入院患者にスマートウォッチ導入!恵寿総合病院が挑む医療DXの最前線
病院の入院生活が大きく変わる画期的な取り組み
病気や怪我で入院した経験がある方や、ご家族の付き添いをしたことがある方なら、病棟での日常的な光景を思い浮かべることができるのではないでしょうか。決まった時間になると看護師さんが病室を訪れ、腕にカフと呼ばれる帯を巻いて血圧を測り、体温計を脇に挟み、指先に小さなセンサーを取り付けて血中の酸素濃度を測定します。こうした日々の測定は、患者さんの健康状態を把握し、異変にいち早く気づくために欠かせない大切な業務です。
しかし、このおなじみの光景が、最新のテクノロジーによって劇的に変わろうとしています。石川県七尾市にある社会医療法人財団董仙会「恵寿総合病院」が、入院患者さん向けにスマートウォッチを300台導入し、24時間体制でバイタルデータを自動取得するという極めて先進的な取り組みを発表しました。
私たちが日常生活で健康管理や運動の記録に使っているスマートウォッチを、本格的に病院の入院環境に組み込み、患者さんの命と健康を守るための医療機器として活用するという試みです。今回の取り組みは、単に便利なガジェットを導入したという話にとどまらず、これまでの医療のあり方や看護師さんの働き方を変える大きな可能性を秘めています。
なぜ今、病院でスマートウォッチが使われるようになったのでしょうか。どのような仕組みでデータが管理され、患者さんや医療現場にはどのようなメリットや課題があるのでしょうか。今回の恵寿総合病院による挑戦の全貌を詳しく紐解いていきます。
今回の取り組みの全貌:スマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2」の導入
恵寿総合病院の神野正博理事長は記者会見を開き、入院患者さんを対象としたスマートウォッチによるバイタルデータの24時間自動取得システムの運用開始を発表しました。導入される台数は実に300台にのぼり、一般的な病棟規模をカバーする本格的な実装となります。
医療機器として認められた最新端末を採用
今回採用された端末は、ファーウェイ(HUAWEI)が開発した「HUAWEI WATCH D2」です。一般的なスマートウォッチは健康増進やフィットネスを目的とした「ウェルネス機器」に分類されることが多いですが、この端末は日本の「管理医療機器認証」を正式に取得している点が決定的に異なります。
特に注目されるのが、手首での血圧測定機能です。従来、正確な血圧を測るためには上腕に大きな帯を巻き付けて圧迫する必要がありました。しかし、HUAWEI WATCH D2は超小型のポンプやカフを手首のベルト部分に内蔵しており、手首に装着した状態で精度の高い血圧測定が可能となっています。医療の現場で信頼できる測定値を出せる機器だからこそ、病院での全面的な採用に至りました。
自動取得される5つの重要生体データ
患者さんがこのスマートウォッチを腕に装着することで、以下の5つの生体データが24時間、自動的かつ継続的に測定されます。
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血圧:突発的な上昇や夜間の降下など、時間帯による変動を継続的に追跡します。
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心拍数:心臓の鼓動の速さやリズムの乱れをリアルタイムで検知します。
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SpO2(動脈血酸素飽和度):血液の中にどれくらい酸素が含まれているかを示し、呼吸不全などの兆候を捉えます。
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体温(皮膚温):発熱の兆候や体温リズムの変化を捉えます。
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睡眠分析:眠りの深さや覚醒のタイミングなど、入院生活における休養の質を可視化します。
「点」の測定から「線」のモニタリングへの転換
神野理事長は会見の中で、今回の導入によってバイタルデータを「点から線につなぐ」ことができると強調しました。
