長期収載品とOTC類似薬の特別料金を徹底解説!薬局対応と患者負担について
日本の医療保険制度は、少子高齢化の進展や医療技術の高度化に伴い、大きな転換期を迎えています。国民皆保険制度を将来にわたって維持し、限られた財源の中で公平かつ効率的な医療給付を行うため、近年、患者負担のあり方を見直す大規模な制度改革が相次いで打ち出されています。
その代表例が、「長期収載品(先発医薬品)の選定療養」と、2026年9月30日付の厚生労働省通知(保医発0930第6号)によって詳細が公布され、2027年3月1日から施行される「要指導医薬品又は一般用医薬品との代替性が特に高い医療用医薬品(いわゆるOTC類似薬)の処方又は調剤に係る一部保険外療養」です。
これまで健康保険が適用される医療用医薬品の費用は、年齢や所得に応じた自己負担割合(1割〜3割)を窓口で支払う形が原則でした。しかし、これら2つの新制度では、通常の自己負担とは別に、薬剤費の一部を「特別の料金(保険外負担)」として患者自身が負担する仕組みが導入されています。
調剤薬局の現場においては、処方箋の記載内容の確認、レセコンでの正確な算定、長期収載品の選定療養との重複可否の判定、そして窓口における患者への丁寧な説明など、多岐にわたる実務対応が求められます。
本記事では、長期収載品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関する選定療養ルールの基本から、2027年3月にスタートするOTC類似薬の一部保険外療養の仕組み、9つの除外規定、両制度が重複した場合の優先順位、処方箋様式の変更点、薬局での具体的対応と患者負担の試算までを網羅して詳しく解説します。OTC類似薬と長期収載品(選定療養)との処方箋様式・調剤ルールに関するPDFファイルを以下に添付します。
1. 長期収載品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関する選定療養ルール
1-1. 長期収載品の選定療養が導入された背景と趣旨
長期収載品とは、後発医薬品(ジェネリック医薬品)が登場してから一定期間が経過した先発医薬品のことを指します。日本の医療保険財政の健全化を図る観点から、国は後発医薬品の使用促進を進めてきました。
その一環として2024年10月に導入されたのが、長期収載品の選定療養です。医学的な観点から先発医薬品を使わなければならない特別な理由がないにもかかわらず、患者自身の希望によって先発医薬品を選択した場合に、その差額の一部を「選定療養費(特別の料金)」として自己負担してもらう仕組みです。これにより、後発医薬品への置き換えを促しつつ、先発医薬品を選び続ける自由を確保しながら保険給付の効率化を図っています。
1-2. 対象となる医薬品と選定の基準
長期収載品の選定療養の対象となるのは、以下の条件を満たす医薬品です。
-
後発医薬品が薬価基準に収載されてから5年以上が経過していること
-
後発医薬品への置換率が一定以上(50%以上)であること、または後発医薬品が収載されてから10年が経過していること
ただし、すべての先発医薬品が自動的に選定療養の対象になるわけではありません。後発医薬品が存在しない新薬や、流通上の問題で後発医薬品の入手が極めて困難な品目などは対象から除外されます。
1-3. 特別の料金の計算方法と患者負担
患者が支払う特別の料金は、「長期収載品の薬価」と「後発医薬品の最高薬価」との差額の2分の1(50%相当額)に消費税を加算した額となります。
残りの2分の1に相当する差額部分と後発医薬品相当の薬価については、従来どおり健康保険が給付されます。窓口で支払う最終的な金額は以下の合計となります。
-
通常の保険給付分に対する自己負担額(1割〜3割)
-
特別の料金(差額の4分の1相当+消費税)
1-4. 特別の料金が発生しないケース
以下のような正当な理由がある場合は、先発医薬品を調剤しても選定療養の特別の料金は発生しません。
-
医療上の必要性がある場合:
後発医薬品では十分な治療効果が得られないと医師が判断した場合や、後発医薬品に含まれる添加物に対して重篤なアレルギーがある場合など。この場合、処方箋の「変更不可(医療上必要)」欄にチェックが入ります。 -
薬局に後発医薬品の在庫・供給がない場合:
医薬品の供給不足などにより、保険薬局において後発医薬品を提供することが物理的に困難である場合。
