6種混合ワクチンの治験開始!乳幼児の予防接種の負担と未来の利便性
乳幼児期の子育てを経験された方や、現在まさに渦中にいらっしゃる方なら、生後2か月から始まる予防接種スケジュールの過密さに驚かれた経験があるのではないでしょうか。母子健康手帳を開き、カレンダーとにらめっこをしながら予約を取り、当日はぐずる赤ちゃんを連れてクリニックへ通う日々に、大きな労力を感じた方も少なくないはずです。
そうした中、子育て世帯や医療現場にとって極めて喜ばしいニュースが飛び込んできました。一般財団法人阪大微生物病研究会(BIKEN財団)と田辺ファーマ株式会社が共同開発を進めている「6種混合ワクチン」について、国内での第Ⅲ相臨床試験(治験)における初回投与が開始されたことが発表されました。
この新しいワクチンは、現在定期接種として用いられている「5種混合ワクチン」に「B型肝炎ワクチン」をひとつにまとめたものです。実用化されれば、子どもたちが注射を受ける回数や保護者の通院負担を大きく減らすことが期待されています。
この記事では、今回発表された6種混合ワクチンの臨床試験の背景を踏まえながら、現在日本で行われている乳幼児のワクチン接種の頻度や回数の実態、そして6種混合ワクチンが実現した際にどのような利便性がもたらされるのかについて詳しく解説していきます。
予防接種の基礎知識と混合ワクチンの進化の歴史
なぜ予防接種が必要なのか
予防接種の目的は、大きく分けて2つあります。1つ目は、接種を受けた本人を感染症の重症化や後遺症、あるいは死亡から守る「個人防衛」です。生まれたばかりの赤ちゃんは、母親から胎盤や母乳を通じて免疫(移行抗体)を受け取っていますが、この免疫は生後数か月の間に急速に失われていきます。そのため、病原体に触れる前にワクチンによって自前の免疫を作ることが不可欠です。
2つ目は、社会全体で病気の蔓延を防ぐ「集団免疫」の形成です。社会の中で多くの人が免疫を持つことで、病原体が広がる経路を遮断し、何らかの基礎疾患やアレルギーがあってワクチンを受けられない子どもたちをも間接的に守ることにつながります。
「混合ワクチン」が歩んできた進化の歴史
かつては多くのワクチンが1種類ずつ単独で接種されていました。しかし、予防できる感染症が増えるにつれて接種回数が増大し、子どもや保護者の負担が限界に達することから、複数の成分をあらかじめ1本の注射液にまとめた「混合ワクチン」の開発が進められてきました。
日本の乳幼児定期予防接種における混合ワクチンの歩みを振り返ると、着実に進化を遂げてきたことが分かります。
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3種混合ワクチン(DPT): ジフテリア(D)、百日せき(P)、破傷風(T)の3つの感染症を予防するワクチンとして長年親しまれました。
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4種混合ワクチン(DPT-IPV): 2012年、それまで生ワクチンとして経口投与されていたポリオ(急性灰白髄炎)を不活化ポリオ(IPV)として3種混合に加え、4つの病気を1本で予防できるようになりました。
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5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib): 2024年4月から定期接種に導入されました。従来の4種混合に、乳幼児の細菌性髄膜炎などの重篤な疾患を引き起こすHib(ヒブ:インフルエンザ菌b型)ワクチンを統合したものです。
そして今回、第Ⅲ相臨床試験が始まったのが、5種混合にさらにB型肝炎(HBV)を統合した「6種混合ワクチン」です。ワクチンの歴史は、まさに「予防できる病気を増やしながら、いかに注射の回数を減らすか」という開発の歴史でもあります。
現在の乳幼児におけるワクチン接種の頻度と回数
6種混合ワクチンの意義をより深く捉えるために、まずは現在の子どもたちが2歳までに受けているワクチンの頻度や回数、その過密なスケジュールについて整理してみましょう。
2歳までに推奨される定期接種の総回数は「17回以上」
現在、日本の定期接種スケジュールにおいて、生後2か月から2歳を迎えるまでに受けることが推奨されているワクチンの総接種回数は、実に「17回以上」にのぼります。これに任意接種であるおたふくかぜワクチンや、毎年のインフルエンザワクチンを加えると、注射の総回数は20回を超えることも珍しくありません。
