乳糖不耐症と牛乳アレルギーの違いとは?薬の添加物への注意点と治療薬を解説

乳糖不耐症と牛乳アレルギーの違いとは?薬の添加物への注意点と治療薬を解説

「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする」「乳製品を食べると湿疹が出る」……。これらは一見似たような症状に見えますが、実は「乳糖不耐症」と「牛乳アレルギー」という、全く異なるメカニズムによって引き起こされる状態です。

これら二つの違いを正しく理解していないと、適切な対処ができないばかりか、思わぬ健康被害を招く恐れがあります。特に、私たちが日常的に服用する「医薬品」の中には、多くの乳糖(ラクトース)が含まれていることをご存知でしょうか。

本記事では、乳糖不耐症と牛乳アレルギーの決定的な違い、それぞれの症状の進行、そして医薬品に含まれる乳糖への注意点と治療薬について、臨床データを交えて詳しく解説します。


1. 乳糖不耐症と牛乳アレルギー:根本的なメカニズムの違い

まず、この二つの違いをひと言で表すと、以下のようになります。

  • 乳糖不耐症: 消化器系の問題(「消化できない」ことによる不調)

  • 牛乳アレルギー: 免疫系の問題(「体が異物とみなして攻撃する」ことによる拒絶反応)

乳糖不耐症とは

乳糖不耐症は、乳製品に含まれる糖分である「乳糖(ラクトース)」を分解する酵素「ラクターゼ」が不足しているために起こります。

人間は赤ちゃんの頃、母乳を消化するために多くのラクターゼを持っていますが、成長とともにその活性が低下するのが一般的です。これを「成人型乳糖分解酵素欠損症」と呼びます。世界人口の約75%、特にアジア人においては90%以上がこの傾向にあるというデータもあり、病気というよりは「体質」に近いものと言えます。

牛乳アレルギーとは

一方、牛乳アレルギーは、牛乳に含まれる「タンパク質(カゼインやホエイ)」に対して、体の免疫システムが過剰に反応してしまう状態です。

免疫細胞が「牛乳のタンパク質=敵」と認識し、IgE抗体という武器を作って攻撃を仕掛けることで、全身に炎症反応を引き起こします。これは微量でも命に関わる「アナフィラキシーショック」を引き起こす可能性があるため、非常に注意が必要です。

牛乳と乳糖


2. 症状の現れ方と進行の違い:自覚症状のチェックリスト

摂取してから症状が出るまでの時間や、症状の部位にも大きな違いがあります。

乳糖不耐症の初期症状と進行

乳糖不耐症の場合、症状は主に「腸」に限定されます。

  • 初期症状(摂取後30分〜2時間):

    お腹が張る、ガスが溜まる、ゴロゴロと鳴る(腹鳴)。

  • その後の症状進行:

    腹痛を伴う下痢、水様便。これは、腸内で分解されなかった乳糖が水分を呼び込み、さらに大腸の細菌によって発酵してガスを発生させるためです。

  • 自覚症状の特徴:

    「食べた量」に比例して症状が重くなるのが特徴です。少量の乳製品なら平気でも、コップ一杯の牛乳を飲むと動けなくなる、といった具合です。

牛乳アレルギーの初期症状と進行

牛乳アレルギーは全身に症状が現れます。

  • 初期症状(摂取後数分〜1時間以内):

    皮膚の痒み、蕁麻疹(じんましん)、唇や目の周りの腫れ。

  • その後の症状進行:

    咳、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)、鼻水。さらに進行すると、嘔吐や激しい腹痛、意識混濁、血圧低下(アナフィラキシーショック)に至ります。

  • 自覚症状の特徴:

    「摂取量」に関わらず、微量でも激しい症状が出ることがあります。皮膚症状から始まり、急速に呼吸器や循環器に症状が波及するのが恐ろしい点です。


3. 意外な落とし穴:医薬品に含まれる「乳糖」の影響

乳糖不耐症の方にとって、食品としての牛乳以上に意識しにくいのが「薬の添加物」としての乳糖です。

なぜ薬に乳糖が使われるのか?

