ビオフェルミン錠/散剤はビフィズス菌。ビオフェルミン配合散は乳酸菌製剤。では使い分けは?
整腸剤として使用されている「ビオフェルミン」についての不思議を深掘りしました。
ビオフェルミン錠剤・散剤の主成分は「ビフィズス菌」であるのに対して、ビオフェルミン配合散の主成分は「ラクトミン・糖化菌」という乳酸菌製剤です。
同じ「ビオフェルミン」であるにもかかわらず、主成分の善玉菌が異なる理由やその使い分けについて詳しく調べてみました。
1. 「ビオフェルミン」という名前に込められた願いと由来
まず、成分が違うのになぜどちらも「ビオフェルミン」と呼ばれるのでしょうか。その答えは、この名前の語源にあります。
製薬会社の資料によると、ビオフェルミン(BIOFERMIN)の「BIO」はバイオに通じる言葉で「生命の、生きた」を意味し、「FERMIN」は「ferment(発酵、酵素)」に由来しています。つまり、「生きた微生物(善玉菌)と宿主(ヒト)との有益な関係」を象徴するブランド名なのです。
乳酸菌もビフィズス菌も、人間のお腹の中で健康を守ってくれる「生きた善玉菌」であるという点では同じ仲間です。そのため、どちらも「ビオフェルミン」という名前を冠し、私たちの腸内環境をサポートする役割を担っています。
2. お腹のSOS:下痢の初期症状から症状進行までのメカニズム
私たちが整腸剤を必要とする代表的なシーンが「下痢」です。下痢は単に便が柔らかくなる現象ではなく、腸内細菌のバランスが崩れた結果として起こる病態です。
下痢の初期症状と自覚症状
下痢の始まりには、以下のような自覚症状が現れることが多いです。
-
腹鳴(ふくめい): お腹がゴロゴロと鳴る。これは腸の動き(ぜん動運動)が過剰になっているサインです。
-
腹部膨満感: 腸内にガスが溜まり、お腹が張ったように感じます。
-
鈍痛: 差し込むような痛みや、重苦しい痛みを感じ始めます。
症状の進行
初期症状を放置したり、原因物質(細菌や刺激物)が排除されなかったりすると、症状はさらに進行します。
-
軟便: 便の水分量が増え、形が崩れ始めます。
-
泥状便・水様便: 腸粘膜から水分が過剰に分泌され、あるいは吸収が追いつかなくなり、シャーシャーとした水の状態になります。
-
悪循環の形成: 悪玉菌が増殖して毒素(インドールやスカトールなど)を出し、それが腸を刺激してさらに下痢を悪化させます。
このような状態の時、私たちの腸内では善玉菌が激減し、悪玉菌が優勢になっています。ここで「乳酸菌製剤」や「ビフィズス菌製剤」を服用し、外部から強力な善玉菌を補給することには極めて大きな意義があります。
3. 小腸は「酸素がある」から乳酸菌のステージ
胃に近い「小腸」は、食事と一緒に飲み込んだ空気や、血液から供給される酸素がわずかに含まれている環境です。
ここで活躍するのが「乳酸菌」です。
乳酸菌は専門用語で「通性嫌気性菌(つうせいけんきせいきん)」と呼ばれます。これは、「酸素があってもなくても生きていける」というタフな性質を持っていることを意味します。
酸素が微量に存在する小腸は、多くの菌にとっては住みにくい場所ですが、酸素に強い乳酸菌にとっては絶好の生息場所。小腸でしっかりと乳酸を作り出し、悪い菌の増殖を抑えてくれています。
4. 大腸は「酸素がない」からビフィズス菌の楽園
小腸を通り抜けて、さらに奥にある「大腸」へ行くと、環境は一変します。大腸はほとんど酸素が届かない、いわば「酸欠状態」の世界です。
この過酷な無酸素環境をこよなく愛するのが「ビフィズス菌」です。
ビフィズス菌は「偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)」といい、「酸素があると死んでしまう」ほど酸素が苦手な性質を持っています。
そのため、酸素がまったくない大腸の奥深くこそが、彼らにとって最も心地よい「楽園」なのです。実際に、ヒトの腸内に住む善玉菌の実に99%以上がビフィズス菌であり、そのほとんどが大腸に集中しています。
5. 「酸素のバリア」が生む見事な住み分け
このように、私たちの体の中では、酸素の濃度に応じて見事な住み分けが行われています。
小腸(酸素あり): 酸素に強い乳酸菌がガード
-
大腸(酸素なし): 酸素が苦手なビフィズス菌が圧倒的多数で定着
乳酸菌が小腸を整えることで、大腸へとつながる環境をサポートし、最終的にビフィズス菌が大腸で大きな勢力を保つ。この連携プレーこそが、私たちの健康な腸内環境(腸内フローラ)を作っているのです。