以下は、現在定期接種として位置づけられている主なワクチンの種類と、標準的な接種回数の一覧です。
■ 5種混合ワクチン(百日せき・ジフテリア・破傷風・ポリオ・ヒブ):計4回
- 初回免疫:生後2か月から開始し、20日以上(標準的には20~56日)の間隔をあけて3回接種します。
- 追加免疫:3回目の接種終了後、6か月以上(標準的には6~18か月)の間隔をあけて1回接種します。通常は1歳以降に接種します。
■ 小児用肺炎球菌ワクチン:計4回
- 初回免疫:生後2か月から開始し、27日以上の間隔をあけて3回接種します。
- 追加免疫:初回接種終了後60日以上の間隔をあけ、1歳を過ぎてから(標準的には生後12~15か月)1回接種します。
■ B型肝炎ワクチン:計3回
- 生後2か月頃から接種を開始します。1回目の接種後、27日以上の間隔をあけて2回目を接種し、さらに1回目の接種から139日(20週)以上の間隔をあけて3回目を接種します。標準的には、生後2か月、3か月、7~8か月頃に接種します。
■ ロタウイルスワクチン(経口弱毒生ワクチン):計2回または3回
- 使用するワクチンによって、2回接種(ロタリックス)または3回接種(ロタテック)を行います。
- 生後2か月頃から接種を開始し、各接種の間隔を27日以上あけます。
- ロタリックスは生後24週まで、ロタテックは生後32週までに接種を完了します。
■ BCGワクチン(結核予防):計1回
- 生後5か月から8か月未満での接種が標準です。
- 上腕に管針(スタンプ状の器具)を用いて接種します。
■ 麻しん風しん混合ワクチン(MR):第1期 1回
- 1歳になったらできるだけ早い時期に接種します。
- 接種対象期間は1歳から2歳の誕生日の前日までです。
■ 水痘(水ぼうそう)ワクチン:計2回
- 1歳を過ぎたら1回目を接種します。
- 1回目の接種後、3か月以上(標準的には6~12か月)の間隔をあけて2回目を接種します。
■ 日本脳炎ワクチン:第1期 計3回
- 第1期初回:3歳から接種を開始し、6日以上(標準的には1~4週間)の間隔をあけて2回接種します。
- 第1期追加:2回目の接種からおおむね1年後に1回接種します。
- 標準的な接種開始年齢は3歳ですが、特別な事情がある場合は生後6か月から接種することも可能です。
生後2か月から生後6か月に集中する通院スケジュール
上記のリストを見ると分かる通り、特に過密を極めるのが「生後2か月から生後6か月」の時期です。
生まれたばかりの赤ちゃんを抱え、授乳や夜泣きで睡眠不足が続く中、生後2か月を迎えると同時に予防接種がスタートします。日本小児科学会では、必要な免疫を早期に獲得するために、1回の通院で複数のワクチンを同時に腕や太ももに接種する「同時接種」を推奨しています。
具体的には、標準的なスケジュールでは次のような通院サイクルになります。
生後2か月頃
- 5種混合(1回目)
- 小児用肺炎球菌(1回目)
- B型肝炎(1回目)
- ロタウイルス(1回目)
- 注射3本+経口1種
生後3か月頃(前回接種から27日以上後)
- 5種混合(2回目)
- 小児用肺炎球菌(2回目)
- B型肝炎(2回目)
- ロタウイルス(2回目)
- 注射3本+経口1種
生後4か月頃(前回接種から27日以上後)
- 5種混合(3回目)
- 小児用肺炎球菌(3回目)
- ロタウイルス(3回目:ロタテックの場合のみ)
- 注射2本(ロタテックの場合は経口1種追加)
生後5~8か月頃
- BCG
- 標準的な接種時期は生後5~8か月未満
生後7~8か月頃
- B型肝炎(3回目)
- 注射1本
このように、生後半年までの赤ちゃんは、ほぼ毎月のようにクリニックを訪れ、多いときには左右の腕や太ももに1日で3本もの注射を受けることになります。
注射を打たれて激しく泣き叫ぶ我が子をなだめ、接種部位の腫れや副反応による発熱に気を揉む親の心労は、想像以上に大きなものです。さらに、体調を崩しやすい乳幼児期には、急な発熱で接種予約がキャンセルとなり、スケジュールを再調整しなければならない事態も日常茶飯事となっています。
今回治験が始まった6種混合ワクチン(BK1803/MT-1803)とは
過密な接種スケジュールの負担を和らげる鍵として期待されているのが、今回BIKEN財団と田辺ファーマが発表した6種混合ワクチンです。
予防できる6つの疾患
このワクチンがカバーするのは、乳幼児にとって極めて脅威となる以下の6つの感染症です。
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百日せき: 百日咳菌の感染によって起こり、激しい咳の発作が長期間続きます。乳児期にかかると無呼吸発作や脳症を引き起こし、命に関わることがあります。
