降圧剤は一生飲まなきゃダメ?減塩と運動で血圧を120台へ下げる期間と薬の真実
「一度降圧剤を飲み始めたら、一生やめられない」――。
診察室で多くの患者様が口にされる、最も不安な言葉の一つです。しかし、これは半分正解で、半分は間違いです。確かに、何も対策をしなければ血圧は加齢とともに上がり続け、薬は手放せなくなります。しかし、日本人の高血圧の最大の原因である「塩分の摂りすぎ」を見直し、適切な運動と生活習慣の改善(自助努力)を行えば、血圧を正常域まで下げ、薬を減量、あるいは卒業することは十分に可能です。
では、具体的に「どれくらいの期間、どれほどの努力」をすれば、血圧は「120台」という理想的な数値まで下がるのでしょうか。今回は、臨床データに基づいた具体的な数値と、薬の仕組み、そして自助努力による改善までの過程を詳しく解説します。
1. なぜ「サイレントキラー」と呼ばれるのか?高血圧の初期症状と進行の恐怖
高血圧の最も恐ろしい点は、自覚症状がほとんどないまま進行することです。多くの人が「どこも痛くないから大丈夫」と過信してしまいますが、その裏では血管が悲鳴を上げています。
初期症状の正体
血圧が140/90mmHgを超え始めた初期段階では、以下のような「なんとなくの不調」が現れることがあります。
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朝起きた時の後頭部の重だるさ
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軽いめまいや耳鳴り
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肩こりや首の張り
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動悸や息切れ
これらは「疲れのせい」で片付けられがちですが、実は血管が高い圧力に耐えようとしているサインです。
放置した先の「病状の進行」
血圧が高い状態が続くと、血管壁は厚く、硬くなります。これが「動脈硬化」です。硬くなった血管は柔軟性を失い、ある日突然、破裂したり詰まったりします。
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脳への影響: 脳出血、脳梗塞。
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心臓への影響: 心筋梗塞、心不全、狭心症。
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腎臓への影響: 腎不全(最悪の場合、人工透析が必要になります)。
これらの合併症は、発症してからでは「元の生活」に戻るのが困難です。だからこそ、症状がないうちに「120台」を目指すことに大きな意義があるのです。
2. 「減塩」の科学:どれくらいの期間で血圧は下がるのか?
日本人の平均的な食塩摂取量は、男性で約10.9g、女性で約9.3gと言われています(令和元年国民健康・栄養調査)。これに対し、高血圧学会が推奨する目標値は「1日6g未満」です。
減塩による血圧低下の具体的数値
臨床データによれば、食塩摂取量を1日1g減らすだけで、収縮期血圧(上の血圧)は約1.1mmHg、拡張期血圧(下の血圧)は約0.6mmHg低下するとされています。
もし、現在の摂取量が12gの人が目標の6gまで減塩(マイナス6g)を達成した場合、理論上は「上の血圧が約6.6mmHg以上」下がることになります。さらに、野菜や果物に多く含まれる「カリウム」を積極的に摂取するDASH食(高血圧改善食)を組み合わせることで、10%〜15%の血圧低下が見込めるという報告もあります。
血圧が120台に下がるまでの「期間」
ここが最も気になる点でしょう。結論から言えば、徹底した減塩を開始してから血圧に変化が現れるのは、「早ければ2週間、明確な効果として安定するのは1ヶ月から3ヶ月」です。
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1〜2週間後: 体内の過剰な水分(塩分によって蓄えられていた水分)が排出され始め、むくみが取れるとともに血圧が数mmHg下がります。
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1ヶ月後: 血管の緊張が和らぎ、血圧の変動幅が小さくなってきます。
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3ヶ月後: 身体が低塩分状態に慣れ、味覚も変化します。この頃には、140台だった血圧が120台後半まで落ち着くケースが多く見られます。
3. 運動療法の相乗効果:自助努力でどこまで下げられるか
食事療法に加えて欠かせないのが運動療法です。運動は血管を広げる物質(一酸化窒素など)の分泌を促し、血管をしなやかにします。
運動による改善データ
中強度(ややきついと感じる程度)の有酸素運動を毎日30分、あるいは週に計180分以上行うことで、収縮期血圧で平均2〜5mmHg、拡張期血圧で1〜4mmHgの低下が期待できます。
「減塩(-7mmHg)」+「運動(-5mmHg)」+「適正体重の維持(1kg減量で-1mmHg)」を組み合わせれば、合計で15mmHg程度の低下は十分に可能です。145mmHgだった血圧が、薬なしで130mmHg前後まで下がる計算になります。
4. 降圧剤の正体を知る:薬理作用と進化の歴史
自助努力で血圧を下げる過程でも、一時的に薬の助けが必要な場合があります。現代の降圧剤は、単に血圧を下げるだけでなく、臓器を保護する役割も持っています。
主な降圧剤の種類とメカニズム
