坐薬の正しい使い方と順番のルールについて(PDFダウンロードあり)
「子供が急に熱を出した」「吐き気が強くて薬を飲めない」「ひきつけを起こした」……そんな時、頼りになるのが「坐薬(ざやく)」です。しかし、いざ使おうと思うと、「上手に入れられるかな?」「もしすぐに出てきたらどうしよう?」「2種類あるけど、どっちから使えばいいの?」と不安や疑問が次々と湧いてくるものです。
坐薬は、飲み薬に比べて吸収が早く、胃腸への負担が少ないというメリットがありますが、正しく使わなければ十分な効果が得られないこともあります。
この記事では、坐薬の準備から挿入のコツ、万が一出てきてしまった時の対処法、そして意外と知らない「2種類以上の坐薬を使う時の順番と間隔」について、分かりやすく詳細に解説します。
以下に坐薬の使い方と使用順についてのPDFファイルを添付します。必要な方は以下からダウンロードしてください。ブラウザはgoogle chromeを推奨します。
1. 坐薬を使う前の準備:焦らず確実におこなうために
坐薬をスムーズに入れるためには、事前の準備が最も重要です。赤ちゃんや子供は、お尻に異物が入ることに不安を感じて泣いてしまうこともありますが、大人が焦っているとその不安が伝わってしまいます。まずは手順を確認して、落ち着いて準備を整えましょう。
坐薬の状態を確認する
解熱剤などの坐薬は、冷蔵庫で保管するのが基本です。しかし、冷蔵庫から出した直後の坐薬は非常に硬く、そのまま入れるとお尻の粘膜を刺激したり、痛みを感じさせたりすることがあります。
– 室温で数分置く: 冷蔵庫から出したら、数分間そのまま置いて室温に馴染ませましょう。少し表面が柔らかくなることで、挿入時の刺激を和らげることができます。
– 半分に切る指示がある場合:
医師から「半分だけ使用してください」と指示が出る場合があります。この時、袋から出してから切ろうとすると、手の熱で溶けたり、滑ってうまく切れなかったりします。必ず包装(アルミやプラスチックの袋)に入ったままの状態で、ハサミやカッターを使って斜めにカットしてください。
衛生面と環境の準備
– 手袋などの着用:
衛生面はもちろんですが、坐薬を入れた刺激で突然便意を催し、排便してしまうことがあります。使い捨ての「ディスポ手袋」や、家庭にある「薄手の食品用ポリ袋」を手に着用しておくと、慌てずに対応できます。
– 場所の確保:
処置は、オムツ替えの要領で行います。万が一便が出てしまったり、坐薬が漏れてきたりしても大丈夫なように、オムツの上や防水シート、バスタオルを敷いた上で行いましょう。
2. 実践!坐薬の正しい入れ方:6つのステップ
準備ができたら、いよいよ挿入です。コツは「滑りを良くすること」と「躊躇しないこと」です。
① 坐薬を包装から出す
坐薬には向きがあります。先のとがった方(太い方)から包装をはがしましょう。
解熱剤などの坐薬は体温で溶けるように設計されているため、指先でずっと持っているとどんどん溶けてしまいます。袋から出したら、清潔なガーゼやティッシュペーパーの上に一度置きましょう。
② 滑りを良くする工夫
挿入時の摩擦を減らすことが、子供の痛みを最小限にする最大のポイントです。坐薬の先端に以下のものを少量塗りましょう。
– ワセリン・ベビーオイル: 最もおすすめです。
– 食用油(サラダ油・オリーブオイル): 自宅にワセリンがない場合に代用可能です。
– 水: 何もない場合は水で濡らすだけでも滑りが良くなります。
あわせて、お尻の穴(肛門)の周囲にも少し塗っておくと、よりスムーズに入ります。
③ 正しい姿勢をとらせる
赤ちゃんの場合は、オムツを替える時のように両足を持ち上げます。少し大きなお子さんの場合は、横向きに寝かせて、上の足の膝を軽く曲げた姿勢(シムス位に近い形)にすると入れやすくなります。
④ 躊躇せず一気に入れる
「痛そうだから……」とゆっくり少しずつ入れるのは逆効果です。ゆっくり入れると、肛門の筋肉が反応して閉じてしまい、余計に痛みを感じたり、坐薬が押し戻されたりします。
「入れるよー」と声をかけ、リラックスした瞬間に、人差し指で一気に押し込みましょう。
⑤ 押し込む深さの目安
坐薬が入り口付近に留まっていると、すぐに押し戻されて出てきてしまいます。指の第一関節あたりまでしっかりと肛門の中に押し込んでください。ここまで入れば、肛門の筋肉(括約筋)を通り過ぎるため、自然と奥へ吸い込まれていきます。
⑥ 逆流を防ぐための仕上げ
坐薬を入れた直後は、反射的に出したくなるものです。挿入後、ガーゼやティッシュで肛門を15秒ほど優しく押さえてください。
これで逆流を防ぐことができます。最後に、お尻の周りについた油分などをきれいに拭き取って完了です。

3. もし坐薬が出てきてしまったら?:時間別の対処法
