ワセリンを塗った部分に紫外線があたって問題ない話
塗り薬をぬった皮膚に紫外線があたるとどうなるかについてのお話しです。
医療用医薬品や市販の塗り薬には「薬成分」と「基剤」が含まれています。
例えばリンデロンV軟膏というお薬にははかゆみ止めの成分と添加物が含まれています。
リンデロンV軟膏1g中に
主成分(ベタメタゾン吉草酸エステル):1.2mg
添加剤・基剤(流動パラフィン・白色ワセリンなど):998.8mg
という組成となっています。
添加剤の流動パラフィンとは透明で少し粘性のある液体です。流動パラフィンの紫外線吸収度は限りなくゼロに近いため、高級化粧品などに使われています。
添加剤998.8mg中に含まれている流動パラフィンの具体的な含量は表記されておりませんが、流動パラフィンが液体であることを踏まえますと、998.8mgの多くが白色ワセリンであることが想像されます。
今回、ワセリンを塗った部分に紫外線があたるとどうなるの?というテーマで調べようと思った理由は、ほとんどの塗り薬の基剤として「白色ワセリン」「流動パラフィン」が使用されているため、判断材料として流用しやすいと思ったためです。
結論としては、ワセリンのSPFは1.3であり、塗った部分は少しだけ紫外線吸収を抑える効果が期待される
です。では、以下に詳細を記します。
~紫外線B波~
紫外線B波を浴びて24時間後に皮膚が赤くなり炎症を起こす最小の紫外線量のことをMED(Minimal erythema dose)呼びます。
例えば、日焼け止めを塗ると、塗った部分には紫外線をたくさんあてなければ、炎症は起きません。つまり、紫外線をぬった部分の皮膚はMEDが高いと評価されます。
紫外線B波は肌表面に炎症を及ぼし、シミ・ソバカス・乾燥の原因となります。
紫外線B波を皮膚に照射した場合、ワセリンを塗っていない部分のMEDは94.3mJ/㎠であるのに対して、ワセリンを薄く塗った部分のMEDは110.3 mJ/㎠、ワセリンを厚塗りした部分のMEDは125.7 mJ/㎠というデータがあります。
ワセリン薄塗り:0.1cc/25㎠
ワセリン厚塗り:0.3㏄/㎠
上記のデータを見る限り、ワセリンを塗った方が、MED値が大きくなるため、塗らないよりは塗った方が紫外線から身を守ることができるんだなぁということがわかります。
しかし、MEDは一般生活で使用する指標ではありません。日焼け止めクリームとして販売されいる商品にはSPFという単位が書いてありますので、ワセリンのMEDをSPFの値に換算してみます。
SPFとは(紫外線防御効果:Sun Protection Factor)という指標であり、
SPF=日焼け止め化粧品を塗布したMED/素肌のMED
という式で求められます。
厚塗りワセリンのSPFを計算してみると
SPF=125.7/94.3=1.33
SPF1.3という値になります。
日焼け止め化粧品の使用時における適正SPF値の例としては
SPF:5~20:日常生活(散歩・買い物・出勤時)
SPF:10~30:屋外での軽いスポーツ
SPF:30~50:炎天下でのスポーツ・リゾート地への滞在
SPF:50+:非常に紫外線の強い場所や紫外線の過敏な人
となっていますので、ワセリンを皮膚に塗ってSPF1.3となった皮膚に日焼け止め効果はほとんどないことが示唆されます。ただし、塗らないよりは、ちょっとだけ日焼けを抑える効果があるかも・・という感じです。
~紫外線A波~
A波の場合はMEDではなく、MPD(最小光毒照射量)という評価指標を用います。
紫外線A波は深く真皮層にまで達して、じわじわと肌にダメージを与えます。
紫外線A波に関しては、ワセリンを塗っていない部分のMPDは2.26J/㎠であるのに対して、ワセリンを薄く塗った部分のMPDは2.74.3 J/㎠、ワセリンを厚塗りした部分のMPDは2.95J/㎠というデータがあります。
紫外線A波に対しての指標としては、PFAと言う評価を用います。
PFA=日焼け止めの化粧料を塗布したMPD/素肌のMPD
と計算します。
厚塗りしたワセリンのPFAは
PFA=2.95/2.26=1.3
日焼け止め化粧品の使用時における適正紫外線A波に対する評価基準としては
PA ( ProtectionGrade of UVA)として
PA+:PFAとして2~4:紫外線A波に対する防止効果がある
PA++:PFAとして4~8:紫外線A波に対する防止効果がかなり
PA+++:PFAとして8~:紫外線A波に対する防止効果が非常にある
という指標があります。ワセリンのPFAは1.3ですので、紫外線A波に対してちょっとだけ日焼け止め効果があるかも・・・という評価となります。
結果
医療用医薬品や市販薬に含まれている軟膏製剤の基剤のうち、その多くを占めるワセリンのSPFは1.3、PFA1.3であるため、紫外線からの日焼けをちょぴっとだけ予防するかもしれないが、ほぼほぼ日焼け止めとしての効果はない。ただし、紫外線を浴びた皮膚に対して悪さをすることはありません。