なぜ薬で味が変わる?味覚異常が起きる6つの薬剤とその仕組みを徹底解説

なぜ薬で味が変わる?味覚異常が起きる6つの薬剤とその仕組みを徹底解説

私たちは毎日、食事を通じて「美味しい」という喜びを感じ、健康を維持しています。しかし、病気の治療を始めた途端に「食べ物の味が砂を噛んでいるようだ」「口の中が常に苦い」「金属のような味がする」といった味覚異常(みかくいじょう)に直面することがあります。

実は、医薬品の副作用として味覚異常は頻度の高いものの一つです。しかし、その原因は「亜鉛を排出してしまうもの」「神経のスイッチを止めてしまうもの」「薬そのものが唾液に混じるもの」など、お薬の種類によって驚くほど多岐にわたります。

今回は、特に味覚異常の報告が多い6つの薬剤をピックアップしました。それぞれの薬理作用や臨床データ、そして服用を中止した後の回復見込みについて、分かりやすく徹底解説します。


1. 亜鉛不足を招く代表格:カプトプリル(カプトリル):ACE阻害薬

血圧を下げるお薬として長く使われている「ACE阻害薬」というグループのカプトプリル(商品名:カプトリル)は、味覚異常を引き起こす薬の代名詞とも言える存在です。

薬理作用と効能効果

カプトプリル(カプトリル)は、体内で血管をギュッと収縮させる物質「アンジオテンシンII」が作られるのを防ぐことで、血管を広げ血圧を下げます。臨床データでは、本態性高血圧症に対して67.5%(361/603例)という高い有効率を示しており、非常に優れた降圧剤です。

味覚異常が起こる理由:キレート作用

この薬による味覚異常の最大の原因は、成分に含まれる「SH基(スルフヒドリル基)」という構造にあります。

私たちの舌には「味蕾(みらい)」という味を感じるセンサーがあり、この細胞が新陳代謝を繰り返すには「亜鉛」というミネラルが欠かせません。カプトプリル(カプトリル)はこの亜鉛と強力に結びつく「キレート作用」を持っており、亜鉛を道連れにして体外へ排出してしまいます。結果として体内の亜鉛が不足し、味を感じる細胞が正常に作られなくなることで「味が薄い」「味がしない」といった症状が現れます。

調査では、副作用全体の発現率が13.5%であり、その中に味覚異常が明確に含まれています。

服用中止後の回復時間

このタイプの味覚異常は「可逆的」であり、服用を中止すれば回復します。体内の亜鉛バランスが元に戻るまで、通常は数週間から1カ月程度で改善することが多いとされています。


2. 細胞の再生を抑制する:メトトレキサート(リウマトレックス)

関節リウマチ治療の「アンカードラッグ(主軸となる薬)」として欠かせないのが、メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)です。

薬理作用と効能効果

メトトレキサート(リウマトレックス)は、細胞の増殖に必要な「葉酸」の働きをブロックすることで、過剰に活発になっている免疫細胞を抑え、関節の破壊を食い止めます。国内の用量反応探索試験では、6mg/週の投与で60.4%(32/53例)の改善率を示しており、リウマチ患者さんにとって極めて重要な薬です。

味覚異常が起こる理由:細胞分裂の阻害と口内炎

メトトレキサート(リウマトレックス)が味覚に影響する理由は二つあります。一つは、味を感じる「味蕾」の細胞は寿命が短く(約10〜14日)、非常に速いスピードで再生していますが、この薬の「細胞分裂を抑える作用」が味蕾の再生を遅らせてしまうことです。



もう一つは、副作用としての「口内炎」です。副作用発現率は20.1%で、そのうち口内炎は2.2%に認められます。口の中の粘膜が荒れることで、間接的に味覚の感じ方が狂ってしまうのです。

服用中止後の回復時間

リウマトレックスは週に1〜2日だけ服用する特殊なスケジュールが組まれます。症状が軽微であれば投与量の調整で改善することもありますが、服用を完全に中止した場合、細胞の代謝が正常化する2週間から1カ月程度で味覚が戻るのが一般的です。

「子供の粉薬の飲ませ方」は舌の甘みを感じる味覚に狙いを定める
「子供の粉薬の飲ませ方」は舌の甘みを感じる味覚に狙いを定める3~6歳くらいの子供が風邪やインフルエンザにかかると“粉薬”...

3. 翌朝まで続く強烈な苦味:エスゾピクロン(ルネスタ)

不眠症の治療に用いられるエスゾピクロン(商品名:ルネスタ)は、服用した翌朝に感じる「独特な苦味」が非常に有名な薬剤です。

薬理作用と効能効果

脳内のリラックススイッチである「GABAA受容体」に働きかけ、自然に近い眠りを誘います。国内の臨床試験(第II/III相試験)において、寝付くまでの時間をプラセボ(偽薬)の22.8分から11.3分(2mg群)へと有意に短縮させる効果が確認されています。

味覚異常が起こる理由:唾液への成分移行

ルネスタの苦味は、亜鉛不足などの病的な変化ではなく、「薬そのものの味」が原因です。

服用された薬の成分は血液によって全身を巡りますが、その一部が「唾液腺」を通過する際、唾液の中に染み出します。エスゾピクロン(ルネスタ)自体が極めて強い苦味を持つ物質であるため、口の中に直接薬を入れたわけではなくても、唾液を通じて常に舌の苦味センサーを刺激し続けるのです。

