アルコールに強い人が糖尿病になりやすり理由(2021/6/14)
日本人はアルコールに強いひとが糖尿病になりやすいというデータがあります。日本人の場合、アルコールを肝臓で分解する酵素の量には個人差があり、2人に1人の割合でアルコールに強いタイプの遺伝子(rs671G/G)を保有しているといわれています。
日本人において、肥満ではなくても2型糖尿病になりやすい人が一定割合存在し、これは遺伝的素因が関係しているとが関係しているといわれています。
今回、日本人を対象として、アルコールに強い遺伝子を持つ群(ADH2 rs671G/G)53名と、そのたの遺伝子群(41名)について、アルコールと糖尿病に関する研究が報告されました。
結果
アルコールに強い群(平均年齢:42.2歳)
BMI(kg/㎡)23.7
アルコール摂取量/日:18.4g(ビール370ml程度)
空腹時血糖値(mg/dl):97.5+7.9
グルコースクリアランス:0.84±0.08
肝インスリン感受性(%):61.7±20.5
その他の群(平均年齢41.7歳)
BMI(kg/㎡)23.3
アルコール摂取量/日:12.1g(ビール240ml程度)
空腹時血糖値(mg/dl):97.5+7.9
グルコースクリアランス:0.84±0.08
肝インスリン感受性(%):61.7±20.5
考察
アルコールに強い群は1日に接種するアルコール量が比較群とくらべて1.5倍と多いが、体脂肪量、肝脂肪量、肝機能などのデータに関しては、グループ間で差がない。
空腹時血糖値に関しては、アルコールに強い群で有意に高いことが示されており、アルコールに強い群では、太ってはいないものの飲酒量・空腹時血糖値が高いことが示されました。
アルコールに強い群では、肝インスリン感受性が低いことが確認されました。肝インスリン感受性が低下すると、肝臓から糖が放出されて血糖値をUPさせる作用があります。このはたらきにより空腹時血糖値が高くなったことが示唆されます。
注意)アルコールに強い遺伝子を保有している人でも、1日の飲酒量が30g未満であれば、空腹時血糖値が低く、肝臓におけるインスリン抵抗性も良好でることが報告されています。
以上の結果から、アルコールに強い遺伝子を持つ日本男性では、飲酒量が多いことにより、肝臓におけるインスリンの効き目が低いことから、肝臓において糖を放出してしまい、血糖値が上昇することが示されました。
アルコールに強い人は、「酔っぱらいにくい」ため「酔っぱらうためにアルコールをたくさん飲む」ことになります。その結果、アルコール摂取量がUPして、肝インスリン感受性が低下して血糖値があがってしまうわけです。
昔から言われている通り、休肝日を設けるなり、一日の摂取量を決めるなり、アルコールとは上手に付き合っていくことが求められるなぁと感じました。
アルコールを飲むと太る理由/満腹中枢セロトニン2C受容体(5HT2C受容体)との関係について(2018/5/16)
「〇〇というお薬を飲むと太ることがある」というテーマでいくつか調べてみたところ、ジプレキサ・セロクエル・プレドニンといった薬について食欲が増える理由の一つに共通するポイントがあることがわかりました。脳内の“満腹中枢”へのかかわりが大きいセロトニン2C受容体(5HT2C受容体)に対して、上記の薬剤はセロトニンをくっつきにくくするという特徴があります。
5HT2C受容体へセロトニンがくっつくと「おなかいっぱい」と感じますので、セロトニンがくっつきにくくなると「おなかいっぱいではない」と感じることになります(いわゆる遮断薬としての作用です)。ジプレキサやセロクエルではさらにそれが助長し、逆作動薬という働きをすることが確認されています。逆作動薬とは「セロトニンが受容体にくっついておなかいっぱい」とは逆の作用のことを意味しますので「おなかすいた」という状況を作り出す可能性が示唆されています。
「〇〇を飲むと太る」を調べている中で、「アルコールを飲むと食欲が増えることがあるなぁ」と思ったもので、今回はアルコールとセロトニン5HT2C受容体の関係について調べてみました。
以下はヒトではなくマウスについてのデータですのでどのように解釈するかはそれぞれなのですが、マウスを密封ゲージに入れて気化したエタノール蒸気を1日4時間20日間連続で吸引させることで慢性的にアルコールを暴露させた後に、自由にアルコールを飲める状況内にマウスを入れると、アルコール暴露したマウスのアルコール摂取量が増加することが報告されています。いわゆるアルコール中毒がアルコールをたくさん飲むという状況です。このマウスの脳内をしらべたところセロトニン5HT2C受容体の発現量が増加していることが確認されています。
脳内の5HT2C受容体が増えることと、食欲が増えるかどうかに関する報告を探したのですが、5HT2C受容体の過剰発現マウスに関する具体的な報告を探すことはできませんでした。その前段階の報告なのですが、アルコールを飲むと5HT2C受容体mRNAの編集頻度が増加してすることで5HT2受容体が増えることが確認されています。アルコールを飲んでもmRNAの編集頻度が増えないような遺伝子のマウス(INIマウス)ではアルコールを飲んでも食事の摂取量や飲水量、体重増加に変化がないことが示されています。逆にアルコールを飲むことでmRNA編集頻度が多いマウスでは食事の摂取量が増えるものの、体重の増加が遅いという報告がなされています。ここまで調べた私のイメージですが、慢性的にアルコールを飲むと5HT2受容体の編集頻度が増して5HT2受容体の発現量が増え、食事の摂取量が増すのかなぁという印象をもちました。
5HT2C受容体を持っていないマウスでは肥満・過食となることが報告されており、5HT2C受容体に変異(正常に機能しない状態)があるマウスでも過食が報告されています。アルコールを慢性的に摂取した時のように5HT2C受容体が過剰発現した時の脳内モデルについては今後とも定期的に調べてみたいと考えております。