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ジフテリア: ジフテリア菌の毒素によって喉の粘膜に偽膜が作られ、気道が塞がって呼吸困難に陥る危険な疾患です。神経や心臓に重い障害を残すことがあります。
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破傷風: 土壌などに広く存在する破傷風菌が傷口から侵入し、強力な神経毒素を放出します。全身の筋肉が硬直や痙攣を起こし、重篤化すると呼吸不全に至ります。
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急性灰白髄炎(ポリオ): ポリオウイルスの感染により手足に弛緩性の麻痺が生じ、後遺症として運動麻痺が残ることがあります。「小児麻痺」とも呼ばれます。
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Hib(ヒブ)感染症: インフルエンザ菌b型による感染症で、乳幼児の細菌性髄膜炎や喉頭蓋炎の主要な原因となります。発症すると急速に悪化し、命を落としたり後遺症が残ったりする危険があります。
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B型肝炎: B型肝炎ウイルスに感染することで肝炎を引き起こします。乳幼児期に感染するとウイルスが体内に住み着く持続感染(キャリア化)が起きやすく、将来的に慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんを発症するリスクが高まります。
第Ⅲ相臨床試験(フェーズ3)の目的と意義
新薬や新しいワクチンが一般に使えるようになるまでには、通常、第Ⅰ相から第Ⅲ相までの臨床試験を経て、国による審査と承認を受ける必要があります。
今回開始された「第Ⅲ相臨床試験」は、実用化に向けた最終段階の試験です。多数の被験者を対象に、新薬がこれまでの既存薬と比べて同等以上の効果(免疫原性)を持つか、そして安全性に問題がないかを科学的かつ厳密に検証します。
今回の試験では、開発中の6種混合ワクチンを接種したグループと、すでに承認されて広く使われている「5種混合ワクチン+B型肝炎ワクチン」を別々に接種したグループを比較し、6種混合ワクチンの効果が既存の組み合わせに対して劣っていないこと(非劣性)と、発熱や局所の腫れなどの副反応の頻度・重症度を確かめることを目的としています。
国の開発要請を受けた最優先プロジェクト
この6種混合ワクチンの開発は、単なる一企業の事業にとどまりません。厚生労働省が発出した「開発優先度の高いワクチンの研究開発について(開発要請)」(令和7年6月19日付)において、公衆衛生上の必要性が極めて高いワクチンとして位置づけられ、国からの正式な要請に基づいて開発が加速されています。
すでに海外の多くの先進国では6種混合ワクチンが広く使われており、日本国内においても早期導入が切望されていた背景があります。
6種混合ワクチンが実用化された場合の利便性
もし6種混合ワクチンが実用化され、定期接種として導入された場合、私たちの社会や生活にはどのような変化が起きるのでしょうか。その利便性を4つの視点から詳細に解説します。
1. 子ども自身の身体的・精神的な負担が大幅に軽くなる
最も大きな恩恵を受けるのは、接種を受ける乳幼児自身です。
現在のスケジュールでは、生後2か月と生後3か月の受診時に、それぞれ「注射3本+飲むワクチン1種類」を受け、生後4か月にも「注射2本+飲むワクチン1種類」を受けます。
もし6種混合ワクチンが導入されれば、これまでの「5種混合」と「B型肝炎」の2本の注射が、わずか1本の注射に統合されます。
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生後2か月: 「注射3本」から「注射2本(6種混合 + 肺炎球菌)」へ減少
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生後3か月: 「注射3本」から「注射2本(6種混合 + 肺炎球菌)」へ減少
成人の感覚からすると「たかが1本の差」と思われるかもしれませんが、体重数キログラムしかない小さな赤ちゃんにとって、注射針を刺される痛みが1回減ることは身体的に極めて大きな違いです。注射を受ける回数が減れば、穿刺部位の皮膚への刺激や、注射後の腫れ・赤みといった局所反応が生じる箇所も減らせます。
