めまいの原因と治療薬を徹底解説!「ぐるぐる」「ふわふわ」症状別の対処法とメニエール病の正体
めまいは、突然日常を奪う辛い症状です。「天井がぐるぐる回る」「体がふわふわする」といった感覚に、不安を覚える方も多いのではないでしょうか。
めまいは決して珍しい症状ではありませんが、その原因は耳の異常から脳の病気まで多岐にわたります。また、病院で処方される薬も種類が多く、「なぜこの薬が効くのか」を理解して服用することは、治療への納得感や安心感につながります。
この記事では、めまいの種類や原因、そして治療薬の仕組みについて、専門的な知識がない方にも分かりやすく、かつ詳しく解説します。少し長くなりますが、めまいでお悩みの方や、ご家族のケアに役立てたい方は、ぜひ最後までお読みください。
1. あなたのめまいはどのタイプ? 4つの分類
① 回転性めまい(ぐるぐる)
「自分自身や天井、周囲の景色がぐるぐる回っている」と感じるタイプです。遊園地のコーヒーカップに乗った後のような感覚です。
実際には動いていないのに、動いているように感じる「疑似運動感覚」を伴います。
特徴:
多くの場合、内耳(耳の奥)や前庭神経(バランスを伝える神経)の異常が原因です。
眼球が勝手に動いてしまう「眼振(がんしん)」という症状を伴うことが多く、これが「景色が回って見える」原因です。
② 浮動性めまい(ふわふわ)
「雲の上を歩いているようにふわふわする」「体がふらふらして真っ直ぐ歩けない」という感覚です。
特徴:
バランス感覚(平衡機能)の障害で起こります。
注意が必要なサイン: 意識が遠くなる、ろれつが回らないなどの症状がある場合、脳幹や小脳、延髄といった脳の重要な部分での脳梗塞や脳出血の可能性があります。これは生命に関わる危険なめまいですので、すぐに救急車(119番)を呼ぶ必要があります。
③ 前失神(クラッとする・目の前が暗くなる)
「気が遠くなる」「目の前が真っ暗になる(眼前暗黒感)」という、失神する手前の状態です。
特徴:
脳全体の血流が一時的に低下することで起こります。
心臓の病気(急性冠症候群や心室性不整脈)が原因である場合、命に関わるリスクが高いため、速やかな救急搬送が必要です。
④ ふらつき(立ちくらみ・浮く感じ)
「立ち上がった瞬間にクラッとする」「頭がフワッと浮く感じ」がします。
特徴:
起立性調節障害(自律神経の乱れ)や、糖尿病による神経障害などが原因で、脳への血流調整がうまくいかないことによります。
国際的にはこれら4つに分類されますが、実際の診察現場では、患者さんは一言「めまいがする」と表現することがほとんどです。そのため、どのような感覚なのかを詳しく医師に伝えることが正しい診断への第一歩となります。
2. なぜめまいが起こるの? 耳と脳の仕組み
めまいを理解するために、私たちの体がどうやってバランスを保っているのか、少しだけ体の仕組みを勉強しましょう。
耳の奥にある「内耳」の役割
耳は音を聞くだけでなく、体のバランスをとる重要な器官です。耳の鼓膜のさらに奥、「内耳(ないじ)」という場所に、2つの重要なセンサーがあります。
蝸牛(かぎゅう): カタツムリのような形をしており、「聴覚(音)」を担当します。
前庭(ぜんてい): 「平衡感覚(バランス)」を担当します。ここには三半規管(さんはんきかん)と耳石器(じせきき)があります。
三半規管と耳石器のすごい働き
三半規管: 3つのリング状の管でできており、中はリンパ液で満たされています。頭が回転するとリンパ液が流れ、その動きをセンサー(クプラ)が感知します。「うなずく」「首をかしげる」「振り向く」といった回転運動を脳に伝えます。