2. 2027年3月導入「OTC類似薬の一部保険外療養」の基本構造
2-1. OTC類似薬(一部保険外療養)新設の趣旨
医療保険制度の持続可能性を確保する観点から、2026年の健康保険法改正(令和8年法律第31号)において新設されたのが「一部保険外療養」です。
薬局やドラッグストアで処方箋なしに購入できる一般用医薬品(OTC医薬品)や要指導医薬品と、成分や効果が実質的に同じである医療用医薬品について、軽微な体調不良などで処方を受けるケースにおいて、公平かつ効率的な給付を行うため、薬剤費の4分の1相当を患者の自費負担(特別の料金)とする決定がなされました。この制度は、2027年(令和9年)3月1日より施行されます。
2-2. 対象医薬品の選定基準と品目規模
一部保険外療養の対象となる医療用医薬品は、厚生労働省の通知において以下のように明確に定義されています。
-
要指導医薬品又は一般用医薬品と「成分」「投与経路」が同一であること
-
「一日最大用量」が要指導医薬品又は一般用医薬品と異ならないこと
厚生労働省保険局医療課の発表によると、施行時点における対象品目は77成分・1042品目に及びます。代表的な薬効群としては以下の通りです。
-
解熱鎮痛消炎薬(アセトアミノフェン、ロキソプロフェンナトリウム水和物など)
-
鎮咳去痰薬(カルボシステイン、アンブロキソール塩酸塩など)
-
止瀉整腸薬・便秘薬(酸化マグネシウムなど)
-
抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン塩酸塩、ロラタジンなど)
-
外用消炎鎮痛薬(湿布薬、ゲル剤など)
-
保湿剤・皮膚軟膏(ヘパリン類似物質、尿素製剤など)
対象医薬品の一覧は、市場における新規OTC薬の登場や医療用医薬品の薬価改定などを反映するため、原則として毎年4月1日に更新され、毎年3月頃に事前に公表される予定となっています。
2-3. 特別の料金の計算方法
一部保険外療養における特別の料金は、長期収載品の選定療養とは計算の基礎が異なります。
-
特別の料金 =「対象医薬品の薬価」× 1/4 ×「投薬全量」
長期収載品が「後発品との差額」を基準にしていたのに対し、OTC類似薬は「その薬の薬価そのものの4分の1」が特別の料金となります。
保険給付は残りの4分の3に対して行われるため、患者負担は「保険給付対象部分に対する自己負担(1〜3割)」+「特別の料金(薬価の4分の1)」となり、結果として患者の総支払額は従来の保険診療時よりも確実に増加します。院外処方の場合は、調剤を行った保険薬局が窓口でこの特別の料金を徴収します。

3. 特別の料金が免除される「9つの除外規定」を詳細解説
OTC類似薬の処方であっても、医学的に見て医療用医薬品を公的給付として提供すべき正当な理由がある場合は、一部保険外療養の対象外となり、特別の料金は徴収されません。厚生労働省の通知(保医発0930第6号 別紙)では、以下の9つのケースが定められています。
(1)18歳以下の子ども(高校卒業相当期まで)への処方
満18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者への処方・調剤は、特別の料金の対象外です。処方箋交付時点でこの年齢要件を満たしていれば、調剤時に年度をまたいで19歳になっていたとしても免除の対象として取り扱われます。なお、4月1日生まれの者は民法第143条の規定に基づき、前日の3月31日満了時に満18歳に達したものとして取り扱われます。
(2)がん又はがん治療に関連して生じた状態への処方
確定診断されたがん(悪性腫瘍)を有する患者が、抗がん剤治療や手術、放射線治療などを受けている期間中に生じた症状への処方は対象外となります。
-
免除される例:
-
抗がん剤の副作用による口内炎、便秘、皮膚障害に対する薬剤
-
がん治療に伴う好中球減少期の発熱・感染疑いに対する解熱鎮痛剤やかぜ薬
-
緩和ケアにおける処方
-
-
免除されない例:
-
がん治療中であっても、がん治療と関係のない花粉症、水虫、虫歯の治療薬
-
がん治療に伴わない一般的な腰痛や風邪
-
がんの治療行為がすでに終了し、定期的な経過観察のみを行っている場合の処方
-
がんの確定診断に至っていない疑診段階での疼痛に対する処方
-
(3)指定難病若しくは小児慢性特定疾病(18〜20歳)への処方