6. 乳酸菌の専門家:ラクトミン(ビオフェルミン配合散)の正体
ビオフェルミン配合散は、乳酸菌と糖化菌を組み合わせたラクトミン製剤です。
開発の経緯と差別化の意義
この薬のルーツは非常に古く、ノーベル生理学・医学賞を受賞したメチニコフ博士の「老化防止説」にまで遡ります。博士は「人間の老衰の原因は、腸内細菌が出す毒素による慢性中毒である」と考え、それを防ぐために乳酸菌と糖化菌の組み合わせを創案しました。
1918年に販売が開始されたこの処方は、単なる乳酸菌の補給にとどまらず、「菌を増やすためのサポート体制」を整えている点が最大の特徴です。
薬理作用:小腸を主戦場とする「タッグチーム」
ラクトミン(ビオフェルミン配合散)には、2つの菌が配合されています。
-
ラクトミン(Lactomin / Streptococcus faecalis):
主に小腸から大腸にかけて生息します。腸内で増殖して「乳酸」を産生します。乳酸が腸内を酸性に傾けることで、アルカリ性を好む悪玉菌の増殖を抑えます。 -
糖化菌(Amylolytic Bacillus / Bacillus subtilis):
ラクトミンの働きを助ける「名脇役」です。ラクトミンの増殖を促進させる物質を作り出し、乳酸菌のパワーを何倍にも引き上げます。
臨床データに見る有意性
インタビューフォームに記載された試験成績では、その効果が数値で裏付けられています。
-
腐敗産物の抑制: ラットを用いた試験において、ラクトミンの単独連続投与により、糞便中の腐敗産物である「インドール」の量が低下する傾向が確認されました。
-
善玉菌の増加: 健康な乳幼児に投与したところ、10日間の服用で腸内の菌が増加傾向に転じることが確認されています。
-
大腸菌の抑制: 下痢症の子供に投与した際、病気の原因となることが多い「大腸菌」が減少し、代わりに善玉菌である「腸球菌」が増加。それに伴い、便のpH(酸性度)が顕著に低下(酸性に変化)し、腸内環境が正常化しました。
7. ビフィズス菌の専門家:ビフィズス菌(ビオフェルミン錠剤・散剤)
次に紹介するのは、現代の整腸剤の主流とも言えるビフィズス菌製剤(ビオフェルミン錠剤 / ビオフェルミン散剤)です。
開発の経緯:利便性と「乳糖フリー」へのこだわり
かつてのビフィズス菌製剤は散剤(粉薬)が中心でした。しかし、大人の患者さんにとって服用しやすいこと、また調剤する薬剤師の取り扱いが簡便であることを目指し、2003年に「錠剤」タイプが承認されました。
さらに、2018年には「乳糖不耐症」の患者さんでも安心して服用できるよう、添加物から乳糖を除いた「乳糖フリー」の処方へと進化を遂げました。これは、既存の治療薬が抱えていた「下痢の人が乳糖を摂るとさらにお腹を下す可能性がある」という矛盾を解決する大きな差別化ポイントです。
薬理作用:酸素を嫌う大腸の「絶対王者」
ビフィズス菌(Bifidobacterium bifidum G9-1)の主戦場は、酸素がほとんどない「大腸」です。
-
乳酸と酢酸の産生:
ビフィズス菌は乳酸だけでなく、非常に強い殺菌力を持つ「酢酸(お酢の成分)」を産生します。 -
酪酸産生菌との共生:
近年の研究で、ビフィズス菌は腸内の「酪酸産生菌」と助け合っていることが分かりました。酪酸は腸のエネルギー源となり、腸のバリア機能を高める重要な物質です。
臨床データに見る圧倒的な有意性
ビフィズス菌(ビオフェルミン錠剤・散剤)の臨床データは非常に詳細です。
-
病原性細菌への対抗(C.ディフィシル菌):
抗生物質の使用などで増殖し、ひどい下痢を引き起こす「C.ディフィシル菌」との共培養試験において、ビフィズス菌が存在すると、C.ディフィシル菌の数がlog 8.4から3.0へと劇的に減少しました。また、周囲のpHも5.6から4.8へ低下し、有害菌が住めない環境を作ることが証明されました。 -
下痢モデルでの検証:
ラットを用いた下痢モデル試験では、未治療群の偏性嫌気性菌(主要な善玉菌グループ)の占有率が56.7%であったのに対し、ビフィズス菌投与群では84.1%にまで上昇しました。 -
便の水分量正常化:
下痢状態のラットにおいて、ビフィズス菌の投与により便の含水率が有意に改善(低下)し、しっかりとした便に戻る効果が確認されています。
なぜ両方飲む価値があるのか?
