おじさん薬剤師の日記

調剤薬局で勤務するおじさんです。お薬のはたらきを患者様へお伝えします

パーキンソン病治療薬

エフピーOD錠からアジレクトへ切り替える際に14日間の間隔をあける理由

投稿日:2019年7月28日 更新日:

エフピーOD錠からアジレクトへ切り替える際に14日間の間隔をあける理由

 

パーキンソン病治療薬”アジレクト“の販売開始から1年が経過し、外来での長期処方が可能となったことをうけて、これまでエフピーOD錠を飲んでいた方の処方がアジレクト錠へ切り替わるケースを多く見かけます。

 

アジレクト錠の添付文書情には「エフピーOD錠からアジレクト錠へ切り替えを行う際は、エフピーOD錠の投与を中止してからアジレクト錠を開始するまでに少なくとも14日間の間隔を置くこと」と記されています。

 

アジレクト錠:選択的MAO-B阻害剤

エフピーOD錠:選択的MAO-B阻害剤

 

両剤はどちらも同じ受容体(モノアミン酸化酵素B)をターゲットとする薬剤ですので、エフピーOD錠を中止後すぐにアジレクト錠を飲んでも良さそうな気もしますが、14日間の休薬期間が必要ということです。今回は、なぜ休薬期間が必要なのか、休薬せずにエフピーOD錠からアジレクト錠を連続服用すると何が起きるのかを調べてみました。

エフピーからアジレクトへの切り替えに14日間の休薬期間を要する理由

 

エフピーOD錠もアジレクト錠もどちらも非可逆的にMAO-Bを阻害することが理由となります。“非可逆的“とは一度くっついたら取れないという意味です。

tab6

tab6

例えば7月1日にエフピーOD錠を飲んだ場合、エフピーOD錠は、MAO-B(グリア細胞膜上に存在する)に、ずーっとくっつき続けてMAO-Bの働きを阻害し続けるということです。いつまで作用するかというと、次のMAO-Bが作られるまでです。MAO-Bが作られるサイクルは2週間に1度程度ですので、7月1日に飲んだエフピーOD錠は7月15日にMAO-Bが壊れるまで作用し続けるということになります。

7月1日にエフピーOD錠を飲んだ方、7月2日にアジレクト錠を飲んでしまった場合、体内ではエフピーOD錠とアジレクト錠によるMAO-Bの取り合いが始まります。エフピーOD錠もアジレクト錠も本来であれば、MAO-Bに非常に選択性の高い医薬品なのですが、体内で同時に存在した場合、MAO-Bとくっつくことができなかった成分が、MAO-AとくっついてMAO-Aを阻害してしまうことになります。

 

MAO-Aとはノルアドレナリンやセロトニンを分解する酵素です。体の中で行き場を失ったエフピーODやアジレクトがMAO-Aとくっついて、MAO-Aの働きを阻害してしまうと、体内のノルアドレナリンやセロトニン量が増えてしまいます。脳内のノルアドレナリンが急増すると高血圧性緊急症(高血圧クリーゼ)といって血圧が著しく上昇することで脳・心臓・腎臓などに急性の臓器障害が起こる可能性があります。またセロトニン量が急増するとセロトニン症候群といって体温上昇・過度の発汗・心拍数増加・振戦・不随意運動などが生じる可能性があります。

 

いずれにしても、本来MAO-Bを阻害するための薬が、MAO-Aを阻害してしまうと、生命に危険を伴う副作用が生じかねない状況となります。

 

海外での臨床例として、アジレクト錠を3~100mgの投与を行った際に、軽躁・高血圧クリーゼ・セロトニン症候群などの有害事象が報告されています。原因はアジレクト錠を増量しすぎたためにMAO-BだけでなくMAO-Aまでも阻害してしまったために脳内のノルアドレナリン・セロトニンが増えすぎて生じた副作用と考えられます。

パーキンソン病治療薬ハルロピテープ(ロピニロール)について

以上のことから、エフピーOD錠からアジレクト錠へ切り替えを行う際は、MAO-B阻害作用に加えて、MAO-Aまでも阻害してしまう恐れがあるため十分な休薬期間(MAO-Bがリフレッシュする期間として14日間)を設けて薬の切り替えを行う必要があるということがわかりました。

-パーキンソン病治療薬
-14日間, アジレクト, エフピーOD錠, 休薬期間, MAO-A阻害作用, MAO-B阻害剤

執筆者:ojiyaku


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事

Parkinson

採血によりパーキンソン病の原因タンパク「αシヌクレイン」を検出可能に(2023/6/3)

採血によりパーキンソン病の原因タンパク「αシヌクレイン」を検出可能に(2023/6/3) 順天堂大学大学院神経学の研究者によりパーキンソン病やレビー小体型認知症、多系統萎縮症の原因物質の一つと考えられ …

薬局にて「食べ物の味がわからない」(味覚異常)の訴えがあった場合

薬局にて「食べ物の味がわからない」(味覚異常)の訴えがあった場合 taste-disorders 60歳代~70歳以降の方で「食べ物の味がわからない」(味覚異常)といったお話を薬局でされる患者様がおり …

tyuusya

iPS細胞を用いたパーキンソン病の治験が米国で開始(2023/12/27)

iPS細胞を用いたパーキンソン病の治験が米国で開始(2023/12/27) 住友ファーマはiPS細胞を用いてドパミン神経前駆細胞を製造し、米国でパーキンソン病の治験を開始したことを同ホームページに公開 …

tab7

米国FDAがノウリアストを承認

米国FDAがノウリアストを承認   2019年8月27日、米国FDAはウェアリングオフ現象が生じているパーキンソン病患者に対してレボドパ/カルビドパ製剤と併用する追加治療としてノウリアスト錠 …

mao-b

添付文書にはMAO阻害薬禁忌ではなくMAO-B阻害薬禁忌と書いてほしい

添付文書にはMAO阻害薬禁忌ではなくMAO-B阻害薬禁忌と書いてほしい   2022年6月にメジコン錠の添付文書が改訂され、禁忌の欄から「MAO阻害剤」の記述が削除されて、併用注意の欄に「選 …

  google adsense




2023年12月発売予定のGEリスト(エクセルファイル)

2023年12月発売予定のGEリスト(エクセルファイル)

2023年4月薬価改定 新旧薬価差比較データ(エクセルファイル)

2022年4月薬価改定。新旧薬価差比較データ(エクセルファイル)

おじさん薬剤師の働き方

how-to-work

薬剤師の育成について

how-to-bring-upo

日医工・沢井・東和・日本ジェネリック・日本ケミファ・アメルの出荷調整リスト

日医工・沢井・東和・日本ジェネリック・日本ケミファ・アメルの出荷調整リスト




how-to-work