さらに、物心つき始める1歳前後においても、注射の回数が減ることは、病院や注射に対する子どもの恐怖心や心理的ストレスを和らげる大きな助けとなります。
2. 保護者のスケジュール管理と通院の負担が劇的に軽減される
保護者にとって、乳幼児期の予防接種スケジュールを管理することは、育児の中でも特に神経を使う作業のひとつです。
複雑な間隔管理からの解放
ワクチンの種類ごとに「前回の接種から中何日あけなければならないか」「生後何週までに受けなければならないか」といった複雑なルールが存在します。特にB型肝炎ワクチンは、1回目から2回目は4週間あけ、3回目はさらに約5か月あけるという独特のスケジュールを持っています。
6種混合ワクチンとして一体化されれば、複数のスケジュールの組み合わせを個別に計算・管理する必要が薄れ、管理の難易度が大幅に下がります。
スケジュール遅延のリカバリーが容易になる
乳幼児期は、急な風邪や発熱、突発性発疹などで、予定していた予防接種を当日に急遽延期せざるを得ないケースが頻繁に発生します。単独のワクチンをいくつも組み合わせている場合、1つの日程がズレると後続の接種予約がドミノ倒しのように崩れてしまいます。
打つべきワクチンの本数が少なくなれば、体調回復後のスケジュール立て直しもずっとスムーズになり、接種漏れや接種の遅れを未然に防ぎやすくなります。
働く保護者の通院負担・育児離脱の軽減
育児休業からの職場復帰を果たした家庭や、共働き家庭にとって、平日の昼間に何度も小児科を受診することは容易ではありません。接種本数が減り、通院回数や院内での滞在時間が短縮されれば、仕事を休む頻度や調整の労力も軽減されます。また、きょうだいがいる家庭では、上の子を連れて複数本の予防接種に通うこと自体が大きな負担となっており、負担軽減効果は計り知れません。
3. 小児科クリニックなど医療現場におけるメリット
ワクチンの統合による利便性は、接種を実施する医師や看護師、クリニックのスタッフにとっても絶大です。
接種過誤(医療ミス)のリスク低減
小児の予防接種では、ワクチンの取り違えや、接種間隔・接種時期の誤認といった「接種過誤」を防ぐために、医療機関側で二重・三重のチェックが行われています。取り扱うワクチンのバイアル(瓶)の数やシリンジ(注射器)の数が物理的に減ることは、医療事故のリスクを根本から低減させるもっとも確実な手段です。
診察・準備時間の効率化
1回あたりの準備作業(バイアルの確認、薬液の吸い上げ、接種部位の確認など)が簡素化されることで、診察室での対応がスムーズになります。接種時の赤ちゃんの激しい泣きに対処しながら複数本の注射を打つ作業は、医療従事者にとっても高い集中力を要します。接種本数が減ることで処置時間が短縮され、院内での待ち時間の短縮や、他の患者の診療への余裕にもつながります。
保管場所(冷蔵スペース)と在庫管理の最適化
ワクチンは厳格な温度管理(通常2〜8℃)が義務付けられた生物学的製剤です。医療機関では大型の医療用冷蔵庫を設置して多数のワクチンを保管していますが、5種混合とB型肝炎の2つの製品を個別に発注・保管するよりも、6種混合ワクチンとして1種類にまとまる方が、冷蔵庫内のスペースを大幅に節約でき、有効期限の管理や廃棄ロスの削減にも貢献します。
4. 公衆衛生と社会全体への波及効果
ワクチン接種の利便性が向上することは、社会全体の感染症対策にとっても大きな前進を意味します。
スケジュールが過密で複雑すぎると、どうしても接種を途中で中断してしまったり、追加免疫を忘れてしまったりするケースが生じます。6種混合ワクチンの登場により受託率(決められたスケジュール通りに接種を完了する割合)が向上すれば、社会全体の免疫保有率(集団免疫)が高まり、地域社会全体で百日せきやポリオ、B型肝炎などの流行をより強固に抑え込むことが可能になります。

世界の潮流と日本におけるワクチンギャップの解消
今回動き出した6種混合ワクチンの開発は、国際的な視点で見ても極めて重要な意味を持っています。
主要先進国ではすでに6種混合がスタンダード
実は、欧州諸国をはじめとする世界の多くの先進国では、2000年代初頭から6種混合ワクチン(百日せき・ジフテリア・破傷風・ポリオ・ヒブ・B型肝炎)が乳幼児の標準的なワクチンとして導入され、20年以上にわたって広く使用されてきました。世界保健機関(WHO)も混合ワクチンの普及を積極的に推進しています。
海外では、生後数か月の段階で「6種混合+小児用肺炎球菌」の2本を接種する形が定着しており、日本のように何度も腕を分けて別々のワクチンを打つ形態は、すでに過去のものとなっている国が珍しくありません。