「どちらか一方で良いのでは?」と思うかもしれません。しかし、私たちの腸は「小腸(約6〜7メートル)」と「大腸(約1.5メートル)」で構成されており、それぞれ環境が異なります。
-
小腸: わずかに酸素があり、消化吸収を行う場所。
-
大腸: 酸素がなく、水分を吸収し便を作る場所。
乳酸菌(ラクトミン)は主に小腸の環境を整え、ビフィズス菌は大腸の環境を整えます。つまり、症状に合わせて、あるいは医師の判断で両方を組み合わせることは、「腸全体のフルカバー」を意味するのです。
6. 効果が発現する時間と持続時間について
整腸剤は鎮痛剤のような「即効性」を期待する薬ではありませんが、データ上は以下のような傾向があります。
-
効果発現時間:
服用後、菌は数時間で現場(小腸や大腸)に到達します。臨床データでは、乳幼児の試験で10日間、病原性細菌の試験で24〜48時間といったスパンで顕著な変化が観察されています。自覚症状としては、早い人で数日以内に「お腹の張りが減った」「便の形が安定してきた」と感じることが多いです。 -
持続時間:
これらの善玉菌は、残念ながらずっと腸に住み着くわけではありません。多くは「通過菌」として数日から1週間程度で便とともに排泄されます。そのため、腸内環境が安定するまでは、毎日継続して服用し、善玉菌の「援軍」を送り続けることが重要です。

7. 使用上の注意と副作用について
ビオフェルミンは非常に安全性が高い薬として知られていますが、副作用がゼロではありません。
-
副作用:
成分自体はもともと腸内にいる菌ですので、重篤な副作用は極めて稀です。しかし、体質や体調により、ごく稀に「腹痛、膨満感、下痢、発疹」などが報告されています。これらは、腸内環境が急激に変化することに体が驚いて起こるケースもあります。 -
アレルギーへの注意:
ビオフェルミン配合散(乳酸菌製剤)には添加物に「乳糖水和物」が含まれています。牛乳を飲むとお腹を下すタイプの人(乳糖不耐症)は、医師に相談してください。一方で、ビオフェルミン錠剤・散剤(ビフィズス菌製剤)は乳糖フリーですので、こうした方でも安心して服用いただけます。 -
飲み合わせ:
アミノフィリンやイソニアジドといった特定の薬と混ぜると、着色(変色)することがあります。効果に大きな影響がない場合が多いですが、見た目が変わるため、調剤時に注意が必要です。
8. まとめ
「ビオフェルミン」という一つのブランドの中には、メチニコフ博士の情熱を受け継ぐラクトミン(ビオフェルミン配合散)と、現代の科学で大腸の健康を突き詰めたビフィズス菌(ビオフェルミン錠剤・散剤)という、2つの強力な守護神が存在します。
下痢や腹痛は、体からの「腸内細菌のバランスが崩れたよ!」というメッセージです。
-
小腸から大腸まで広くケアし、善玉菌の増殖をサポートしたい時は乳酸菌(ラクトミン)。
-
大腸に直接アプローチし、有害な菌を強い酢酸の力で抑え込みたい時はビフィズス菌。
それぞれの臨床データが示す通り、適切な菌を補給することで、腸内の善玉菌占有率は56.7%から84.1%へと大きく改善し、有害菌は10万分の1以下にまで抑え込まれる力を持っています。
お腹の調子が悪い時は、ぜひこの記事を思い出し、自分の今の症状にはどちらの「専門家」が必要なのかを医師と相談してみてください。あなたの腸内環境を整える「生きた援軍」は、今日もビオフェルミンという名前の箱の中で、出番を待っています。
