科内での情報共有の欠如

手術を担当する外科と、その後のフォローを行う内科、あるいは画像を読影する放射線科。これらの科をまたぐ情報の受け渡しにおいて、カンファレンス(症例検討会)などの場でのチェック機能が十分に働いていませんでした。「誰かがやっているはずだ」という組織的な油断が、致命的なミスを生んでしまったと言えます。

6. 病院側が打ち出した「再発防止策」

今回の事故を受け、兵庫県立はりま姫路総合医療センターは以下の対策を講じると発表しました。

1. 「重要」フラグの設置と通知機能の強化
放射線科医が「これは急ぎで対応が必要だ」と判断した所見に「重要」というチェックを入れ、主治医だけでなく「医療安全部」など複数の部署に自動で通知が行くシステムに改修しました。一人の医師の確認漏れを、組織全体でカバーする仕組みです。

2. 対応記録の徹底と教育 重要な診断情報が見つかった際、どのように対応したかをカルテに記録することを徹底し、関係職員への周知・教育を再強化するとしています。

3. カンファレンスでの確認義務化 診療科内での会議において、画像診断の報告漏れがないかをリスト化してチェックする工程を組み込みました。

7. 私たち患者側ができる「自衛策」とは?

医療はプロに任せるべきものですが、今回のような人間によるミスやシステムの隙間をゼロにすることは困難です。自分や家族の身を守るために、以下のことを意識しておくことが大切です。

– 「他に気になる所見はありませんでしたか?」と質問する
メインの病気(今回で言えば大動脈瘤)以外の検査結果についても、念のため確認する姿勢を持つことが重要です。

– 検査報告書のコピーをもらう
最近では多くの病院で検査結果のコピーや、地域連携用のレポートをもらうことができます。自分で内容を確認し、聞き慣れない言葉(今回の「結節」など)があれば質問することができます。

– セカンドオピニオンや相談窓口の活用
もし治療経過に不安を感じたり、説明が不十分だと感じたりした場合は、病院内の「患者相談窓口」を活用するのも一つの手です。

 

 

 

まとめ

今回の兵庫県立はりま姫路総合医療センターでの医療事故は、個人の医師の注意不足だけでなく、組織としてのチェック機能やITシステムの不備が重なり合って起きた「防げたはずの悲劇」でした。

肺がんにおいて1年4カ月という時間は、早期発見・早期治療のチャンスを完全に奪い去ってしまうほど長い時間です。1cmの小さな結節の段階で適切な治療が始まっていれば、結果は全く違ったものになっていたかもしれません。

病院側はシステムの改修を約束していますが、私たち利用者も「医療は万全ではない」という前提に立ち、疑問があれば声を上げる勇気を持つことが、自分たちの命を守る最後の一線になるのではないでしょうか。

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