これまでの入院環境では、看護師さんが病室を巡回する「朝・昼・夕・就寝前」といった特定のタイミングでしか数値を測ることができませんでした。これは言わば、患者さんの状態を1日のうち数回だけ切り取った「点」の情報に過ぎません。測定と測定の間に何が起きていたのか、夜間に眠っている間に血圧や心拍数がどのように推移していたのかまでは把握できませんでした。
しかし、スマートウォッチによって24時間絶え間なくデータが取得できるようになれば、データは連続した「線」になります。一時的な数値の良し悪しだけでなく、「どのような傾向で変化しているのか」という全体の流れを把握できるようになり、医療の質を飛躍的に向上させることができます。
なぜ導入されたのか?医療現場が抱える課題と導入の背景
恵寿総合病院がこのような大規模なデジタル化に踏み切った背景には、日本の医療現場が共通して直面している深刻な課題と、同院が長年積み重ねてきた改革の歴史があります。
看護師が抱える業務負担の軽減
現代の病院では、少子高齢化に伴って重症度や介護度の高い患者さんが増える一方、医療従事者の人手不足が深刻化しています。その中で看護師さんの日々の業務量は非常に多く、業務負担の軽減は全国の病院における喫緊の課題です。
入院患者さん全員のバイタルサインを定期的に測り、それを電子カルテに手作業で入力する作業は、1回あたりは数分であっても、病棟全体で1日に何十人分、何百回と繰り返せば膨大な時間になります。神野理事長は、このルーティンワークを自動化することで生まれた貴重な時間を、患者さんとの対話や直接的な手厚いケア、観察などに振り向けることが最大の目的であると明言しています。
機械ができることは機械に任せ、人間である医療従事者は「人にしかできない温かいケア」に全力を注ぐという考え方が、今回の導入の根底にあります。
先進的な医療DXを進めてきた「KEIJU DX」の土台
恵寿総合病院は、今回の取り組みを突然始めたわけではありません。同院はこれまでも「KEIJU DX」を合言葉に、全国に先駆けて先進的なデジタル技術を取り入れてきました。
診療支援への人工知能(AI)の活用、定型業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入、医療と介護の情報をシームレスにつなぐ統合電子カルテの運用など、徹底した業務改革を行ってきた実績があります。こうしたデジタルインフラの確固たる土台があったからこそ、300台ものスマートウォッチを院内システムに直接接続するという前例のない挑戦が可能となりました。
どのような仕組みで動いているのか?安全性とネットワークの裏側
患者さんが身につけたスマートウォッチが、どのようにして病院のシステムとつながり、カルテに反映されるのか、その技術的な仕組みについて解説します。
院内ネットワークを経由した安全なデータ送信の流れ
データの流れは非常に緻密に設計されています。
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患者さんの手首(端末):スマートウォッチが各種データを自動測定します。
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Bluetooth通信:測定されたデータは、電波を使って院内の天井や壁に設置された「アクセスポイント」へとワイヤレスで送られます。
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新設バイタル情報サーバー:アクセスポイントを経由したデータは、病院内に新しく設置された専用のサーバーに集められ、安全に保管されます。
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電子カルテサーバー&病棟管理画面へ連携:バイタル情報サーバーから、医師や看護師が閲覧する「電子カルテ」にデータが自動的に反映されます。同時に、病棟のスタッフステーションにある大型管理モニターにもリアルタイムで情報が表示されます。
スタッフステーションでの一括見守り
ナースステーション(スタッフステーション)の管理モニターには、担当する病棟の患者さんのバイタルデータが一覧で表示されます。わざわざ病室まで走っていかなくても、患者さんの心拍数や血圧の状況、体調の急変などをその場で俯瞰して把握できます。
さらに、この管理画面では端末自体の「電池残量」も一目で確認できるようになっています。スマートウォッチのバッテリーが切れて測定が途切れてしまうことがないよう、看護師さんが適切なタイミングで充電や交換を行える配慮がなされています。
