多発性硬化症の新薬ブメリティ登場!既存薬テクフィデラとの違いや効果、副作用を徹底解説
2026年6月、多発性硬化症(MS)の新たな治療選択肢として、バイオジェン・ジャパン株式会社より「ブメリティ®カプセル231mg(一般名:ジロキシメルフマラート)」が承認されました。
多発性硬化症という病名は聞いたことがあっても、具体的にどのような症状があり、どのような治療が行われるのか、一般の方には少し難しい部分も多いかと思います。今回の記事では、この新薬「ブメリティ」について、病気の解説から薬の仕組み、そして既存の治療薬との違いについて解説します。
1. 多発性硬化症(MS)とはどのような病気か?
まず、この薬が対象とする「多発性硬化症(Multiple Sclerosis: MS)」について解説します。
私たちの神経は、電気信号を伝える「電線」のような役割をしています。この電線(神経線維)は、信号を速く正確に伝えるために「髄鞘(ずいしょう)」という絶縁体のカバーで覆われています。
多発性硬化症は、本来自分を守るはずの免疫システムが誤ってこの「髄鞘」を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。カバーが壊されることで電気信号が漏れたり、途切れたりして、体にさまざまな不調が現れます。「多発性」という名の通り、脳、脊髄、視神経など、場所を問わずあちこちに病変が「多発」し、症状が良くなったり(寛解)悪くなったり(再発)を繰り返すのが特徴です。
初期の症状と自覚症状
初期段階では、以下のような症状が突然現れることがあります。
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視力の低下・二重に見える: 片方の目が見えにくくなったり、物が二重に見えたりします。
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手足のしびれ・感覚の異常: 手足がピリピリしたり、感覚が鈍くなったり、逆に触れるだけで痛みを感じたりします。
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力の入りにくさ: 足がもつれる、階段が登りにくい、手に力が入らず物を落とすといった症状です。
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めまい・ふらつき: 体がふわふわする、まっすぐ歩けないといった症状が現れます。
症状の進行と変化
病気が進行したり、再発を繰り返したりすると、以下のような深刻な症状につながる恐れがあります。
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歩行障害: 自力での歩行が困難になり、杖や車椅子が必要になる場合があります。
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排尿・排便障害: トイレが近くなる、あるいは出にくくなるといった問題です。
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認知機能の低下: 記憶力や集中力が落ち、仕事や日常生活に支障をきたすことがあります。
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疲労感: 激しい倦怠感が続き、活動が制限されます。
ブメリティは、このような再発を予防し、身体的な障害が進行するのを抑えるために開発された「経口(飲み薬)」の治療薬です。

2. ブメリティの仕組みと薬理作用
ブメリティ(ジロキシメルフマラート)は、体の中に入ると速やかに「フマル酸モノメチル(MMF)」という有効成分に変化します。このMMFが、神経を保護し、炎症を抑える司令塔として働きます。
酸化ストレスから神経を守る「Nrf2」
私たちの体には、有害な酸化ストレス(細胞のサビのようなもの)から身を守るための「Nrf2」というマスター・スイッチが存在します。ブメリティから変化した成分は、このNrf2というスイッチをオンにします。
スイッチがオンになると、細胞内で抗酸化物質の産生が促進され、酸化ストレスによるダメージから神経細胞を保護する作用(細胞保護作用)が発揮されます。また、過剰な免疫反応を抑えることで、神経のカバーである髄鞘が壊されるのを防ぐ「抗炎症作用」も併せ持っています。
投与回数と投与経路
ブメリティは「カプセル剤」です。多発性硬化症の治療薬には自己注射が必要なものも多い中、飲み薬であることは患者さんにとって大きなメリットです。
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投与経路: 経口投与(飲み込むタイプ)
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投与回数: 1日2回
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用法: 最初の1週間は1回231mg(1カプセル)を1日2回。2週目からは、維持量として1回462mg(2カプセル)を1日2回服用します。
食事の有無に関わらず服用できますが、高脂肪・高カロリーの食事と一緒に摂ることは避けるよう指示されています。
3. 既存薬「テクフィデラ」との違いと有用性
実は、ブメリティには「テクフィデラ」という非常によく似た先代の薬があります。ブメリティは、このテクフィデラを改良し、より使いやすく進化させたお薬です。
なぜ改良が必要だったのか?