耳石器: ゼリー状の膜の上に、炭酸カルシウムでできた小さな石(耳石)が乗っています。体が傾いたり加速したりすると、石が動いてゼリーを変形させ、そのズレを感知します。「エレベーターが昇り降りする感覚」や「車がカーブを曲がるスピード」などを感じ取ります。
バランスを保つシステム
私たちの体は、以下の3つの情報を脳で統合してバランスを保っています。
前庭感覚: 耳からの情報(回転や傾き)
視覚: 目からの情報(景色)
体性感覚: 足の裏や筋肉からの情報(地面を踏んでいる感覚)
これらが一致していれば問題ありません。しかし、例えば「目は傾いていないと言っているのに、耳のセンサーが壊れて『傾いている』と誤信号を送る」といった情報の不一致が起きると、脳が混乱(パニック)を起こします。これが「めまい」の正体です。
さらに、脳の混乱は自律神経にも飛び火し、吐き気や嘔吐といった症状を引き起こします。
3. めまいを引き起こす主な病気
めまいの原因は、大きく「耳が原因(末梢性)」と「脳が原因(中枢性)」に分けられます。
耳が原因のめまい(前庭性・末梢性)
回転性めまい(ぐるぐる)が多く、吐き気があっても、手足のしびれなどは伴わないのが特徴です。
良性発作性頭位めまい症: 最も多い原因です。耳石器から「耳石」が剥がれ落ち、三半規管の中に迷い込んでしまう病気です。寝返りなど頭を動かした瞬間に、短い時間の激しい回転性めまいが起きます。
メニエール病: 内耳のリンパ液が増えすぎて水ぶくれ(むくみ)を起こす病気です。回転性めまいと共に、難聴や耳鳴りなどの「聞こえの症状」を伴うのが特徴です。
突発性難聴: 突然片方の耳が聞こえなくなります。約3割の方に回転性めまいが伴いますが、めまい発作は一度きりで繰り返さないのが特徴です。
前庭神経炎: ウイルス感染などが原因で、平衡感覚を伝える神経に炎症が起きる病気です。激しいめまいが数日続きますが、聞こえの症状はありません。
脳が原因のめまい(前庭性・中枢性)
浮動性めまい(ふわふわ)が多く、命に関わる場合があるため注意が必要です。
脳卒中(脳梗塞・脳出血): 小脳や脳幹の障害で起こります。めまいだけでなく、ろれつが回らない、手足が動かしにくい、意識がおかしいといった症状が一緒に出たら、迷わず救急車です。
椎骨脳底動脈循環不全: 脳へ血液を送る動脈が細くなり、一時的に血流不足になる状態です。めまいは一時的ですが、脳卒中の前触れの可能性があるため、治療が必要です。
聴神経腫瘍: 聴神経にできる良性の腫瘍です。徐々に聴力が落ちたり、ふわふわするめまいが続きます。
その他のめまい
持続性知覚性姿勢誘発めまい: 最近注目されている新しい概念です。姿勢を変えたり、動く景色(スーパーの陳列棚やスマホのスクロールなど)を見たりすることでめまいが誘発され、それが3ヶ月以上続くものです。
薬剤性めまい: アスピリンなどの痛み止めや、特定の抗菌薬の副作用でめまいが起きることがあります。

4. メニエール病の正体と特徴
ここで、めまいの代表格である「メニエール病」について詳しく見てみましょう。
メニエール病は、内耳が「水ぶくれ」状態(内リンパ水腫)になることで発症します。
30代〜50代の女性に多く、性格的には「几帳面」「神経質」「負けず嫌い」「完全主義」の方がなりやすいと言われています。ストレス、過労、睡眠不足、気圧の変化などが引き金となって発作が起きます。
症状の特徴
突然の回転性めまいが、10分〜数時間続きます。
めまいと共に、難聴、耳鳴り、耳が詰まった感じ(耳閉感)が現れます。
「一点を見つめる(固視)」ことで、めまいが少し楽になるのが特徴です(脳のめまいでは楽になりません)。
進行するとどうなる?
