薬が増えるとリスクも増える?高齢者の「ポリファーマシー」対策と賢い薬の付き合い方

薬が増えるとリスクも増える?高齢者の「ポリファーマシー」対策と賢い薬の付き合い方

高齢のご家族を持つ方や、ご自身の健康管理を考える際、「最近、飲む薬の種類がどんどん増えてきたな……」と不安に感じたことはありませんか?

実は今、厚生労働省が中心となって、高齢者の薬の飲みすぎによるトラブル――「ポリファーマシー」――を防ぐための取り組みを強化しています。令和8年6月には「高齢者の医薬品適正使用の指針」という新しいガイドラインの概要がまとめられました。

この記事では、新しい指針の内容に基づいて、なぜ薬が増えるといけないのか、どうすれば安全に薬と付き合えるのかを、徹底的に解説していきます。

以下に令和8年6月に改訂された「高齢者の医薬品適正使用の指針:ポリファーマシー」に関するPDFファイルを添付します。必要な方は以下よりダウンロードしてください。ブラウザはgoogle chromeを推奨します。

ポリファーマシー高齢者の医薬品適正使用の指針


1. 「ポリファーマシー」って何? 単なる「飲みすぎ」とは違う理由

まず知っておきたいのが「ポリファーマシー」という言葉の意味です。これは単に「たくさんの薬を飲んでいる」という状態を指す言葉ではありません。

「数」ではなく「害」が問題

ポリファーマシーとは、薬の種類が多いことによって、

  • 副作用(薬物有害事象)のリスクが高まる

  • 飲み忘れや飲み間違いが増える

  • 正しく薬を飲み続けることが難しくなる

    といった「害」が出ている状態のことを指します。

「6種類以上」がひとつの目安

厚生労働省の資料によると、高齢者の場合、飲む薬が6種類以上になると、副作用が出る頻度がグンと高まるというデータがあります。

なぜ高齢者は薬の影響を受けやすいのでしょうか? それは、年を重ねるごとに体の機能が変化するからです。

  • 肝臓や腎臓の働きが弱まる: 薬を分解したり外に出したりする力が落ちるため、薬が体の中に長く残り、効きすぎてしまうことがあります。

  • 体内の水分量が減る: 水分が減る一方で脂肪が増えるため、薬の濃度が変化しやすくなります。

  • 脳への影響が出やすい: 薬に対する過敏性が高まり、ふらつきや意識の混乱が起きやすくなります。

つまり、若い頃と同じ感覚で薬を飲み続けると、思わぬ体調不良を招く可能性があるのです。


2. なぜ薬は増えてしまうのか? 「処方カスケード」の罠

本人は健康になりたいと思っているのに、なぜ薬の種類は歯止めが効かずに増えてしまうのでしょうか。そこには、高齢者特有の医療の仕組みが関係しています。

複数の病院にかかっている

「腰が痛いから整形外科」「血圧が高いから内科」「目がかすむから眼科」……。このように、いくつもの専門医にかかるのは高齢者では一般的です。しかし、それぞれの医師が別の病院で出されている薬を完全に把握できていないと、同じような成分の薬が重なったり、飲み合わせの悪い薬が処方されたりすることがあります。これがポリファーマシーの大きな原因です。

「処方カスケード(連鎖)」という悪循環

これが最も注意すべきポイントです。「処方カスケード」とは、以下のような流れを指します。

  1. ある薬(薬A)を飲む。

  2. その薬の副作用で、体調が悪くなる(例:ふらつきが出る)。

  3. その体調不良を「新しい病気」だと勘違いし、それを抑えるための別の薬(薬B)が追加される。

  4. さらに薬Bの副作用が出て、また別の薬(薬C)が増える……。

このように、副作用を解消するためにさらに薬を重ねることで、雪だるま式に薬が増えてしまうのです。もし最初の「ふらつき」が薬Aのせいだと気づいていれば、薬を減らすだけで解決したかもしれません。


3. 要注意! 高齢者が気をつけたい「7つの症状」

薬の副作用というと「発疹」や「吐き気」を思い浮かべるかもしれませんが、高齢者の場合は**「年齢のせいかな?」と見過ごしてしまいそうな症状**として現れるのが特徴です。これを「老年症候群」と呼びます。

以下の症状が出てきたら、新しく増えた薬や、ずっと飲んでいる薬の副作用を疑ってみる必要があります。

  1. ふらつき・転倒: 睡眠薬や血圧の薬などが原因で、足元がおぼつかなくなることがあります。

  2. 物忘れ・記憶障害: 「認知症かも?」と思ったら、実は薬の影響で頭がぼーっとしていただけというケースもあります。

  3. せん妄: 急に場所がわからなくなったり、興奮したりする状態です。

  4. 食欲低下: 胃薬や痛み止めが胃腸に負担をかけている可能性があります。

  5. 便秘: 多くの薬(抗コリン薬など)に共通する副作用です。

  6. 抑うつ: 気持ちが沈んだり、意欲がなくなったりすることも薬の影響である場合があります。

  7. 排尿障害・尿失禁: 尿が出にくくなったり、逆に漏れやすくなったりすることがあります。

これらの症状が出たときに、「もう年だからしょうがない」と諦めたり、市販の薬を買い足したりする前に、まずは医師や薬剤師に相談することが大切です。 ポリファーマシー


4. 専門家はどうやって薬を見直すのか?