電子カルテ記録の透明性とセキュリティ対策
電子カルテにデータが自動入力される際、カルテ上の「入力者欄」には、人間である看護師が手入力したものではなく「スマートウォッチが取得したデータである」ことがはっきりと識別できるようにシステムが組まれています。これによって、誰が、あるいは何が記録したデータなのかという責任の所在や記録の透明性が厳密に保たれます。
また、医療データは極めてプライベートな個人情報であるため、セキュリティ面への配慮も万全に講じられています。神野理事長の説明によると、今回のデータ通信網は完全に外部から遮断された「閉域ネットワーク」の中で運用されており、一般的なインターネット網を経由して電子カルテが外部にさらされる危険はありません。
さらに、取得されたバイタルデータはすべて病院側に帰属し、端末メーカーなどの外部パートナー企業がデータにアクセスしたり立ち入ったりすることはできない方針が徹底されています。個人情報の保護と強固な情報セキュリティがしっかりと両立された構造です。

早期警告スコア(NEWS)との連動がもたらす革新
今回の取り組みにおいて、単なる測定の自動化を超えた最も画期的なポイントが、「早期警告スコア(NEWS)」とのシステム連動です。
早期警告スコア(NEWS)とは何か
NEWS(National Early Warning Score)とは、英国の国民保健サービス(NHS)などで開発され、世界中の医療現場で広く使われている「患者さんの急変リスクを評価する指標」です。
呼吸数、血中酸素飽和度(SpO2)、体温、血圧、脈拍数、意識レベルといった複数のバイタルサインの数値を組み合わせて計算し、患者さんの容体が危険な状態に近づいていないかを客観的なスコア(点数)として算出します。点数が高くなればなるほど、数時間以内に容体が急激に悪化するリスクが高いことを意味し、医師の緊急診察や集中治療室への移動などの対応が速やかに取られます。
恵寿総合病院ではすでにこのNEWSを自動算出するシステムを導入していましたが、これまでは看護師さんが手動で測定した数値をもとに計算していました。
スマートウォッチ連動による「見逃しゼロ」への挑戦
ここにスマートウォッチの連続データが結びつくことで、医療の安全性は飛躍的に高まります。
人間の身体は、日中元気そうに見えても、夜間の眠っている間に血圧が急激に乱れたり、知らず知らずのうちに酸素濃度が低下したりすることがあります。これまでの数時間おきの定期巡回では、次の巡回までの「すきま時間」に起きた急激な体調変化を見落としてしまう可能性がゼロではありませんでした。
24時間途切れずに届くバイタルデータをもとにNEWSスコアがリアルタイムで更新されれば、患者さん自身が自覚症状を訴える前や、見た目には異変が現れていない初期の段階で、「数値のバランスが崩れ始めている」という危険信号をシステムが自動で察知して医療スタッフに知らせてくれます。突発的な心筋梗塞や脳卒中、夜間の呼吸障害、あるいはベッドからの転倒事故につながるような血圧低下などを未然に防ぐ「予見型の予防医療」が可能になるのです。
患者と医療従事者双方における「メリット」
スマートウォッチの導入は、患者さんにとっても、日々命を預かる医療従事者にとっても、非常に多くの恩恵をもたらします。ここでは具体的なメリットを整理してみましょう。
患者側のメリット
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夜間の睡眠が妨げられない
入院中の大きなストレスの一つが、夜間の検温や血圧測定で目を覚まされてしまうことです。スマートウォッチが腕に巻かれていれば、看護師さんが真夜中に明かりをつけて腕を圧迫したり体温計を挟んだりする必要がなくなります。患者さんは朝までぐっすりと眠ることができ、治療や回復に専念できます。 -
常に見守られているという大きな安心感
一人で病室にいるとき、「もし急に胸が苦しくなったらどうしよう」「誰も気づいてくれなかったらどうしよう」という不安を感じる患者さんは少なくありません。24時間体制でデータがナースステーションに届いているという事実は、孤独感や不安を和らげる大きな精神的支えになります。 -
看護師さんとの対話や心のケアが増える
作業に追われていた看護師さんの時間が浮くことで、「最近の体調はどうですか」「不安なことはありませんか」といった日常のコミュニケーションの時間が増えます。医療機器に囲まれた無機質な入院生活ではなく、人間味のある手厚い看護を受けられるようになります。 -
