おじさん薬剤師の日記

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片頭痛 痛み止め

片頭痛はなぜ起こる?その不思議なメカニズム

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片頭痛はなぜ起こる?その不思議なメカニズム

「頭がズキズキと痛む」「目の奥がえぐられるように痛い」

こうした辛い頭痛に悩まされている方は、日本国内だけでも数千万人にのぼると言われています。

頭痛と一口に言っても、その種類や原因は実に様々です。

市販の痛み止めでなんとかなる軽いものから、日常生活がままならないほど重篤なものまで、その症状の現れ方は千差万別です。

今回は、慢性頭痛の中でも特に多くの人を苦しめている「片頭痛」と、耐え難い激痛で知られる「群発頭痛」について、その発症メカニズムから具体的な症状、そして将来的な予後まで、専門的な知見をわかりやすく噛み砕いて解説していきます。

片頭痛はなぜ起こる?その不思議なメカニズム

「片頭痛」という名前は有名ですが、その正体が体の中でどのように発生しているのか、完全に解明されているわけではありません。しかし、近年の研究でいくつかの有力な説が提唱されています。

ここでは、代表的な3つの説について、専門用語をできるだけわかりやすい言葉に置き換えて見ていきましょう。

1. 血管説:血管のポンプ運動が痛みを引き起こす?

まず一つ目は、古くから言われている「血管説」です。これは、脳の血管の収縮と拡張(ポンプのような動き)が痛みに関係しているという考え方です。

  1. ストレスとセロトニンの放出

    脳にストレスや何らかの刺激が加わると、血液中にある血小板から「セロトニン」という物質が大量に放出されます。セロトニンは血管を収縮させる作用を持っています。

  2. 血管の収縮と前兆

    セロトニンの作用で脳の血管がギュッと収縮します。これにより脳への血流が一時的に悪くなり、これが片頭痛の前触れ(予兆や前兆)を引き起こす原因となります。

  3. 血管の拡張と頭痛の発現

    放出されたセロトニンはすぐに分解されて減少してしまいます。すると、今まで収縮していた血管が反動(リバウンド)で急激に拡がります。この急激な拡張が、ズキンズキンという拍動性の痛みを引き起こすのです。

2. 皮質拡延性抑制説:脳内を走る電気の波

少し難しい名前ですが、「脳の興奮の波」と考えてください。

何らかの刺激によって神経細胞が一時的に興奮し、その後、逆に活動が抑え込まれる現象が起きます。この現象が、大脳の後ろにある「視覚野(物を見るための中枢)」へと波のように徐々に広がっていきます。

この現象に伴い脳の血流も低下するのですが、これが片頭痛の前兆として有名な「閃輝暗点(せんきあんてん:目の前にギザギザした光が見える現象)」の広がり方と一致していることから、発作の引き金の一つと考えられています。

3. 三叉神経血管説:痛み物質「CGRP」の暴走

現在、最も有力視されているのがこの説です。顔の感覚や血管のコントロールを司る「三叉神経」が主役です。

脳の血管の周りには、三叉神経から伸びる神経線維が張り巡らされています。ここには2つの重要なルートがあります。

  • C線維(シーせんい): 脳血管に「拡がれ!」という命令を送るルート

  • Aδ線維(エーデルタせんい): 脳に「痛い!」という信号を送るルート

このメカニズムを拡大して見てみましょう。

  1. 視床下部(脳の司令塔)に刺激が加わると、C線維の末端から「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」という物質が大量に放出されます。

  2. このCGRPが血管の受容体にくっつくと、血管が拡張します。

  3. さらにCGRPは「肥満細胞」という細胞も刺激し、炎症を引き起こす物質を撒き散らさせます。これにより、血管の周りで炎症が起き、さらに血管が拡がってしまいます。

  4. この「血管の拡張」と「炎症」の情報が、Aδ線維を通じて脳に「痛み」として伝えられ、激しい頭痛を感じるようになるのです。

セロトニンは頭痛の「守り神」

ここで再び「セロトニン」の登場です。実はセロトニンは、片頭痛を防ぐ重要な役割も担っています。

セロトニンが神経や血管にある受容体(鍵穴のようなもの)に結合すると、以下の3つの良い働きをします。

  1. C線維からの「CGRP(痛み物質)」の放出を抑える。

  2. 血管の拡張や炎症を抑える。

  3. Aδ線維からの「痛み信号」の伝達をブロックする。

つまり、脳内のセロトニンが不足すると、これらの抑制が効かなくなり、片頭痛が起きやすくなるのです。ストレスなどでセロトニンが減ることが頭痛の一因となるのは、このためです。

