エボラ等の重症者に対応する拠点病院を新指定へ!特定・第一種医療機関の仕組みを解説
厚生労働省は、エボラ出血熱をはじめとする「1類感染症」の重症患者を受け入れるための「拠点病院」を新たに指定する方針を固めました。これは、日本国内の感染症対策をより強固なものにするための大きな一歩です。
しかし、ニュースなどで「特定感染症指定医療機関」や「第一種感染症指定医療機関」といった言葉を聞いても、具体的にどのような役割の違いがあるのか、なぜ今、新たな拠点が必要なのかを正確に理解するのは難しいかもしれません。
この記事では、日本の感染症診療体制の仕組みと、今回の新たな指定検討の背景について詳しく解説します。
1. はじめに:なぜ今、エボラ出血熱への対策が急務なのか
現在、アフリカ中部のコンゴ民主共和国を中心に、エボラ出血熱の感染者が増加しています。かつては「遠い国の出来事」と考えられていた海外の感染症ですが、現代はグローバル化により、世界中の人々が数日のうちに国境を越えて移動します。実際に、アフリカからフランスに帰国した人の感染も確認されており、日本国内にいつ感染者が流入してもおかしくない状況にあります。
エボラ出血熱のような感染症は、致死率が極めて高く、一度国内で広がれば社会に甚大な影響を及ぼします。そのため、厚生労働省は2026年7月(専門家部会での方針提示)から、2027年度以降にかけて、より高度な治療ができる病院を全国に5〜10か所程度、新たに「拠点」として指定する検討に入りました。
2. 「1類感染症」とは? 最も危険な7つの感染症
日本の「感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)」では、感染力や致死率、社会への影響度に基づいて、感染症を1類から5類、さらには指定感染症や新感染症に分類しています。
今回の拠点病院指定の対象となる「1類感染症」は、その中で最も危険性が高く、厳重な対応が必要なグループです。現在、以下の7種類が指定されています。
① エボラ出血熱
エボラウイルスによる感染症です。患者の体液(血液、吐瀉物、排泄物など)に直接触れることで感染します。高熱や頭痛、筋肉痛に始まり、進行すると全身から出血し、多臓器不全に陥ります。致死率は非常に高く、25%から90%に達することもあります。
② クリミア・コンゴ出血熱
ウイルスを保有するダニに噛まれたり、感染した動物の血液に触れたりすることで感染します。重症化すると皮下出血や鼻血、血尿などが見られ、致死率は10%から40%程度です。
③ 痘そう(天然痘)
かつて「不治の病」として恐れられた強力な感染症です。1980年にWHOが地球上からの根絶を宣言しましたが、ウイルスの軍事利用やバイオテロへの懸念から、現在も1類感染症に分類されています。
④ 南米出血熱
南米(アルゼンチン、ボリビア、ベネズエラなど)に生息する特定のネズミから、その排泄物を介して人に感染します。高熱とともに内臓からの出血が起こります。
⑤ ペスト
「黒死病」として歴史的に有名な細菌感染症です。主にノミやネズミを介して感染します。肺ペストの場合、人から人への飛沫感染が起こり、治療が遅れるとほぼ100%死亡するという極めて恐ろしい疾患です。
⑥ マールブルグ病
エボラ出血熱と似た症状を引き起こすウイルス性疾患です。中央アフリカで発見され、致死率は24%から88%と報告されています。
⑦ ラッサ熱
西アフリカで主に見られる感染症で、ネズミの排泄物を介して感染します。エボラほど致死率は高くありませんが、重症化すると聴覚障害などの後遺症が残ることがあります。
これら「1類感染症」は、共通して「極めて高い致死率」と「人から人への感染リスク」を持っており、診療には特別な設備と高度な訓練を受けたスタッフが不可欠です。
3. 現在の診療体制:「特定」と「第一種」の違い
現在、日本で1類感染症の患者を受け入れることができる医療機関は、法律に基づいて都道府県知事や厚生労働大臣が指定しています。大きく分けて「特定感染症指定医療機関」と「第一種感染症指定医療機関」の2種類があります。
特定感染症指定医療機関(全国に4施設)
国(厚生労働大臣)が指定する、日本で最も高度な感染症診療能力を持つ病院です。
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役割: 全国的な見地から、1類感染症や新感染症(未知のウイルスなど)の患者を受け入れます。また、他の医療機関への指導や研究も行います。
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施設例: 成田赤十字病院、国立国際医療研究センター病院(東京)、常滑市民病院(愛知)、りんくう総合医療センター(大阪)の4施設のみです(2025年4月時点)。
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設備: 完全に隔離された病室、高度な換気システム(陰圧室)、医療従事者を守る防護装備が完備されています。
第一種感染症指定医療機関(全国に約56施設)
都道府県知事が指定する病院です。
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役割: 各地域(都道府県)において、1類感染症の患者を最初に入院・治療する役割を担います。
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現状: 原則として各都道府県に1か所以上設置されています。