難病医療法に基づく指定難病患者や、18歳から20歳までの小児慢性特定疾病患者に対して、その疾病に関連して生じた状態に薬剤を処方する場合は対象外です。確認は医療受給者証または登録者証で行います。
また、重症度基準を満たさずに受給者証が交付されない場合でも、令和9年度末までの経過措置として「支給認定を行わない旨の通知書(診断基準は満たすもの)」や「臨床調査個人票(作成中証明書を含む)」を提示すれば、対象外として扱われます。
(4)国の公費負担医療における処方
生活保護法に基づく医療扶助、精神通院医療、感染症法、特定B型肝炎ウイルス給付金法などの国の法律に基づく公費負担医療を受けている場合、その公費の対象となる治療に伴う処方は対象外です。ただし、地方自治体が単独で実施している地方単独事業の医療費助成はここに含まれない点に注意が必要です。
(5)入院時の処方(退院時処方を含む)
入院中に行われる処方や、退院時に持参薬として処方される薬剤は、一部保険外療養の対象外です。ただし、入院中の患者が他の保険医療機関を外来受診して処方を受けた場合は、入院時処方には該当せず、特別の料金の対象となります。
(6)侵襲を伴う検査、処置又は手術に伴う処方(14日分以内)
外来で行われた生検、穿刺、切開、抜歯、骨折の非観血的整復術などの侵襲的処置に伴い、処置と同日に対象医薬品が処方された場合、14日分を上限として特別の料金が免除されます。
-
免除される例: 抜歯後の急性疼痛に対する鎮痛薬、褥瘡デブリードマン後の創傷治療外用薬など
-
免除されない例: 15日以上の処方分、追加処方分、処置の翌日以降に処方された場合、大腸内視鏡検査前の事前下剤、処置前から存在していた慢性疾患に対する処方など
(7)医師が認める通年かつ長期の継続使用(50週ルール)
慢性疾患などで、年間を通じた症状の持続と治療の継続性が確認され、長期使用が医療上不可欠であると医師が認めた場合は対象外となります。
-
内服薬の基準:
年間処方日数がおおむね50週(1年)であることが求められます。ただし、最初から50週待つ必要はなく、過去半年間の継続使用が確認でき、今後も年間を通じた継続が必要であると医師が認めた段階で免除対象と判断できます。服薬歴は他院での処方歴(お薬手帳やオンライン資格確認等)を合算することも可能です。一方で、頓服薬や季節性アレルギーによる数ヶ月の限定使用は対象外(特別の料金が発生)となります。 -
外用薬の基準:
外用薬は原則として通年使用であっても特別の料金の対象となりますが、以下の疾患・病態に限り例外的に免除されます。-
通年性アレルギー性結膜炎に対する毎日の点眼薬
-
アトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質・尿素製剤の毎日の使用
-
アトピー性皮膚炎の再燃予防を目的としたステロイド外用薬のプロアクティブ療法
-
【令和10年度末までの暫定措置】重度変形性膝関節症(KL分類Grade4)に対する消炎鎮痛外用薬
-
【令和10年度末までの暫定措置】直近1年以内に免疫抑制剤等の全身療法を併用した皮膚疾患への保湿剤・角化症治療剤
-
(8)類似OTC医薬品の効能・効果では対応できない状態への処方
医療用医薬品としての承認効能はあるものの、市販のOTC医薬品では承認されていない効能・効果を目的として処方される場合は、一部保険外療養の対象外となります。
-
具体例:フェキソフェナジン塩酸塩
-
市販薬(OTC)の効能:花粉やハウスダスト等による鼻アレルギー症状の緩和
-
医療用医薬品の効能:アレルギー性鼻炎に加え、「蕁麻疹」「湿疹・皮膚炎、アトピー性皮膚炎に伴うそう痒」
-
したがって、蕁麻疹や皮膚そう痒症に対してフェキソフェナジンが処方される場合は、特別の料金の対象外となります。
-
(9)OTC医薬品の使用が特に困難な場合(妊婦・授乳婦など)
OTC医薬品の添付文書において「妊婦又は妊娠していると思われる人は服用しないこと」等と記載されている成分について、妊婦や授乳婦に医療用医薬品として処方する必要がある場合は、特別の料金の対象外となります。医師が問診票や母子健康手帳等を確認して判断します。
4. 「長期収載品の選定療養」と「OTC類似薬の一部保険外療養」の優先関係
調剤現場において最も複雑かつ注意を要するのが、「OTC類似薬であり、かつ長期収載品でもある医薬品」を取り扱う場合です。代表例として、ヒルドイド(ヘパリン類似物質)やクラリチン(ロラタジン)などが挙げられます。