隠れた病気や異常の早期発見
普段の生活や短い検査では分からなかった「夜間だけの不整脈」や「睡眠時無呼吸の兆候」などが見つかり、より的確な治療や投薬調整につながります。
医療従事者(看護師・医師)側のメリット
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訪床・測定・記録にかかる作業時間の大幅削減
各病室を回って血圧や体温を測り、ナースステーションに戻って電子カルテ端末に数値を打ち込むという一連の作業が自動化されます。病棟全体で見れば毎日何十時間分もの労働時間が削減され、業務の効率化が劇的に進みます。 -
転記ミスや入力漏れなどのヒューマンエラー防止
人間が数値をメモしてカルテに入力する過程では、どうしても聞き間違いや打ち間違いといったミスが発生するリスクがあります。機械からサーバーへ直接データが送られることで、データの正確性が100%担保され、医療事故の防止につながります。 -
変化の流れ(トレンド)を把握した的確な診断
医師にとっても、断片的な数値ではなく24時間の連続したグラフとして患者さんの状態を確認できるため、「薬を飲んだ後に血圧がどのように変化したか」「リハビリ中に心拍数がどう上がったか」などを詳細に分析でき、より適切な治療方針を決定できます。 -
精神的ストレスの軽減と働き方改革
「巡回の合間に容体が急変していないだろうか」という看護師さんの心理的プレッシャーが軽減されます。また、残業時間の削減や過重労働の解消につながり、医療現場の働きやすい環境づくりに大きく貢献します。
考慮すべき課題や「デメリット・注意点」
どんなに優れた最新技術であっても、完璧なものはありません。医療の現場にスマートウォッチを本格導入する上では、いくつかの課題やデメリット、現場での細やかな配慮が必要になります。
患者側のデメリットや懸念点
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長時間の装着による身体的負担・肌トラブル
スマートウォッチを24時間、何日も連続して装着し続けると、ベルトによる締め付け感や、汗による蒸れ、皮膚のかぶれやかゆみといった肌トラブルが起きる可能性があります。特に高齢の患者さんは皮膚が薄くデリケートであるため、定期的な皮膚の観察や装着する腕の交換などの配慮が欠かせません。 -
すべての患者さんが装着できるわけではない(対象の選定)
恵寿総合病院の事前の実装実験でも明らかになった通り、すべての患者さんに一律に導入できるわけではありません。-
重症患者や集中治療室(ICU)の患者さん:より高度で侵襲的な精密医療機器が必要となるため対象外となります。
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認知症のある患者さん:腕に機器が巻き付いていることを不快に感じて自分で外してしま危険があります。
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著しく痩せている患者さん:手首が細すぎるとベルトがフィットせず、正確な血圧や脈拍のデータが測定できない、あるいは骨に当たって痛みを感じることがあります。
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退院間近の患者さん:すでに容体が安定しており常時モニタリングの必要性が低いケースもあります。
同院でも、患者さんの理解と同意を前提とし、上記のような装着自体が負担や拒否感につながる患者さんはあらかじめ対象から除外する方針をとっています。
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「常に監視されている」という心理的ストレス
一部の患者さんにとっては、プライベートな睡眠の様子や生体データが24時間ナースステーションに筒抜けになっている状態が、「自由を奪われている」「常に見張られている」という息苦しさにつながる可能性もあります。プライバシーへの配慮と丁寧な事前説明が不可欠です。
医療機関側の運用上の課題
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バッテリー管理と機器のメンテナンス負担