薬を減らすといっても、勝手にやめるのは非常に危険です。今回の指針では、医師や薬剤師がどのように薬をチェックすべきかという「フローチャート(手順)」が示されています。

薬以外の解決策を考える

まず、その症状が本当に「薬」でしか治せないのかを検討します。

例えば、軽い高血圧なら「食事の改善や運動」、眠れないなら「生活リズムの調整」といった**「非薬物療法(薬を使わない方法)」**を優先できないか考えます。

優先順位をつける

たくさんの薬を飲んでいる場合、「命に関わる大切な薬」と「実は漫然と飲み続けているだけの薬」を仕分けします。専門家は、今の患者さんの体力や生活環境に合わせて、薬の必要性を再評価します。

「少量から開始、ゆっくり増やす」

新しい薬を始める場合も、高齢者の場合は「少量から始めて、様子を見ながら慎重に増やす(Start Low and Go Slow)」というルールが徹底されます。


5. 薬の管理をラクにするための工夫と支援

薬の種類が増えると、管理するだけで一苦労です。指針では、患者さん本人や家族の負担を減らすための具体的なアドバイスも盛り込まれています。

飲み方をシンプルにする

  • 一包化(いっぽうか): 飲むタイミング(朝・昼・晩)ごとに、複数の薬を一つの袋にまとめてもらう方法です。

  • 配合剤: 2種類以上の成分が1つの粒に入っている薬に切り替えることで、飲む数を減らせます。

  • 貼付剤(パッチ薬): 飲み込むのが難しい場合、貼り薬に変更できることもあります。

周りのサポートを活用する

  • お薬カレンダーやピルケース: 視覚的に「いつ飲むか」をわかりやすくします。

  • 多職種連携: 医師や薬剤師だけでなく、訪問看護師やケアマネジャーも生活状況(正しく飲めているか)を確認し、情報を共有します。


6. 具体的に注意すべき薬のリスト(参考資料より)

指針の参考資料には、特に高齢者が注意すべき薬の種類が具体的に挙げられています。ご自身やご家族の薬箱にないかチェックしてみてください。

  • 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など): ふらつき、転倒、骨折のリスクが高まります。長期間の服用は依存の原因にもなります。

  • 痛み止め(NSAIDs): ロキソニンなどの強い痛み止めは、高齢者の腎臓に負担をかけ、胃潰瘍の原因にもなりやすいです。

  • 抗コリン薬: 風邪薬、鼻炎薬、胃腸薬、尿漏れの薬などに含まれます。口の渇き、便秘、物忘れなどを引き起こしやすい成分です。

  • 糖尿病の薬: 低血糖(冷や汗、震え、意識障害)になりやすく、特に高齢者は重症化するまで気づかないことがあるため注意が必要です。

  • 血圧の薬: 効きすぎると立ちくらみが起き、転倒の原因になります。

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7. 今日からできる! 賢い患者・家族になるための3か条

ポリファーマシーを防ぐために、私たちにできることは何でしょうか。

① 「お薬手帳」を1冊にまとめる

病院ごとに手帳を分けていませんか? それでは意味がありません。必ず1冊の手帳にすべての薬(サプリメントや市販薬も含む)を記録し、どの病院でも提示してください。これが「一元管理」の第一歩です。

② 「かかりつけ」の医師・薬剤師を持つ

自分の病気全体を把握してくれる「かかりつけ医」と、薬の飲み合わせをチェックしてくれる「かかりつけ薬局」を決めましょう。特に薬剤師は、複数の病院からの薬をチェックする「薬の番人」です。

③ 自分の体調の変化をメモしておく

「最近、食欲がない」「夜中に何度も目が覚める」といった、ちょっとした変化をメモして医師に伝えましょう。それが薬の副作用に気づくきっかけになります。


まとめ

薬は本来、私たちの健康を守り、生活の質を向上させてくれる素晴らしいものです。しかし、高齢者にとってはその「量」や「種類」が、かえって毒になってしまうことがあります。

今回の「高齢者の医薬品適正使用の指針」が伝えている最も大切なメッセージは、「薬を増やすことだけが医療ではない」ということです。

  • ポリファーマシーは、単なる多剤服用ではなく、それによる「害」のこと。

  • 6種類以上の薬を飲んでいる場合は、副作用のリスクに要注意。

  • ふらつき、物忘れ、便秘などは「年のせい」ではなく「薬のせい」かもしれない。

  • お薬手帳を1冊にまとめ、医師や薬剤師と「薬を整理する」ための相談をすることが大切。

「薬を減らすのは不安……」と感じる方もいるかもしれませんが、プロの指導のもとで薬を整理することは、結果として将来の転倒や体調不良を防ぎ、いつまでも元気に自分らしく過ごすことにつながります。

もし気になる症状や不安があれば、次回の診察時に「この薬、今の私に本当に必要ですか?」と、まずは一言相談してみてください。それが、より安全で健やかな毎日への大きな一歩になるはずです。

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