初期は発作の時だけ聞こえが悪くなり、発作が治まると聴力も戻ります。しかし、繰り返すうちに聴力が戻らなくなり、耳鳴りが固定化してしまいます。
恐ろしいことに、最初は片耳だけだったのが、約20%の患者さんで両耳に症状が出るようになります。片耳から両耳への移行は、平均して約6年かかると報告されています。早期の治療と生活改善が非常に重要です。
5. めまいに効く薬の完全解説
ここからは、病院で処方される「めまいの薬」について、その仕組み(薬理作用)を分かりやすく解説します。
① 急性期(今まさにめまいが辛い時)の治療薬
めまい発作の最中は、まず吐き気や強烈な不快感を抑えることが優先されます。
7%炭酸水素ナトリウム注射液(メイロンなど):
エビデンス(科学的根拠)は完全に確立されていませんが、日本で古くから使われている「めまい止めの点滴」です。
作用の仕組み: 血液中の炭酸ガス濃度を高めることで血管を広げ、内耳の血流を良くしたり、耳石の感度を下げたりして、めまいや吐き気を改善すると考えられています。動揺病(乗り物酔い)にも使われます。制吐薬(吐き気止め):
めまいによる吐き気は、脳の嘔吐中枢などが刺激されて起こります。抗ヒスタミン薬の注射: ヒスタミンという物質の働きをブロックし、内耳からの異常な信号が嘔吐中枢に伝わるのを遮断します。
ドパミン拮抗薬(メトクロプラミド、ドンペリドン): 胃腸の動きを良くし、脳の吐き気スイッチ(CTZ)をブロックして嘔吐を抑えます。
② 再発予防・慢性期(調子を整える)の治療薬
発作が治まった後は、再発を防ぎ、内耳の機能を回復させるための薬を使います。
イソソルビド(内用液・ゼリー)
役割:内耳の水ぶくれを解消する「水抜き」薬
メニエール病の第一選択薬です。
作用の仕組み:
この薬は「浸透圧」という力を利用します。浸透圧とは、濃い液体のほうへ水分が移動する性質のことです。血液中の浸透圧を高めることで、内耳に溜まった余分な水分(リンパ液)を血管の中へ引き戻し、内耳のむくみ(水ぶくれ)を解消します。
飲み方のコツ:
以前は独特の苦味と酸味があるシロップしかなく、飲みにくい薬の代表でした。冷水で2倍に薄めたり、ジュースやコーラに混ぜると飲みやすくなります(混ぜたらすぐに飲みましょう)。
最近では、苦味を抑えたゼリータイプも登場しています。効果はシロップと同じですので、飲みにくい場合は医師に相談してください。
注意点: 尿の量を増やす作用があるため、脱水気味の方や、前立腺肥大などで尿が出にくい方は注意が必要です。
ベタヒスチンメシル酸塩(メリスロンなど)
役割:内耳の血流を増やす
作用の仕組み:
ヒスタミンに似た構造を持ちますが、アレルギーを起こすわけではありません。内耳の血管にある受容体を刺激して血管を広げ、血流を増加させます。これにより、内耳のむくみを改善し、平衡機能を整えます。
ガイドラインでは、36mg/日という十分な量を服用すること、また漫然と長期投与するのではなく、3ヶ月程度の短期集中での使用が推奨されています。
注意点: 胃酸の分泌を増やすことがあるため、胃潰瘍(消化性潰瘍)がある方や、気管支喘息の方は発作を誘発する可能性があるため注意が必要です。
ジフェニドール塩酸塩(セファドールなど)
役割:血管の収縮を解除し、神経の興奮を鎮める
作用の仕組み:
血管の筋肉には、カルシウムイオンが入り込むことで収縮するスイッチがあります。この薬は、そのスイッチ(電位依存性カルシウムチャネル)が開くのを防ぐと同時に、血管を収縮させる神経(交感神経)の命令をブロックします。
簡単に言えば、「血管が縮こまるのをダブルブロックして、血流を良くする」薬です。
また、めまいによる左右の神経バランスの乱れを整える作用もあります。
注意点: 腎機能が重度に低下している方や、緑内障、前立腺肥大のある方は使用できません。
アデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP製剤)
役割:細胞にエネルギーを与え、血流を良くする
