一宮市立市民病院の医療ミス:左足骨折に対し右足を手術した経緯と550万円の和解
一宮市立市民病院で発生した重大な医療過誤
愛知県一宮市にある「一宮市立市民病院」において、極めて重大な医療過誤(医療ミス)が発生したことが報じられました。2024年12月に発生したこの事故は、本来手術すべきではない「健康な方の足」に人工骨を埋め込んでしまうという、いわゆる「手術部位の左右取り違え」です。
2026年8月26日、病院側はこの事故に関して、被害に遭われた80代の女性患者側に対し、損害賠償金550万円を支払うことで和解が成立したことを公表しました。命に関わる手術も多い医療現場において、なぜこのような「左右を間違える」という初歩的かつ致命的なミスが起きてしまったのでしょうか。
本記事では、報道された事実に基づき、事故の経緯から原因、そして術後の対応と今後の再発防止策までを詳しく解説します。
1. 事件の概要:左足の骨折なのに右足を「手術」
この事故の始まりは2024年12月でした。80代の女性患者が転倒し、一宮市立市民病院に救急搬送、あるいは受診したところ、「左大腿骨頸部(ひだりだいたいこつけいぶ)骨折」と診断されました。
大腿骨頸部骨折とは
大腿骨頸部骨折とは、太ももの骨(大腿骨)の付け根、股関節に近い部分が折れてしまう骨折のことです。特に高齢者の場合、骨粗鬆症などで骨が弱くなっていると、転倒などの軽い衝撃でも折れやすく、歩行困難になるため、多くの場合で「人工骨」を挿入するなどの手術が必要となります。
この女性患者も、折れてしまった左足の機能を回復させるために、人工骨を入れる手術を受けることになっていました。しかし、実際に行われた手術は、骨折していない「右足」に対するものでした。
2. なぜミスは起きたのか? 判明した「3つの過失」
報道によると、今回のミスは単一のミスではなく、複数のチェック機能が働かなかったことによる「連鎖的な過失」であったことがわかっています。主な原因は以下の3点に集約されます。
① 手術承諾書への誤記載
最初にして最大の原因は、担当医師が手術の準備段階で作成する「手術承諾書」および「申込書」に、誤って「右大腿骨」と記載してしまったことです。医療現場において、書類はすべてのスタッフが共有する「正解」となる情報源です。この出発点の情報が間違っていたことが、後のすべての工程に影響を及ぼしました。
② 手術部位のマーキングミス
手術の前には、間違いを防ぐために患者の体に直接印をつける「マーキング」という作業が行われます。しかし、担当医師は書類の誤りに引きずられる形で、骨折していない「右足」に手術部位のマークを書き込んでしまいました。本来、このマーキングは画像診断結果(レントゲンなど)と照らし合わせながら慎重に行われるべきものですが、その確認が不十分だったといえます。
③ 電子カルテ(画像情報)の確認不足
最も不可解であり、かつ防げたはずのポイントがここです。手術室には通常、患者のレントゲン写真やCT画像を表示するモニターがあります。担当医師は、電子カルテに保存されていた「左足が折れている」という画像情報を再確認しないまま、右足への手術を開始してしまいました。目の前の画像を見れば一目で左右の違いは分かったはずですが、思い込みや確認作業の形骸化があったことは否定できません。
3. ミス発覚の瞬間と、その後の「二重の手術」
手術自体は無事に終了しましたが、その直後に行われた「術後X線(レントゲン)検査」で、戦慄の事実が判明します。
撮影されたレントゲン写真には、以下の状況が写し出されていました。
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本来手術すべきだった「左足」の骨折がそのまま残っている。
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骨折していないはずの「右足」に、人工骨が埋め込まれている。
この結果を受け、病院側は即座にミスを認識しました。手術当日のうちに患者本人と家族に対して説明と謝罪を行い、事態を報告しました。しかし、放置するわけにはいかないのが「左足の骨折」です。女性患者は、本来受ける必要のなかった右足の手術を終えたばかりの体に、さらなる負担を強いる形で、後日改めて左足の骨折治療(人工骨挿入)の手術を受けることとなりました。
わずか数日の間に、高齢の患者が二度の大きな手術を受けることになった身体的・精神的な苦痛は、計り知れないものがあります。
4. 損害賠償と和解の内容
病院側は、今回の事案が「診療契約上の義務違反(本来提供すべき適切な医療を提供しなかったこと)」に当たると認め、患者側との協議を続けてきました。
550万円の和解金
最終的に、患者に「後遺障害(事故の影響で体に残った不具合)」があると判定されたことを受け、病院側は損害賠償金として550万円を支払うことで和解しました。この内容は2026年9月の一宮市議会に議案として提出され、正式に承認される見通しです。
「550万円」という金額は、健康な足にメスを入れられ、人工物を入れられたこと、そして本来必要だった手術が遅れたこと、それらによる身体的機能の低下や精神的苦痛に対する補償として算出されたものです。
5. 病院側の謝罪と再発防止に向けた決意
一宮市立市民病院の志水清和院長は、今回の事態を重く受け止め、以下の趣旨のコメントを発表しています。
「患者様に必要のない手術を行い、身体的、精神的に大きな負担をお掛けしたことを深くお詫びします。二度とこのような事故を起こさないよう再発防止に努めてまいります」
具体的には、以下のような再発防止策が講じられるとしています。
再発防止策:複数人による徹底確認
これまでは医師個人の判断や確認に頼っていた部分があったことを反省し、今後は「手術前に電子カルテや画像を複数人で確認すること」を徹底するとしています。
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手術室に入る前のカンファレンス(会議)での確認
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麻酔をかける前、メスを入れる直前の「タイムアウト(一時停止)」での最終確認
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患者本人への部位確認の再徹底
これらは多くの医療機関で導入されている安全策ですが、今回の事故ではそれらが機能していなかった、あるいは形式化していた可能性があります。

6. 私たちが知っておくべきこと
このようなニュースを聞くと、「自分や家族が手術を受ける時も不安だ」と感じるのが当然の心理です。医療ミスを100%防ぐのは病院側の責任ですが、患者側ができる「自己防衛」についても考える必要があります。
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術前説明(インフォームドコンセント)の際、左右を一緒に指差し確認する。
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マーキングの際、「ここは左足で間違いないですね」とスタッフに声をかける。
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手術承諾書にサインする際、部位(右・左)の記述に間違いがないか一文字ずつ確認する。
もちろん、体調が悪い患者にこれを強いるのは酷な話ですが、ダブルチェックの「一人」に患者自身や家族が加わることは、事故を防ぐ最後の一線になることがあります。
まとめ
今回の愛知県一宮市立市民病院で起きた医療過誤は、「書類の書き間違え」「マーキングのミス」「画像確認の怠り」という、いくつものヒューマンエラーが重なった結果、骨折していない健康な足に人工骨を入れてしまうという最悪の事態を招きました。
80代という高齢の患者にとって、不要な手術と本来の手術の二度を経験することは、その後の生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。550万円という和解金が支払われることになりましたが、失われた健康な状態や負った心の傷が完全に癒えるわけではありません。
病院側には、今回の猛省を一時的なものに終わらせず、システムとして「間違えようがない仕組み」を構築することが求められています。私たちはこの事件を、単なる「遠くの出来事」としてではなく、医療安全の重要性を再認識する機会として捉えるべきでしょう。
以上、一宮市立市民病院で発生した手術部位誤認事故の事実関係と経緯のまとめでした。