300台ものスマートウォッチを日常的に運用するためには、定期的な充電作業や故障のチェック、機器の清掃・消毒を徹底しなければなりません。前の患者さんが使った端末を次の患者さんに受け渡す際の衛生管理(院内感染防止)のルール作りと、それを実行する現場スタッフの手間が発生します。 -
通信環境の安定性とデータ欠損のリスク
病院の建物は分厚いコンクリートや医療機器の電波シールドで覆われていることが多く、場所によってはBluetoothや電波が届きにくいエリアが発生することがあります。電波が途切れてデータが正しく送信されなかった場合のバックアップ体制や、機器の不具合時にどう対応するかといったトラブルシューティングの手順が求められます。 -
「アラーム疲れ」への対策
24時間絶え間なく数値を監視していると、患者さんが寝返りを打っただけの一時的な脈拍の上昇や、少し体が動いたことによる測定エラーでも警告音(アラート)が鳴ってしまうことがあります。あまりにも頻繁に警告が鳴ると、現場のスタッフがアラートに慣れてしまい、本当の緊急事態への反応が遅れる「アラーム疲労」を引き起こす恐れがあります。本当に危険なときだけ適切に知らせるよう、スコアの基準(閾値)を現場に合わせて細かくチューニングし続ける必要があります。 -
機器の導入費用と維持コスト
医療機器認証を取得したスマートウォッチを300台揃え、院内のアクセスポイントを整備し、専用サーバーを構築して電子カルテと連携させるには相応の初期投資が必要です。さらに、数年ごとの端末のバッテリー劣化による買い替えやシステムの保守費用など、継続的なコストをどう工面していくかも病院経営上の重要なテーマとなります。
世界初とされる挑戦が示唆する「これからのスマートホスピタル」
神野理事長は会見の中で、「このような取り組みはスマートホスピタル先進国でも実現されていない世界初の試みだ」と胸を張りました。
欧米やアジアの医療先進国でも、スマートウォッチやウェアラブルデバイスを用いた健康管理の実証実験は数多く行われています。しかし、その多くは退院後の在宅患者の見守りや、特定の病気を持つ人を対象とした一時的な臨床研究にとどまっていました。
今回のように、病院という公的な入院環境の中で、300台という大規模な規模で、管理医療機器認証を受けた端末を使い、院内サーバーから電子カルテ、そして早期警告スコア(NEWS)にまで完全に連動させて日常診療として運用する試みは、まさに世界に類を見ない先進的な事例です。
この取り組みは、日本が直面している「超高齢社会」と「医療現場の人手不足」という2つの大きな壁を乗り越えるための、極めて現実的で効果的な解決モデルとなり得ます。
デジタル技術を活用して業務を省力化することは、決して医療を冷たい機械任せにすることではありません。むしろ、機械に任せられる単純作業をテクノロジーに肩代わりさせることによって、看護師さんや医師が「患者さんの目を見て話し、手を握り、不安に寄り添う」という、人間にしかできない本質的なケアの時間を最大限に取り戻すための手段なのです。
まとめ:テクノロジーが切り拓く、患者と医療者が共に安心できる未来
恵寿総合病院による入院患者向けスマートウォッチ300台の導入は、日本の医療DXにおける記念碑的な一歩と言えます。
日常的に使われるウェアラブル端末の利便性と、医療機器としての信頼性が融合したことで、これまでは「数時間ごとの点の情報」でしかなかったバイタルサインが「24時間途切れない線の情報」へと進化しました。この連続したデータが電子カルテや早期警告スコア(NEWS)とリアルタイムにつながることで、病気の予兆や容体の急変を未然に察知し、患者さんの命を守る医療のセーフティネットが何重にも強化されます。
一方で、肌への負担や認知症の患者さんへの適用制限、充電や衛生管理といった運用面の課題も存在します。しかし、同院のように患者さんの状態や希望を丁寧に汲み取りながら対象を適切に選定し、強固な閉域ネットワークでプライバシーを守る運用を行っていくことで、こうした課題も一つずつ乗り越えられていくはずです。
「機械が人を診る」のではなく、「機械が人を支え、人が人を手厚く癒やす」。今回の挑戦は、これからのスマートホスピタルが目指すべき理想的な未来の姿を、私たちに力強く示してくれています。石川県七尾市の病院から始まったこの先進的な試みが、今後全国の、そして世界中の病院へと広がり、より安心で温かい医療が当たり前になる日が訪れることを大いに期待したいところです。