坐薬を入れた後に、子供が踏ん張ってしまったり、便と一緒に薬が出てきてしまったりすることがあります。この時、慌ててすぐにもう1本追加するのは危険です。薬がどれくらい吸収されたかを判断基準にします。
10分以内に出てきてしまった場合
入れてから10分以内であれば、薬の成分はほとんど吸収されていません。
– 形がそのまま残っている場合: 汚れをサッと拭き取って、再度挿入して大丈夫です。
– 形が崩れているが、明らかに出てきた場合:
新しい坐薬をもう一度入れ直します。ただし、判断に迷う場合は、処方された病院に電話で相談するのが最も確実です。
10分以上経過してから出てきた場合
10分以上経っていると、坐薬の表面が溶けて成分の吸収が始まっています。
– 原則、追加はしない: すでにある程度の量が吸収されている可能性があるため、すぐに追加で入れると「薬の使いすぎ(過量投与)」になる恐れがあります。
– 様子を見る:
解熱剤であれば、30分〜1時間ほど様子を見て、熱が下がってくるか確認してください。全く効果が見られず、どうしても不安な場合は、次の使用予定時間(通常は6時間以上あける)まで待つのが基本ですが、医師の指示を仰ぎましょう。
4. 2種類以上の坐薬を使う時の「順番」と「間隔」
「熱もあるし、吐き気もある」という場合、解熱剤と吐き気止めのように2種類の坐薬を同時に使うことがあります。ここで注意したいのが、「何でもいいから入れれば良い」わけではないということです。
薬には「基剤(きざい)」という、薬の成分を溶かし込んでいる土台となる物質があります。この組み合わせによって、入れる順番が決まっています。
① 基剤の違いによる原則:水溶性 vs 油脂性
ここが最も大切なポイントです。
– 水溶性基剤: 水に溶けやすい性質。吸収が早い。
– 油脂性基剤: 油に溶けやすい性質。体温でゆっくり溶ける。
【鉄則】水溶性を先に、油脂性を後に使う!
もし油脂性(油)を先に入れてしまうと、お尻の中に油の膜ができてしまいます。その後に水溶性(水)を入れても、油の膜に弾かれてしまい、薬がうまく吸収されません。
– 順番:水溶性基剤 →(30分以上あける)→ 油脂性基剤
② 緊急性による原則
病気の症状によっては、基剤の種類よりも「一刻も早く効かせたい薬」を優先します。
– 先に使う薬: 抗けいれん薬(ダイアップなど)、制吐薬(吐き気止め:ナウゼリンなど)、喘息治療薬
– 後に使う薬: 解熱薬(アンヒバ、アルピニーなど)
【鉄則】緊急性の高い薬を最優先にする!
③ 具体的な組み合わせ例(よくあるケース)
病院でよく処方される組み合わせの具体的な順番をまとめました。
– ダイアップ(水溶性/抗けいれん) + アルピニー(油脂性/解熱)
1. まずダイアップを入れる。
2. 30分以上間隔をあける。
3. アルピニーを入れる。
– ナウゼリン(水溶性/吐き気止め) + アンヒバ(油脂性/解熱)
1. まずナウゼリンを入れる(吐き気を止めてからの方が吸収が良いため)。
2. 30分以上間隔をあける。
3. アンヒバを入れる。
④ 同一基剤(同じタイプ)の薬を使う場合
どちらも同じ基剤(例えば、どちらも油脂性など)の場合は、順番に厳格な決まりはありません。
– 間隔:5分程度あける 1本目を入れた後、しっかり中に入って出てこないことを確認し、5分ほど置いてから2本目を入れてください。
⑤ 緩下剤(便秘の坐薬:レシカルボン・テレミンなど)の場合
便秘を解消するための坐薬を使う場合は、ルールが異なります。
– 間隔:他の薬を使ってから1時間以上あける
– 順番:常に一番最後!
緩下剤は便を出すための薬です。先にこれを使ってしまうと、後から入れた大切な治療薬(解熱剤など)まで一緒に便として出ていってしまいます。すべての治療薬を入れ終わってから、最後に使うようにしましょう。
6. まとめ
坐薬は、正しく使えばお子さんの辛い症状を素早く和らげてくれる非常に優れたお薬です。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
1. 準備を怠らない: 冷蔵庫から出して数分置き、ワセリン等で滑りを良くする。
2. 挿入は思い切りよく: 指の第一関節まで一気に入れ、15秒間お尻を押さえる。
3. 出てきた時は時間で判断: 10分以内なら入れ直しを検討。それ以降なら様子を見る。
4. 2種類使う時は順番が命: 「水溶性(吐き気止め等)→ 30分待機 → 油脂性(解熱剤等)」の順。
5. 便秘薬は常にラスト: 他の薬を吸収させるため、1時間以上あけて最後に使う。
お子さんが病気の時は、お父さんやお母さんも不安でいっぱいだと思います。しかし、このルールさえ知っておけば、いざという時も落ち着いて対処できるはずです。
もし、この記事を読んでも「自分の持っている薬の順番がわからない」「子供の体調が急変して判断がつかない」という場合は、決して無理をせず、病院の夜間窓口や、お近くの処方箋薬局の薬剤師に相談してください。