厚生労働省の通知において、同一の薬剤に対して2つの特別の料金が重複して徴収されることは絶対にないというルールが明確に定められました。
4-1. 優先ルールの原則
「一部保険外療養」が「長期収載品の選定療養」よりも優先して適用されます。
処方箋の記載と患者の選択に応じた取り扱いは、以下の3つのパターンに完全に分かれます。
| パターン | 一部保険外療養欄の記載 | 長期収載品の区分 | 適用されるルール | 特別の料金の請求 |
| パターンA | 「○」(対象) | 患者希望/変更不可 | 一部保険外療養が優先 | OTC類似薬の特別料金のみ徴収 (長期収載品の選定療養は免除) |
| パターンB | 「―」(対象外) | 患者希望 | 長期収載品の選定療養 | 長期収載品の特別料金のみ徴収 |
| パターンC | 「―」(対象外) | 変更不可(医療上必要) または後発品調剤 |
なし(保険給付) | 特別の料金なし(通常の窓口負担のみ) |
4-2. 各パターンの詳細解説
【パターンA】一部保険外療養が「○」の場合
医師がOTC類似薬の特別料金の対象であると判断して「○」を付した場合は、患者が先発医薬品を希望したかどうかにかかわらず、また処方箋に「変更不可」の印があろうとなかろうと、「OTC類似薬の一部保険外療養(薬価の4分の1)」のみが特別の料金として徴収されます。長期収載品としての差額負担は発生しません。
【パターンB】一部保険外療養が「―」で、患者が長期収載品を希望した場合
例えば、アトピー性皮膚炎で年間を通じてヘパリン類似物質を使用しているため、OTC類似薬としては除外要件を満たして「―」となったとします。
この場合、一部保険外療養の特別料金はかかりませんが、後発医薬品に変更できる状況で患者自身があえて先発医薬品(ヒルドイド)を希望した場合は、長期収載品の選定療養の対象となります。したがって、後発品最高薬価との差額の2分の1相当が特別の料金として請求されます。
【パターンC】一部保険外療養が「―」で、後発医薬品を選択した場合
上記と同様に一部保険外療養が「―」であり、薬局で後発医薬品(ヘパリン類似物質ローション等)を選択した場合、あるいは医師が「医療上必要」として後発品変更不可とした場合は、いかなる特別の料金も発生せず、従来の自己負担割合(1〜3割)のみの支払いとなります。
4-3. 薬局窓口での重大な注意点
調剤薬局の受付・会計において最も警戒すべきは、「一部保険外療養の対象外(―)だからといって、特別の料金が一切かからないとは限らない」という点です。
「アトピーの長期治療なのでOTC類似薬の追加負担はありません」と患者に説明した後に、先発医薬品を調剤して長期収載品の選定療養費を請求すると、「追加料金はかからないと言ったはずだ」と大きなトラブルに発展します。処方薬が長期収載品にも該当する場合は、必ず双方の制度の該当性をステップを踏んで確認・説明しなければなりません。
5. 新たな処方箋様式と調剤薬局における実務フロー
5-1. 処方箋に新設される「一部保険外療養」欄
2027年3月1日以降、処方箋の様式が改正され、薬剤処方欄に「一部保険外療養」欄が新設されます。処方医は、対象医薬品を処方する際、薬品名ごとに以下の記号を記載します。
-
「○」: 一部保険外療養の対象(特別の料金を徴収する)
-
「―」: 一部保険外療養の対象外(特別の料金を徴収しない)
5-2. 薬局における受付・調剤時の確認手順
保険薬局の薬剤師は、処方箋を受け付けた際、以下の手順で鑑査と入力を行います。
-
対象医薬品の有無を確認: 処方された薬剤が、厚生労働省の指定する77成分に含まれるかを確認します。
-
処方箋の記載記号を確認:
-
「○」の記載がある場合:一部保険外療養の特別の料金を算定します。
-
「―」の記載がある場合:一部保険外療養は算定しません。次に、長期収載品の選定療養に該当するかどうかを確認します。
-
5-3. 記載漏れ(空欄)の場合の疑義照会と「2つの例外」
処方箋に対象医薬品が記載されているにもかかわらず、「一部保険外療養」欄が空欄(「○」も「―」も記載されていない)である場合、原則として処方医への疑義照会が必須となります。医師の判断を確認しないまま薬局の判断で特別の料金を徴収したり免除したりすることは認められません。
ただし、以下の2つのケースに限り、疑義照会を行うことなく、薬局側の判断で「特別の料金の対象外(徴収なし)」として調剤することが認められています。