日本が乗り越えつつある「ワクチンギャップ」
日本はかつて、海外で広く使われている有効なワクチンが国内で承認・導入されるまでに長い年月を要する「ワクチンギャップ」と呼ばれる課題を抱えていました。定期接種化の遅れや、ワクチンの細分化による接種回数の多さは、長年にわたり小児科医療関係者や保護者から指摘されてきた問題です。
しかし、2012年の不活化ポリオ導入、2016年のB型肝炎定期接種化、そして2024年4月の「5種混合ワクチン」導入と、日本の予防接種制度は近年着実な前進を遂げてきました。今回の6種混合ワクチンの治験開始は、日本が国際的な標準に完全に肩を並べ、より安心で効率的な予防医療体制を確立するための決定的な一歩といえます。
6種混合ワクチンの実用化に向けた今後の見通し
第Ⅲ相臨床試験が開始されたことで、実用化に向けた期待は一段と高まっていますが、実際に私たちがクリニックで接種を受けられるようになるまでには、いくつかのステップを経る必要があります。
臨床試験から承認、定期接種化までの道のり
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臨床試験の実施とデータ収集:
治験参加者への投与を行い、一定期間を経て得られた血液検査データなどから、十分な抗体が作られているか(免疫原性)、発熱やアレルギー反応などの副反応の程度はどうか(安全性)を精緻に検証します。 -
承認申請と審査:
臨床試験の良好な結果をもとに、BIKEN財団および田辺ファーマが厚生労働省(医薬品医療機器総合機構:PMDA)に対して製造販売承認を申請します。有効性と安全性が厳格に審査されます。 -
薬事承認と定期接種化の議論:
国による承認が下りた後、厚生労働省の審議会(予防接種・ワクチン分科会など)において、この6種混合ワクチンを予防接種法に基づく「定期接種」に位置づけるかどうかの議論が行われます。費用対効果や接種スケジュールの詳細、既存ワクチンからの切り替えルールなどが検討されます。 -
供給開始と定期接種のスタート:
定期接種としての政令改正などが完了し、全国の自治体および医療機関への安定供給体制が整った段階で、一般の接種が開始されます。
先行した5種混合ワクチンの例を見ても、承認から定期接種の開始までには相応の準備期間を要します。しかし、今回は厚生労働省自身が早期実用化を要請している最優先案件であるため、迅速な審査と手続きが進められることが大いに期待されています。
まとめ
BIKEN財団と田辺ファーマによる6種混合ワクチン(BK1803/MT-1803)の第Ⅲ相臨床試験開始は、日本の小児予防医療にとって大きな転換点となるニュースです。
現在、2歳までに受ける定期接種の総回数は17回以上におよび、生後2か月から半年までの赤ちゃんは、ほぼ毎月のように左右の腕や太ももに何本もの注射を受けています。この過密なスケジュールは、子ども自身への身体的苦痛はもちろんのこと、保護者のスケジュール管理や通院の負担、医療機関における接種過誤のリスクなど、様々な課題を抱えていました。
6種混合ワクチンが実用化されれば、百日せき、ジフテリア、破傷風、ポリオ、ヒブ、B型肝炎の6つの病気をわずか1本の注射で同時に予防できるようになります。
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子どもへの恩恵: 注射を受ける回数が減り、身体的・精神的な負担が大幅に軽減されます。
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保護者への恩恵: 通院回数や過密な日程調整の負担が軽くなり、接種スケジュールの遅れや受け忘れを防ぎやすくなります。
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医療現場への恩恵: 取り扱う薬剤の数が減ることで、接種過誤のリスクが根本から下がり、保管や準備の効率化が図られます。
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社会全体への恩恵: 接種の利便性が高まることで接種率が向上し、重篤な感染症から地域全体を守る集団免疫が強固になります。
世界標準のワクチン接種環境の実現に向け、最終段階である第Ⅲ相臨床試験が順調に進み、高い有効性と安全性が確認されることが待たれます。一日も早くこの6種混合ワクチンが医療現場に届き、未来を担う子どもたちとその家族が、より少ない負担で安心して健康を守れる社会が訪れることを心より期待しています。