ちなみに、片頭痛の特効薬である「トリプタン製剤」は、このセロトニンの代わりとして受容体に働きかけ、発作を鎮める薬です。

片頭痛のストーリー:予兆から後発症状まで

片頭痛は、いきなり痛くなるだけではありません。実は4つのステージを経て進行することが多いのです。

ご自身の症状と照らし合わせてみてください。

第1ステージ:予兆期(嵐の前の静けさ)

頭痛が始まる前に、何らかのサインが出ることがあります。

具体的には、「生あくび」「異常な空腹感(過食)」「疲労感」「集中力が続かない」といった症状です。

特に過食は、片頭痛の誘引の一つである「空腹」に対する体の防御反応とも考えられています。

第2ステージ:前兆期(視覚の異常など)

頭痛の直前に現れる症状です。

代表的なのが「閃輝暗点」です。視野の中にキラキラ・ギザギザした光が現れ、徐々に広がって視界が見えにくくなります。

他にも、チクチクした感覚、半身のしびれ、言葉が出にくくなる(失語)といった症状が出ることもあります。もちろん、前兆が全くない方もいます。

第3ステージ:頭痛期(激しい痛みの襲来)

いよいよ痛みの本番です。

ズキズキと脈打つような痛みに加え、「吐き気・嘔吐」を伴うことが多いです。

また、感覚が過敏になり、普段なら気にならない
「光・音・におい」**が耐え難いほど不快に感じられます。

触れるだけで痛い?「アロディニア(異痛症)」

この時期に特徴的なのが「アロディニア(異痛症)」です。

これは、普段なら痛くないはずの刺激を「痛み」として感じてしまう現象です。

  • 枕に頭を乗せるだけで痛い

  • 髪をブラシでとかすと痛い

  • メガネをかけると痛い

  • シャワーが当たると痛い

これらは神経が過敏になりすぎている証拠です。片頭痛患者さんの約2/3に、このアロディニアの症状が認められると報告されています。

第4ステージ:後発症状期(嵐の去った後)

痛みが引いた後も、体調不良は続きます。

食欲低下、疲労感、強い眠気などが代表的ですが、気分の落ち込み(うつ状態)や、逆に気分が高揚する(躁状態)といった気分障害を伴うケースもあります。

実際、片頭痛とうつ病は合併する頻度が高いと言われています。

何が片頭痛の引き金になるのか?

片頭痛を防ぐには、自分の「誘発因子(トリガー)」を知ることが大切です。

精神的・身体的要因

ストレスや緊張はもちろんですが、睡眠も重要です。

片頭痛患者さんへのアンケート調査によると、発作のきっかけとして最も多かったのが「睡眠不足」71.1%でした。

しかし、逆に「睡眠過多(寝すぎ)」も27.6%と、決して少なくありません。

「週末に寝だめをしたら頭が痛くなった」というのは、典型的な片頭痛のパターンなのです。

他にも、「頸や肩の凝り」「旅行・外出」「疲労」「眼の疲れ」などが引き金になります。

また、女性ホルモンの変動も大きく関わるため、月経周期との関連も非常に強いです。

環境・食事の要因

  • 環境: 天候の変化(特に低気圧)、気温差、炎天下、人混み、強いにおいなど。

  • マスク: 長時間のマスク着用で二酸化炭素を吸い込みすぎると脳血管が拡張しやすくなります。耳ゴムによるこめかみへの圧迫も要注意です。

  • 食事(血管を拡張させるもの): アルコール(特に赤ワイン)、ポリフェノール、亜硝酸ナトリウム(ハム・ソーセージの発色剤)、グルタミン酸ナトリウム(調味料)などは避けたほうが無難です。

  • 食事(血管収縮→拡張のリバウンドを起こすもの): カフェイン(コーヒー)、チラミン(チーズ、チョコ、赤ワインに含まれる)。これらは摂取直後は血管を縮めますが、効果が切れた後にリバウンドで血管が拡がり、頭痛を招くことがあります。

自殺頭痛とも呼ばれる激痛「群発頭痛」

片頭痛と並んで知っておくべきなのが「群発頭痛」です。

その痛みは片頭痛を遥かに凌駕し、「王様の頭痛」や、あまりの痛さに「自殺頭痛」とすら呼ばれることがあります。

群発頭痛の診断基準と特徴

  1. 場所: 左右どちらか一方の「目の裏側」

  2. 強さ: 重度〜極めて重度(のたうち回るほどの痛み)