乳糖(ラクトース)は、以下の理由から医薬品の「賦形剤(ふけいざい)」として世界中で最も頻繁に使用されています。

  1. 化学的に安定しており、主成分の邪魔をしない。

  2. 適度な硬さの錠剤を作りやすい。

  3. ほんのり甘く、飲みやすい。

しかし、重度の乳糖不耐症の方は、このわずかな乳糖にも反応することがあります。

医薬品の乳糖を摂取した際の症状

錠剤1錠に含まれる乳糖は微量(通常0.1g〜0.2g程度)ですが、複数の薬を併用している場合や、消化管が過敏になっている状態では、以下のような自覚症状が出ることがあります。

  • 慢性的な軟便。

  • 薬を飲んだ直後の軽い腹痛。

  • お腹の張り。

「薬の副作用で下痢をしている」と思っていた原因が、実は薬の成分ではなく、土台となっている乳糖であったというケースは少なくありません。乳糖不耐症の方では上記の程度がひどくなるというイメージです。

 

「牛乳アレルギー」の方が乳糖を摂取すると?


1. 「牛乳アレルギーの原因」と「乳糖」は別物

まず知っておきたいのが、牛乳アレルギーの原因と、乳糖の違いです。

  • 牛乳アレルギーの原因: 牛乳に含まれる「タンパク質」(カゼインなど)に対して免疫が過剰に反応すること。

  • 乳糖: 牛乳に含まれる「糖分」のこと。

アレルギーはあくまで「タンパク質」に反応するもので、「糖分」そのものには反応しません。

2. 薬に使われる乳糖は「超ハイクオリティ」

薬に使われる乳糖(医薬品添加物としての乳糖)は、非常に高い技術で精製(不純物を取り除くこと)されています。

そのため、アレルギーの原因となる「牛乳タンパク」は、ほとんど取り除かれています。理論上は「ほぼ糖分だけ」の状態なので、アレルギー反応は起きにくいのです。


注意が必要なのは「どんな人」?

「ほとんど大丈夫」と言われても、やはり不安ですよね。特に注意が必要なのは、以下のようなケースです。

① 極めて重症の牛乳アレルギーがある方

1滴の牛乳や、目に見えないほどの微量のタンパク質でも、呼吸困難などの重い症状(アナフィラキシー)が出る方の場合は、乳糖の中にわずかに残ったタンパク質に反応してしまう可能性がゼロではありません。

② 特定の薬(吸入薬など)

一部の吸入薬(粉を吸い込むタイプの喘息の薬など)には、乳糖が比較的多く含まれているものがあり、牛乳アレルギーがある人には「慎重に使うこと」や「避けること」が推奨されている製品もあります。

粉末性の吸入薬には添加物として「乳糖水和物」が入っており、注意が気として

「夾雑物として乳蛋白を含む。」と記されているものがあります。(夾雑物(きょうざつぶつ)とは、ある物質や対象物の中に混入・付着している、本来は不要な「余計な異物」のことです)

重度の牛乳アレルギーの方は医師へ相談してください。


安心して薬を飲むための「3つのアクション」

牛乳アレルギーがある方が、病院や薬局で安心して過ごすためのポイントです。

  1. お薬手帳に「牛乳アレルギー」と大きく書く

    これが一番大切です。お薬手帳の表紙やアレルギー欄に目立つように書いておきましょう。

  2. 医師・薬剤師に必ず伝える

    診察時や薬局のカウンターで、「牛乳アレルギーがありますが、この薬に乳糖は含まれていますか?飲んでも大丈夫ですか?」と直接聞いてください。

  3. 「乳糖フリー」の薬を選んでもらう

    もし不安が強い場合や重症の場合は、乳糖を含まない別の薬(代わりの薬)に変えてもらうことができる場合もあります。

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4. 乳糖不耐症の治療薬と改善へのアプローチ

乳糖不耐症による症状を抑えるためには、不足している酵素を補う「消化酵素剤」の使用が有効です。

主要な治療薬(成分名と商品名)

現在、日本で広く処方されている主な薬は以下の通りです。

  • 成分名:チラクターゼ(商品名:ガランターゼ散)