これまで、1類感染症の疑いがある人が見つかった場合、まずはこれらの「特定」や「第一種」の病院に入院することになっていました。
4. なぜ「新たな拠点病院」が必要なのか? 現状の課題
一見、今の体制でも十分にカバーできているように見えますが、実は深刻な課題が浮き彫りになっています。
① 設備の老朽化とスペースの不足
多くの第一種指定医療機関は、数十年前に整備された施設です。読売新聞の調査によると、約7割の施設が「受け入れ態勢が不十分」と回答しています。具体的には、病室が狭すぎて人工呼吸器やECMO(人工肺)などの大型機器を持ち込むスペースがない、といった問題があります。
② 専門医とスタッフの不足
1類感染症の重症患者を治療するには、感染症の専門医だけでなく、集中治療(ICU)の専門医、そして高度な防護服を着用したまま数時間に及ぶケアができる看護師チームが必要です。しかし、地方の指定病院ではこうした専門スタッフが常に揃っているわけではありません。
③ 「完治を目指した治療」が困難
同じく調査では、4割の施設が「集中治療など完治を目指した治療ができない」と答えています。これまでは「感染を広げないために隔離する」ことに重きが置かれてきましたが、現在の医療水準では「隔離しながら、高度な医療機器を駆使して患者の命を救う」ことが求められています。今のままでは、隔離はできても、重症化した患者を救命しきれない恐れがあるのです。

5. 新たな拠点病院構想:2026年度からの新体制
こうした課題を解決するため、厚生労働省が進めているのが「拠点病院の再編・強化」です。
5〜10か所の精鋭病院を指定
全国56ある第一種指定医療機関の中から、特に設備が整い、専門の人員が確保できる5〜10施設を「重症患者対応の拠点」として新たに選定します。これにより、全国どこで感染者が発生しても、最寄りの拠点で最高水準の集中治療が受けられる体制を作ります。
搬送システムの構築
1類感染症の患者を移動させるのは非常にリスクが高い行為です。そのため、専用の車両(高度な隔離機能を持つ救急車など)の配備や、県境を越えてスムーズに患者を運ぶためのルール作りも検討されます。
役割分担の明確化
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地域の第一種病院: まずは患者を収容し、診断と初期治療を行う。
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新指定の拠点病院: 重症化した場合や、より高度な生命維持装置が必要な場合に転院を受け入れる。
このように役割を分担することで、限られた医療資源(高度な医療機器や専門家)を効率的に活用しようとしています。
6. 私たちが知っておくべきこと
エボラ出血熱のような恐ろしい感染症のニュースを聞くと、不安を感じるかもしれません。しかし、今回の拠点病院の指定検討は、私たちが安心して暮らせるための「盾」をより強く、厚くするための取り組みです。
1類感染症は、適切に隔離され、専門的な管理下で治療が行われれば、一般社会で爆発的に広がることは稀です。大切なのは、万が一国内にウイルスが入ってきたときに、医療現場が混乱せず、迅速に「最強のチーム」で対応できる準備をしておくことです。
政府は今後、医師や看護師の数、設備の基準などを具体的に議論し、2027年度以降の本格運用を目指します。これには多額の予算や、地域の理解も必要になりますが、将来のパンデミックから命を守るためには避けて通れない道と言えるでしょう。
7. まとめ
今回の厚生労働省による「1類感染症拠点病院」の新たな指定検討について、ポイントを振り返ります。
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背景: アフリカでのエボラ出血熱流行や海外交流の活発化により、国内流入リスクが高まっている。
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1類感染症の脅威: エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱など、極めて致死率が高く、特別な対策が必要な7つの病気。
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現行体制の課題: 「特定」「第一種」の指定医療機関はあるものの、重症患者を救命するためのスペースや専門医、設備が不足している施設が約7割に上る。
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新たな対策: 全国に5〜10か所の「拠点病院」を選び、重症者を集中的に治療できる体制を整える。2027年度以降の指定を目指す。
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今後の展望: 県境を越えた搬送体制の整備や、運営支援(予算措置)などを通じて、国内の感染症防御力を最大化する。
感染症対策は、平時からの準備がすべてです。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ことなく、こうした地道な医療体制の強化が進むことは、私たちの安全な生活を支える礎となります。今後も、この新しい診療体制がどのように構築されていくのか、注目していく必要があります。