  3. 時間: 15分〜180分間続く

  4. 頻度: 2日に1回〜1日に8回程度

  5. 随伴症状: 痛む側の目が充血する、涙が出る、鼻水・鼻詰まり、顔に汗をかく、瞳孔が小さくなるなど。

これらの条件を満たす発作がこれまでに5回以上あれば、群発頭痛と診断されます。

反復性と慢性

群発頭痛には2つのタイプがあります。

  • 反復性群発頭痛: 「群発期」と呼ばれる発作が起きる期間(通常2週間〜3ヶ月)があり、その間は毎日発作が起きます。しかし、それが終わると3ヶ月以上の「寛解期(痛くない期間)」が訪れます。

  • 慢性群発頭痛: 発作が1年以上続き、寛解期がない、またはあっても3ヶ月未満という、非常に過酷なタイプです。

群発頭痛の正体は?

群発頭痛のメカニズムには、大きく3つの要因が関わっています。

  1. 体内時計の狂い(視床下部とメラトニン):

    発作が明け方の決まった時間に多いことから、睡眠と覚醒のリズムを作る「メラトニン」の分泌異常や、脳の「視床下部」の機能異常が関与していると考えられています。

  2. CGRPの過剰分泌:

    片頭痛でも登場した痛み物質「CGRP」ですが、群発頭痛の発作時には、なんと正常な人の約4倍もの濃度になっているというデータがあります。

  3. 血管の拡張と神経圧迫:

    目の奥にある内頸動脈や海綿静脈洞という部分で血流が滞り、むくみ(浮腫)が発生します。これが三叉神経を物理的に圧迫するため、目の充血や涙といった症状と共に激痛を生むと推測されています。

絶対に避けるべきもの

群発頭痛にとって最悪の誘発因子は「アルコール」と「タバコ」です。

群発期に飲酒すると、ほぼ100%の確率で激痛発作が起きます。

実際、患者さんにはヘビースモーカーや大酒飲みが多い傾向にあります。群発期だけでも禁酒・禁煙は必須です。

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頭痛は治るのか?〜長期的な予後について〜

最後に、これらの慢性頭痛が将来どうなっていくのか、海外の追跡データを参考にご紹介します。決して楽観できる数字ばかりではありませんが、現実を知ることは治療継続のモチベーションにもなります。

片頭痛の10年後

片頭痛患者さんを10年間追跡調査した結果です。

  • 10%: 片頭痛が完全に消失しました。

  • 53%: 軽度の頭痛へと改善しました。

  • 37%: 依然として片頭痛が持続していました。

半数以上の方は改善傾向にありますが、約4割の方は10年後も悩まされています。

さらに、より重い「慢性片頭痛」の患者さんを2年間治療した成績では、1/4(25%)は寛解(症状が落ち着くこと)に至りましたが、残りの3/4(75%)は改善が見られませんでした。根気強い治療が必要であることがわかります。

緊張型頭痛の3年後

比較的軽いとされる緊張型頭痛でも、3年間の追跡で以下のような結果が出ています。

  • 45%: 消失

  • 39%: 持続

  • 16%: 慢性緊張型頭痛へと悪化

群発頭痛の10年後

最も過酷なデータとなっているのが群発頭痛です。10年間の追跡調査では、以下のようになりました。

  • 81%: 改善がなく持続

  • 13%: 慢性型へと悪化

つまり、多くの患者さんが10年以上もの長きにわたり、この頭痛と付き合い続けているという現実があります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

片頭痛や群発頭痛は、単なる「頭の痛み」ではなく、脳内の神経伝達物質や血管、体内時計などが複雑に絡み合った身体疾患です。

「たかが頭痛」と我慢したり、市販薬を飲みすぎて逆に悪化させたり(薬物乱用頭痛)するケースも少なくありません。

特に、ご紹介したようなメカニズムに基づき、現在は「CGRP」に直接働きかける新しい予防薬や、効果的な特効薬も登場しています。

71.1%の方が睡眠不足で発作を起こすというデータがあるように、生活習慣の見直しも非常に有効です。

もしあなたが、あるいはご家族が辛い頭痛に悩んでいるなら、諦めずに頭痛外来などの専門医を受診してください。

正しい知識と適切な治療が、あなたの生活を痛みから守る盾となるはずです。

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執筆者:ojiyaku

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