国内データでは、味覚異常の発現率は36.3%に達しており、3人に1人がこの苦味を経験するという非常に高頻度な副作用です。

服用中止後の回復時間

お薬の成分が体から抜ければ苦味も消えます。ルネスタはキレが良い(代謝が早い)のが特徴ですので、服用を止めて12時間から24時間(翌日の午後まで)には苦味が消失します。

味覚異常


4. 味覚神経のスイッチを遮断する:ゲーファピキサント(リフヌア)

難治性の慢性咳嗽(せき)に対する画期的な新薬として登場したゲーファピキサント(商品名:リフヌア)は、これまでの薬とは全く異なるメカニズムで非常に高い確率で味覚異常を起こします。

薬理作用と効能効果

ゲーファピキサント(リフヌア)は、せきを誘発する迷走神経の「P2X3受容体」をブロックします。国際共同第III相試験では、24時間の咳嗽頻度をプラセボ群に比べ-18.45%有意に減少させることに成功しました。

味覚異常が起こる理由:受容体の共用

なぜ、せきの薬が味に関係するのか。それは、この薬がターゲットとする「P2X3受容体」が、実は舌の味細胞から神経へ味の情報を送るための「中継スイッチ」としても働いているからです。

せきを止めるためにスイッチを切ると、同時に味の情報伝達も遮断されてしまいます。その結果、「甘味や塩味を感じない」「金属のような味が混ざる」といった深刻な異常が起こります。

臨床データでは、45mg投与群において味覚に関連する副作用が65.4%という驚異的な頻度で発生しています。その内訳は、味覚不全(41.1%)、味覚消失(14.6%)、味覚減退(10.7%)などです。

服用中止後の回復時間

インタビューフォームによれば、味覚異常を訴えた人の96.0%が回復しています。中止後の回復は早く、多くの場合は数日から2週間以内に改善しますが、稀に長引くケースもあるため注意が必要です。


5. 抗菌薬による苦味の刺激:クラリスロマイシン(クラリシッド)

風邪の後の中耳炎や副鼻腔炎、さらにピロリ菌の除菌などで使われる抗生物質クラリスロマイシンも、味覚への影響が知られています。

薬理作用と効能効果

マクロライド系抗生物質で、細菌のタンパク質合成を邪魔して殺菌します。ピロリ菌除菌の3剤併用療法では、87.5〜91.1%という非常に高い除菌成功率を支える要の薬剤です。

味覚異常が起こる理由:苦味受容体の直接刺激

クラリスロマイシンもルネスタと同様、成分が唾液中に分泌されやすい性質があります。また、マクロライド系抗菌薬は構造上、非常に強い苦味を持っています。これが舌にある苦味を感じるセンサー(T2Rs)を直接刺激するため、口の中に苦味や金属味を感じるようになります。

ピロリ菌除菌時のデータでは、味覚異常の発現率は13.1%と報告されています。

服用中止後の回復時間

除菌療法は通常7日間という短期間で終了します。服用を終えて成分が体外へ排出される2〜3日後には、味覚は元の正常な状態に戻ります。


6. ミネラル代謝を乱す抗甲状腺薬:チアマゾール(メルカゾール)

バセドウ病など、甲状腺ホルモンが作られすぎる病気の治療に使われるのがチアマゾール(商品名:メルカゾール)です。

薬理作用と効能効果

甲状腺ホルモンを合成する酵素(ペルオキシダーゼ)の働きを阻害し、ホルモンの過剰生産を抑えます。甲状腺機能亢進症に対しては第一選択として欠かせないお薬です。

味覚異常が起こる理由:亜鉛キレートと神経への影響

チアマゾール(メルカゾール)による味覚異常は、カプトプリルと似ており、化学構造内の「チオアミド基」が体内の亜鉛を捕まえて排出してしまうことが一因と考えられています。

また、インタビューフォームの「その他の副作用」の欄には、頻度不明ながら「味覚異常(味覚減退を含む)」が記載されており、長期間の服用によって徐々に症状が進行する場合があります。

服用中止後の回復時間

甲状腺の薬は自己判断で中止すると病気が急激に悪化するため、非常に危険です。味覚異常を感じた場合は必ず主治医に相談してください。お薬を減量したり、別のお薬(プロピルチオウラシルなど)に変更したりすることで、数週間から数カ月かけて徐々に味覚が回復していきます。


まとめ

今回ご紹介した6つのお薬の味覚異常には、それぞれ異なる「正体」がありました。

  1. カプトプリル(カプトリル):亜鉛を奪い取り、味のセンサー(味蕾)を壊す。

  2. メトトレキサート(リウマトレックス):細胞分裂を抑え、味蕾の再生を邪魔する。

  3. エスゾピクロン(ルネスタ):お薬そのものが唾液に混じって、直接苦味を感じさせる。

  4. ゲーファピキサント(リフヌア):味の情報を脳に送る「神経のスイッチ」を一時的に切る。

  5. クラリスロマイシン(クラリシッド):強い苦味成分が唾液に出て、センサーを刺激する。

  6. チアマゾール(メルカゾール):亜鉛バランスを崩し、長期間かけて味を鈍らせる。

臨床データが示す通り、多くの場合、これらは一時的な副作用であり、お薬の中止や調整によって味覚は元に戻ります。しかし、食事の楽しみが損なわれることは大きなストレスとなり、治療への意欲も削いでしまいます。

もし、お薬を飲み始めて「味が変わった」と感じたら、一人で悩まずに「いつから」「どのような味がするのか」を医師や薬剤師に伝えてください。亜鉛製剤の補給や薬の変更など、あなたの「食べる喜び」を守りながら治療を続ける方法は必ずあります。

 

タイトルとURLをコピーしました