授乳中にアルコールを飲んだ場合、赤ちゃんにはどのような影響があるのか
母親がアルコールを飲むと、アルコール成分が乳汁中に分泌されるため、「授乳中の方はアルコールの摂取を控えること」と医療機関では説明を受けます。この説明は「おっしゃる通り」です。
しかしですね、例えば、授乳中の方がお酒の席に呼ばれることがあった場合に、実際はどの程度のアルコールを飲むと、どの程度が乳汁中に分泌されて、母乳を飲んだ赤ちゃんにはどのような影響がでるのかといった具体的な報告は読んでみたいなぁと感じていたので調べてみました。
注意)授乳中の方はアルコールを控えること。アルコールを分解する能力には個人差があり、以下のデータはその標準値でしかありません。
母乳育児に対するアルコールの影響
お母さんの体が母乳を作るためには、脳内にある「プロラクチン」「オキシトシン」という2つのホルモンが、その分泌をコントロールしています。プロラクチンというホルモンが「母乳を作る」刺激となるホルモンであり、オキシトシンというホルモンは乳房を取り囲んでいる平滑筋という筋肉を収縮させて、乳房にたまっている母乳を分泌(排泄)させるはたらきがあります。
そのため、授乳婦に対するアルコールの影響を調べる場合は、プロラクチン・オキシトシンへのアルコールの影響を見てみると理解が深まる気がします。
アルコールを飲むと、脳内のオキシトシンの分泌量が減少することが報告されているのですが、その度合には非常に個人差があります。ある研究では瓶ビール1~2本(または日本酒1~2合)を飲んだ授乳婦の赤ちゃんがおっぱいを飲もうとしたところ、授乳婦の体内を流れるオキシトシン濃度が78%減少していたため、母乳が出るまでに時間がかかり、母乳の量も少なかったという報告があります。
アルコールを飲むと、脳内のプロラクチンレベルが上昇することが確認されており、アルコールを飲んだ授乳婦の赤ちゃんがおっぱいを飲もうとしたところ(乳房刺激)、授乳婦の体内のプロラクチンレベルが上昇することが確認されています。(なぜ、プロラクチンレベルが上昇するかについては、臨床的意義が見出されておりません)
上記のプロラクチン・オキシトシンとアルコールの関係を見た感じですと、授乳婦がアルコールを飲むと、プロラクチンがUPするため母乳はたくさんできるものの、オキシトシンが低下してしまうため、赤ちゃんがおっぱいを吸っても母乳が出にくい、出る量もすくないという結果が生じます。母親としても「おっぱいが張る」という感覚となるのかもしれません。
結果的に母親がアルコールを摂取すると、母親も赤ちゃんもツライ状態となるような仕組みになっているようにも感じられます。
母親の体内におけるアルコールの薬物動態
授乳婦20人、粉ミルクで赤ちゃんを育てている母親15人、出産未経験の女性9人(年齢・体重・身長・飲酒習慣が同程度)がアルコールを摂取したところ、授乳婦群はほかの2群と比較してアルコールの血中濃度が統計的に有意に低く、体内を流れるアルコール量(AUC)も低いというデータがあります。(最大血中濃度に到達する時間は3群とも同程度)
(なぜ授乳婦の血中アルコール濃度が上がりにくいのかは不明です)
赤ちゃんの体内におけるアルコール量
母親がアルコールを摂取したあと、血中アルコール濃度が一番高い時に、赤ちゃんが授乳をしたと仮定して、子供の血中アルコール濃度の最大量を想定すると0.005%と試算したデータがあります。飲酒運転(ほろ酔い)で捕まる場合の血中アルコール濃度は0.05%ですので、赤ちゃんのアルコール濃度はその1/10であることがわかります。そのため赤ちゃんが摂取したアルコール量はごく微量といえます。(乳児のアルコール排泄率は、母親の1/2しかありませんが、摂取したアルコール量がごく微量なので問題ありません)
授乳中に含まれるアルコールと赤ちゃんが飲む母乳の量の関係
母親がアルコールを摂取して4時間以内に赤ちゃんが母乳を飲む場合、通常量よりも20%ほど母乳量が低下します。この理由は母親がアルコールを摂取したことでミルクの味が変わったわけではなく、オキシトシンの低下により授乳量が低下したために生じると考えられています。母親がそれ以上アルコールを摂取しない条件下では、授乳量が元に戻りますので、その後、赤ちゃんはたくさんの母乳を摂取したというデータがあります。
授乳中に含まれるアルコールと赤ちゃんの睡眠との関係
いくつか報告はあるようですが、小さな変化が生じた報告としては、アルコールを含むミルクを摂取した赤ちゃんの中途覚醒の回数が増えた。子供の睡眠時間が25%ほど短くなった。などの報告をしているものがありました。ただし、赤ちゃんが母乳から摂取するアルコール量はごく微量ですので、あくまで誤差範囲の報告ととらえてもいいのかもしれません。
授乳中にアルコールを摂取した場合の乳児への影響