先代のテクフィデラは非常に優れた効果を持っていましたが、唯一の弱点が「胃腸への副作用」でした。服用し始めに、激しい腹痛、下痢、吐き気などが現れる患者さんが一定数おり、副作用のために治療を断念せざるを得ないケースがあったのです。
ブメリティの有用性:胃腸に優しい設計
ブメリティは、有効成分は同じMMFへと変化しますが、化学的な構造を工夫することで、胃腸での刺激を抑えることに成功しました。
臨床データによると、胃腸の症状がどの程度現れたかを比較した試験において、ブメリティを服用したグループはテクフィデラを服用したグループに比べて、「中等度以上の胃腸症状が現れた日数」が約46%も減少したという結果が出ています(p=0.0003)。
つまり、ブメリティは「高い効果を維持しながら、続けやすくなった薬」と言えます。多発性硬化症の治療は長期間にわたるため、「副作用が少なく、確実に続けられること」は非常に重要なポイントです。
4. 臨床データが示すブメリティの効果
ブメリティの効果は、複数の国際共同治験によって証明されています。ここでは具体的な数値を挙げて、その実力を確認してみましょう。
年間再発率の抑制
多発性硬化症の治療において最も重要なのは「再発させないこと」です。
海外で行われた臨床試験(ALK8700-A301試験)では、ブメリティを約2年間(96週間)投与した結果、年間再発率(ARR)は0.13という非常に低い数値を示しました。
また、日本人を含む国際共同第Ⅲ相試験(272MS303試験)でも、48週間投与後の年間再発率は全体で0.19、日本人集団においては0.18という結果でした。これは、1年間で再発する回数が統計的に0.2回未満、つまり5年に1回起こるかどうかのレベルまで抑えられていることを意味します。
MRI病変への効果
脳のMRI検査において、炎症が起きている場所(Gd造影病巣)の数も評価されています。
日本人を含む試験において、48週間投与後のMRI病変数は、ベースライン(開始時)から大幅に減少・抑制されていることが確認されました。
身体的障害の進行抑制
障害の程度を示す指標(EDSSスコア)の変化についても、試験期間を通じてスコアが安定しており、身体的な障害が急速に進行することを防いでいることがデータから示されています。
5. 使用上の注意と副作用
どのような優れた薬にも副作用は存在します。ブメリティを使用する際に知っておくべきポイントをまとめます。
主な副作用
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潮紅(フラッシング): 顔や首が赤くなったり、熱感を感じたりする症状です。これは服用初期によく見られますが、多くの場合は時間とともに慣れていきます。臨床試験では27.2%の頻度で報告されています。
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胃腸症状: 下痢(10.3%)、腹痛、吐き気などが現れることがあります。先代より軽減されていますが、注意は必要です。
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リンパ球減少: 血液中の白血球の一種である「リンパ球」が減少することがあります(10.5%)。
重篤な副作用(非常に稀ですが重要です)
特に注意が必要なのが、進行性多巣性白質脳症(PML)という重い脳の病気です。これは免疫力が極端に低下した際に、普段は悪さをしないウイルスが脳内で暴れ出す病気です。
これを防ぐために、ブメリティの使用前と使用中は、定期的に(少なくとも3ヶ月に1回)血液検査を行い、リンパ球の数をチェックすることが義務付けられています。
また、以下のような方は服用が禁じられています。
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ブメリティまたはテクフィデラの成分でアレルギーを起こしたことがある方
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妊婦または妊娠している可能性のある女性(動物実験で胎児への影響が報告されているため)
まとめ:ブメリティがもたらす新しい希望
ブメリティは、多発性硬化症という難しい病気と向き合う患者さんにとって、大きな福音となるお薬です。
これまでの治療薬の課題であった「胃腸の副作用」を分子構造の工夫によって大幅に軽減し、一方で「年間再発率を0.1台に抑える」という強力な効果を維持しています。注射製剤ではなく、1日2回の飲み薬である点も、仕事や趣味などの日常生活を大切にしたい患者さんのQOL(生活の質)向上に大きく貢献します。
もし、現在多発性硬化症の治療中で、お腹の不調や再発への不安を抱えている方がいらっしゃれば、この「進化型」の治療薬について主治医に相談してみてはいかがでしょうか。医学の進歩は、確実に患者さんの毎日を「より快適なもの」へと変えようとしています。