-
患者が18歳以下であることが明らかな場合:
処方箋の生年月日や保険証・マイナンバーカード等により、高校卒業相当期(18歳到達後の最初の3月31日まで)であることが確認できる場合。 -
妊婦・授乳婦であることが明らかな場合:
患者からの申告や母子手帳等により妊娠・授乳中であることが確認でき、処方薬がOTC医薬品では禁忌(服用しないこと)とされている成分である場合。
この2点に該当する場合は、患者の負担を遅延させないよう疑義照会なしで対象外として調剤し、事後的に処方医へ報告を行います。
5-4. レセプト(診療報酬明細書)と処方箋備考欄の取り扱い
医師が対象医薬品を特別の料金の対象外(処方箋に「―」と記載)とした場合、医療機関側は診療報酬明細書(レセプト)にその除外理由を記載する義務があります。
一方で、薬局に交付される処方箋の「備考」欄などに、その具体的な医学的理由(除外理由)を記載することまでは求められていません。薬局側は処方箋上の「―」の表示と、患者との対話を通じて得られた情報に基づいて適正に請求処理を行います。
5-5. 経過措置とシステム移行期の注意
-
旧処方箋様式の使用:
改正省令の施行時に残っている従来の処方箋様式については、当面の間、処方医が薬品名の近傍に手書き等で「一部保険外療養 ○」または「一部保険外療養 ―」と明記することで使用が認められます。 -
施行日前の処方箋:
2027年3月1日より前に発行された処方箋が、3月1日以降に薬局へ持ち込まれた場合、あるいはリフィル処方箋や分割調剤の2回目以降の調剤が3月1日以降になる場合であっても、処方日が施行前であれば制度施行前の扱いとなり、特別の料金は発生しません。
6. 患者負担額の試算シミュレーション
制度導入によって患者の窓口支払額が実際にどのように変わるのか、具体的な処方例を用いて試算します(※計算をわかりやすくするため、調剤基本料や服薬管理指導料等の技術料は除き、薬剤費部分のみを比較します)。
【ケース1】成人が風邪で解熱鎮痛薬の処方を受けた場合
-
処方内容: アセトアミノフェン錠200mg 1回2錠 1日3回 5日分(計30錠)
-
前提条件: 3割負担の成人患者、急性の上気道炎、1日最大用量がOTCと同等、除外要件に非該当。
-
薬価: 1錠 10円と仮定(総薬価:300円)
| 項目 | 制度導入前(従来) | 制度導入後(2027年3月〜) |
| 特別の料金(保険外) | なし(0円) | 300円 × 1/4 = 75円 |
| 保険給付対象薬剤費 | 300円 | 300円 × 3/4 = 225円 |
| 保険給付の自己負担(3割) | 300円 × 0.3 = 90円 | 225円 × 0.3 = 68円 |
| 患者が支払う合計薬剤費 | 90円 | 75円 + 68円 = 143円 |
このように、薬剤費部分の支払額は90円から143円となり、実質的に約1.6倍に増加します。
【ケース2】長期収載品かつOTC類似薬(ヒルドイド等)を希望した場合
-
処方内容: 先発医薬品(保湿外用薬)1本(50g)
-
前提条件: 3割負担の成人患者。アトピー性皮膚炎ではなく、年間継続治療の実績もないため、OTC類似薬としては「特別料金の対象(○)」。
-
薬価: 先発品薬価 1,000円、後発品最高薬価 400円と仮定。
この場合、前述の「優先ルール」が適用されます。
-
一部保険外療養が優先されるため、長期収載品の選定療養費は請求しません。
-
特別の料金(OTC類似薬分): 1,000円 × 1/4 = 250円
-
保険給付対象額: 1,000円 × 3/4 = 750円
-
保険自己負担分(3割): 750円 × 0.3 = 225円
-
患者支払総額: 250円 + 225円 = 475円
仮にこの患者がアトピーの通年治療中で、一部保険外療養が「除外(―)」となった上で先発品を希望した場合(パターンB)は、以下のようになります。
-
一部保険外療養の特別料金:0円
-
長期収載品の選定療養費:(1,000円 − 400円)× 1/2 + 消費税 = 300円 +30円 = 330円
-
通常の保険給付分:700× 0.3 = 210円
-
患者支払総額: 210円 +330円 = 540円
どちらの制度が適用されるかによって、徴収する特別の料金の名目と計算根拠が明確に異なることがわかります。