作用の仕組み:
ATPは体のエネルギー通貨とも呼ばれます。この薬には血管を広げる作用があり、内耳への血流量を増やします。血流が増えることで、弱った内耳の細胞に酸素や栄養がたっぷり届き、代謝が活発になって機能回復を助けます。
ベタヒスチンとの比較試験でも、めまいや聞こえの改善効果が認められています。
カリジノゲナーゼ
役割:血管を広げる物質を作り出す
作用の仕組み:
体内で「ブラジキニン」という強力な血管拡張物質を作り出す酵素の薬です。ブラジキニンが血管に作用することで、内耳の血管が広がり、血流や代謝が改善されます。
頭痛や頭重感、耳鳴りといった随伴症状にも効果が期待できます。
注意点: 降圧薬(ACE阻害薬)を飲んでいる方は、血圧が下がりすぎることがあるため併用に注意が必要です。
ビタミンB12(メコバラミン)
役割:傷ついた神経の修復
内耳の神経がダメージを受けている場合、その修復を助けるために使われます。
漢方薬
体質や症状に合わせて、以下の漢方薬がよく使われます。
真武湯(しんぶとう): 体を温め、余分な水分を排出します。冷え性でめまいがある方に。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう): 水分の巡りを良くし、立ちくらみやふらつきに効果的です。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう): 胃腸が弱く、頭痛や冷えを伴うめまいに使われます。
6. 薬だけじゃない! 生活習慣でめまいを治す
特にメニエール病など内耳の病気は、ストレスや生活習慣と密接に関係しています。薬の効果を最大限に引き出すために、以下のことに気をつけましょう。
① ストレスコントロールと性格の見直し
「頑張りすぎない」ことが最大の治療です。几帳面な性格の方は、少しだけ「いい加減(良い加減)」になることを目指しましょう。趣味の時間を持つなど、ストレス発散を心がけてください。
② 有酸素運動を取り入れる
「めまいがあるのに運動?」と思われるかもしれませんが、実は有酸素運動にはめまい発作を抑え、難聴を改善する効果があるという報告があります。無理のない範囲で、散歩やジョギングなどを習慣にしましょう。
③ 食事と嗜好品
減塩: 塩分を摂りすぎると体(内耳)に水分が溜まりやすくなり、メニエール病の悪化につながります。薄味を心がけましょう。
禁煙・節酒: タバコ(ニコチン)、アルコール、カフェインは血管を収縮させ、内耳への血流を悪くします。できるだけ控えることをお勧めします。ただし、適度なお酒やコーヒーがストレス解消になる場合は、医師と相談して適量を楽しんでください。
④ 睡眠と気象チェック
良質な睡眠は神経の回復に不可欠です。また、台風や雨の日など、気圧が変化する時にめまいが起きやすい方は、天気予報をチェックして「明日は気圧が下がるから無理しないでおこう」と心構えをするだけでも違います。
7. もしも激しいめまいが起きたら
突然、激しいめまいと吐き気に襲われた時の対処法です。
まずは安静に: 転倒しないよう、すぐにしゃがむか横になります。
顔を横に向ける: 吐いてしまった物が気管に入らないようにします。
悪い方の耳を上にする: これが重要です。悪い方(耳鳴りや閉塞感がある方)を下にすると、重力の影響で症状がひどくなることがあります。必ず悪い方の耳を天井に向けて(上にして)寝転んでください。
おわりに
めまいは、「体が悲鳴を上げているサイン」かもしれません。
「たかがめまい」と放置せず、自分のめまいがどのタイプなのか、何が原因なのかを専門の医師(耳鼻咽喉科など)に相談することが大切です。
また、処方された薬の役割を正しく理解し、生活習慣を見直すことで、辛い症状をコントロールできる可能性は十分にあります。
この記事が、あなたのめまいの悩みを少しでも軽くする助けになれば幸いです。もし、「いつもと違う」「言葉が出にくい」などの異変を感じたら、迷わず救急車を呼ぶ勇気も持っておいてくださいね。

