小児の重症急性肝炎に関する入院症例数24件(厚生労働省5/20)
厚生労働省は小児の重症急性肝炎に関する情報を更新しました。
2021年10月~2022年5月19日までに16歳以下の小児のうち、A型~E型肝炎ウイルスの関与が否定された「重症急性肝炎」の症例数について
入院症例報告数:24件(既に退院した者も含む)
新型コロナPCR検査陽性:2件
アデノウイルスPCR検査陽性:2件
アデノウイルス陽性例に関しては、英国等で報告されている「アデノウイルス41型」ではなく、アデノウイルス1型および2型と報告されています。
2022年5月20日「小児の原因不明の急性肝炎について」厚生労働省
小児の重症急性肝炎に関する厚生労働省の研究報告(2022/5/13)
世界各地で報告されている小児急性肝炎について、厚生労働省は研究成果を報告しました。
厚生労働省の見解としては「オミクロン株の小児急性肝炎への関与が示唆される」というものでした。
以下の図をご覧ください
縦軸に2021年12月1日から2022年4月27日までの期間における、オミクロン株の累積感染者数をとり、横軸は「小児急性肝炎」を検出しているか?していないか?を示しています。
2022年4月27日時点において、日本は「検出なし(undetected)に含まれています。
上記の図が示していることは、39か国中12か国(30.8%)で小児肝炎の報告があり(左側:detected)、それらの国のオミクロン株の累積患者数が多いのに対して、小児肝炎の報告例がない残りの27か国ではオミクロン株への累積感染者数が少ないということを示しています。
ただし、上記のデータは小児の限定データではなく、人口全体のオミクロン株累積患者数であることことが、情報収集の限界点としています。
新型コロナウイルス感染症と小児急性肝炎との因果関係の立証にはさらなる研究が不可欠であるが、オミクロン株の感染が小児の重症肝炎の発生過程に関与している可能性は否めないとしてます。
対策としては、社会的距離の確保や屋内でのマスク着用が対策になりうる。予防対策が低下した国(マスク着用しなくてよいイギリスなど)では新型コロナ感染だけでなく、アデノウイルスの流行も起こりやすくなる
日本におけるマスク着用にかんしては「今の段階ではマスクの着用を緩和するということは現実的ではないと政府としては考えている(2022/5/12)」
一方で、屋外で人との距離が十分取れている場合には「マスクの着用は必ずしも必要ではない」「特に気温や湿度が高い時には熱中症のリスクが高くなるうことから、マスクをはずすことを推奨している」としています。
小児の重症急性肝炎に関する専門家の知見
世界的に生後1カ月~16歳までの小児で重症急性肝炎が報告されています。
2022年4月21日時点で169名の報告があがっており、そのうち17例が肝移植を要していいます。死亡例は1例です。
日本国内の報告では2022年5月6日時点で7例が報告されています。7例に関して厚生労働省は容体を開示しておりません。(ただし、肝移植を行ったという国内報告はありません)
原因は明らかとされていませんが、2022年4月29日時点における専門家の知見を以下に記します。
重症急性肝炎を発症した小児の多くは、発症の数週間前に腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状がみられるものの、発熱や過去の病歴は見られない。
小児重症急性肝炎のWHOの定義としては肝機能の指標とされるASTまたはALTの値が500IU/L以上とされています。
英国での検査では53例中40例でアデノウイルス検査が陽性が報告されました。
症例報告数は
英国:114例
スペイン:13例
イスラエル:12例
米国:9例
という症例数となっており、英国が突出しています。
英国は2022年2月末にコロナ規制を全面解除、自主隔離の義務も不要として新型コロナとの「共生」を選択した背景がある国です。
上記の背景を踏まえた上で専門家の知見を記します。
Meera Chand(英国健康安全保障局感染症部所属)
「仮説として、通常のアデノウイルスが流通している状況下で、特定の年齢層の小児に影響をあてえる要因があり、感染を重症化させている。その要因として、コロナのパンデミック時に、(消毒やマスク着用により)感染しなかったために、小児期よく見られるウイルスにかかりやすくなっていることや、新形コロナウイルスに過去に感染したことがなどが要因ではないか?」としています。
Deirdre Kelly(英国小児肝臓学教授)
「このような(小児急重症急性肝炎)の流行はこれまで見たことが無い。パンデミックに関連しているはずです。子供たちは通常の年齢で既存の小児ウイルスにさらされなかったために、初めてウイルスに感染した時に、思っている以上の深刻な肝炎を引き起こしているのではないか?また、新形コロナウイルスに感染したことが、ウイルスに対する免疫力を何らかの形で変化させ、感受性が高くなったのではないか?」
「英国で最も症例数が多いという事実が印象的である。英国はヨーロッパ諸国よりも症例把握が優れている可能性があるため何とも言えないが、新形コロナウイルスへの対応の違いが何か関係しているかもしれない。ドイツでは小児重症急性肝炎の報告例はなく(2022年4月29日時点)、ドイツでは新型コロナの規制を解除していないということが非常に興味深い」と述べています。
「これまでの経験則では、黄疸がでない限り小児科医が肝臓の病気を考えることは普通ではないため、見ていない症例がもっとたくさんあるかもしれない」とのべています。
上記の知見はあくまで予想でしかありませんが、新型コロナとの「共生」を選択した国々で小児の重症急性肝炎の報告例が突出するケースが散見されれば見逃すことはできないと感じました。