7. 調剤薬局における患者コミュニケーションとトラブル防止策
7-1. 窓口での事前告知と院内・薬局内掲示の徹底
一部保険外療養および選定療養による特別の料金は、患者にとって「実質的な値上げ」として受け取られがちです。会計時に突然「本日から追加の自費料金が発生します」と伝えると、強い不満や不信感を抱かれる原因となります。
厚生労働省の通知においても、医療機関および保険薬局は、特別の料金を徴収する理由について患者にあらかじめ十分な説明を行うことが適当であると明記されています。
-
待合室でのポスター・リーフレットの掲示:
「2027年3月1日より、市販薬と同じ成分の医療用医薬品について、国の方針により薬剤費の一部が保険外負担となります」という旨を、施行の数か月前から院内・薬局内に分かりやすく掲示します。 -
受付時のお声がけ:
処方箋を受け取った段階で「○」の記載がある薬剤が含まれている場合、調剤を始める前に「こちらの痛め止めの処方には、国の制度に基づく特別の料金が加算されます」と一言添えることが有効です。
7-2. 患者から寄せられる典型的な質問と薬局での回答法
Q1. 「長年ずっと病院でもらっている薬なのに、なぜ急に追加料金を取られるのですか?」
回答例:
「医療保険制度を将来にわたって維持するため、国全体のルールが変更されました。市販のドラッグストアでも購入できるお薬と同じ成分のものについては、病院で処方される場合であっても、お薬代の4分の1をご自身で負担していただくことになりました。ただし、特定の重いご病気や、医師が1年を通じて治療を続ける必要があると認めた場合などは免除される仕組みもございます。ご自身の治療計画につきましては、次回の診察時に主治医の先生にもご相談いただけます。」
Q2. 「ジェネリック医薬品に変えたら、この特別料金はなくなりますか?」
回答例:
「市販薬に類似していることによる追加料金(一部保険外療養)は、お薬の成分そのものが対象となっているため、先発医薬品であってもジェネリック医薬品であっても一律にかかります。ただし、ジェネリック医薬品はもともとのお薬の価格(薬価)が先発品よりも安いため、計算される追加料金や全体の窓口負担額を抑えることができます。」
Q3. 「ドラッグストアで市販薬を買うのと、病院で処方箋をもらうのはどちらが安くなりますか?」
回答例:
「市販薬はパッケージ代や流通コストが含まれるため、お薬単体の価格だけで見ると処方薬の方が自己負担が少ない場合もあります。しかし、医療機関を受診する際には初診料・再診料や処方箋料、薬局での調剤技術料などがかかります。症状が軽く短期間で治まるものであれば市販薬の購入が手軽で安く済む場合もありますが、症状が重い場合や原因がはっきりしない場合は、自己判断せず医療機関を受診されることをお勧めいたします。」
8. まとめ
2024年10月の「長期収載品の選定療養」に続き、2027年3月から開始される「OTC類似薬の一部保険外療養」は、日本の公的医療保険のあり方を根本から変える大きな転換点です。
制度の重要ポイントを改めて整理します。
-
制度の概要:
OTC医薬品と成分・投与経路・1日最大用量が同一の医療用医薬品(77成分1042品目)について、薬価の4分の1相当を患者が特別の料金として自己負担する。 -
免除規定の存在:
18歳以下の子ども、がん治療中、指定難病、国の公費負担医療、入院時、処置・手術後14日以内、通年で継続使用する慢性疾患、OTCにない効能への処方、妊婦・授乳婦などの9つの例外に該当する場合は特別料金が免除される。 -
処方箋様式の新設:
処方箋に「一部保険外療養」欄が設けられ、対象は「○」、対象外は「―」が記載される。空欄時は原則疑義照会が必要だが、18歳以下や明らかな妊婦等の場合は薬局判断で除外対応が可能(事後報告)。 -
選定療養との重複禁止:
OTC類似薬かつ長期収載品である場合、一部保険外療養(○)が優先され、長期収載品の選定療養との二重徴収は行われない。一部保険外療養が対象外(―)であっても、患者希望で先発品を選んだ場合は長期収載品の特別料金が発生する。
調剤薬局の薬剤師および医療事務スタッフは、単にレセコンの計算結果に従って会計を行うだけでなく、処方箋の記載の意味、患者ごとの病態背景、2つの制度の優先順位を正確に理解しておく必要があります。患者の不安や疑問に対して客観的かつ誠実な説明を行い、適正な保険調剤と医療の質の維持を両立させていくことが求められます。