  • 成分名:β-ガラクトシダーゼ(商品名:ミルラクト)

これらの薬は、本来体内で分泌されるべき乳糖分解酵素を製剤化したものです。

薬理作用の詳細

チラクターゼ(ガランターゼ散)の作用機序は非常にシンプルかつ物理的です。

  1. 分解作用: 摂取した乳糖を、腸に吸収されやすい「ブドウ糖」と「ガラクトース」に加水分解します。

  2. 浸透圧の正常化: 未消化の乳糖が腸内に残るのを防ぐため、腸管内への過剰な水分流入(下痢の原因)を阻止します。

  3. 発酵の抑制: 大腸菌による乳糖の発酵を防ぎ、ガス発生と腹痛を抑えます。

開発の経緯と既存薬との差別化

乳糖分解酵素製剤は、もともと乳児の消化不良性下痢症(いわゆる「白い便」が出る下痢)を治療するために開発されました。

かつては、下痢をすると「絶乳(ミルクを止める)」という選択肢しかありませんでしたが、それだと栄養失調のリスクがありました。そこで、ミルクを飲ませながら乳糖だけを分解できるこれらの薬剤が登場したのです。

成人の乳糖不耐症に対しても、食事の制限を最小限にしつつ、QOL(生活の質)を維持できる点が、単なる「下痢止め(止瀉薬)」との大きな違いです。止瀉薬は便を固めるだけですが、これらの酵素剤は「原因物質を無害化する」根本的なアプローチをとります。

臨床データに基づく効果

臨床試験において、チラクターゼ(ガランターゼ散)の有効性は高く評価されています。

  • 乳児の消化不良性下痢症: 臨床成績において、**約85.7%から92%の症例で症状の改善(有効以上)**が認められています。

  • 成人への応用: 成人の乳糖不耐症患者においても、食直前の服用により、腹痛や下痢の発現率が有意に低下することが確認されています。

効果発動時間と持続時間

  • 効果発動時間: 服用後、胃を通り過ぎて十二指腸から小腸上部に到達した時点で効果を発揮します。そのため、食事の直前、または食事と同時に服用することが最も効果的です。

  • 効果持続時間: 薬自体が体内に留まる時間は短く、その時の「食事に含まれる乳糖」を分解する使い切りタイプです。そのため、次の食事で乳製品を摂る際には、再度服用する必要があります。


5. 治療薬を使用することによる副作用

これらの酵素製剤は、もともと体にある成分を補う性質のものなので、副作用は非常に少ないとされています。しかし、稀に以下のような症状が現れることがあります。

  1. 過敏症: 発疹、痒み。もしこれらの症状が出た場合は、酵素自体に対するアレルギーの可能性があるため、直ちに服用を中止してください。

  2. 消化器症状: 逆に便秘になったり、腹部膨満感を感じたりすることが稀にあります。

  3. 乳児における注意: 長期間の使用により、便が固くなりすぎて排便困難になる場合があります。

牛乳アレルギーの方が「乳糖不耐症の薬」を飲んでも、アレルギー反応自体を抑えることはできません。ここを混同しないことが重要です。


まとめ

乳糖不耐症と牛乳アレルギーは、似て非なるものです。

  • 乳糖不耐症は、糖の分解ができない「消化不良」であり、チラクターゼ(ガランターゼ散)などの酵素剤で適切に管理することが可能です。臨床的にも90%近い有効性が示されており、食前の服用で快適な生活を送ることができます。

  • 牛乳アレルギーは、タンパク質に対する「免疫拒絶反応」であり、微量でも命に関わります。こちらは酵素剤では防げず、厳格な除去や専門医による免疫療法が必要です。

また、薬の添加物としての乳糖に敏感な方は、処方箋を受け取る際に薬剤師へ相談し、乳糖を含まない「乳糖フリー」の製剤への変更を検討してもらうのも一つの手段です。

ご自身の体の反応が「消化の問題」なのか「免疫の問題」なのかを正しく見極め、適切な薬と知識を持って向き合っていくことが、健やかな毎日の第一歩となります。

 

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