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カルシウム拮抗薬(例:アムロジピン)
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薬理作用: 血管の壁にある平滑筋という筋肉にカルシウムが入るのをブロックし、血管を強力に広げます。
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特徴: 降圧効果が確実で、日本で最も処方されています。
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ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)(例:オルメサルタン、テルミサルタン)
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薬理作用: 血管を収縮させるホルモン(アンジオテンシンII)の働きをブロックします。
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特徴: 血管だけでなく、心臓や腎臓を保護する効果が高いのが特徴です。
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利尿薬
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薬理作用: 腎臓から塩分と水分の排出を促し、血液のボリューム(総量)を減らします。
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特徴: 塩分摂取量が多い日本人に非常に効果的です。
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効果の発動時間と持続時間
現代の主要な降圧剤(アムロジピンやARB)の多くは、効き目が長いという血圧を管理する上で非常に良い特徴があります。
昔の薬は数時間しか効きませんでしたが、現在の主流薬は24時間以上効果が持続するように設計されています。これにより、1日1回の服用で、最も危険な「早朝の高血圧」を防ぐことが可能になりました。
開発の経緯と意義
かつての降圧剤は、副作用として動悸や立ちくらみが強く、患者様の生活の質(QOL)を下げることがありました。しかし、研究が進むにつれ、「ただ下げればいい」のではなく「いかに自然に、かつ臓器を守りながら下げるか」という点に主眼が置かれるようになりました。
現在の薬は、数千人規模の臨床試験を経て、「心血管疾患の発症率を約20%〜30%低下させる」というエビデンス(科学的根拠)を持っています。これは、単なる「数値の改善」ではなく「寿命を延ばす」という明確な意義を持っています。

5. 薬を減らす・やめるための具体的ステップとデータ
「一生飲まなければならない」という懸念に対し、希望となるデータがあります。
減塩が薬を減らす鍵
ある臨床研究では、降圧剤を服用中の患者様が1日3gの減塩に成功した場合、約20%〜40%の人が薬を1種類減らすことができた、あるいは服用を中止しても血圧が維持できたという結果が出ています。
また、塩分摂取量が多いまま薬を飲んでも、薬の効果は半減してしまいます。例えば、利尿薬を服用している人が塩分を摂りすぎると、薬が排出したはずの塩分を食事から補給してしまい、いたちごっこになってしまいます。
減薬のプロセス
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家庭血圧の測定: 毎日朝晩の血圧を記録します。
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自助努力の継続: 3ヶ月以上の減塩と運動を行います。
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医師との相談: 家庭血圧が安定して120台になったら、医師の判断で薬の量を半分にする、または種類を減らします。
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経過観察: 減量しても血圧が上昇しなければ、さらに減らし、最終的には卒業を目指します。
※自己判断で薬を中断すること(急なリバウンド血圧を招き、脳出血のリスクを高める)は絶対に行わないでください。
6. まとめ:120台への道のりは、あなたの「一口(ひとくち)」から始まる
高血圧は、これまでの生活習慣の積み重ねが形になったものです。しかし、それは裏を返せば、「これからの習慣次第で変えられる」ということでもあります。
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減塩の努力: 1ヶ月で味覚が変わり、3ヶ月で血圧が変わります。
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運動の努力: 血管をしなやかにし、薬に頼らない体質を作ります。
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薬の役割: 血管を守る「補助輪」として賢く利用し、自助努力が進めば外すことができます。
「一生飲み続ける」という不安を、「健康な体を取り戻すためのチャンス」に変換しましょう。今日から始める減塩(例えば、お味噌汁を1日1杯にする、漬物を控えるなど)が、数ヶ月後のあなたを「血圧120台」という安心の世界へ導いてくれるはずです。
医学の進歩とあなたの努力が合わさった時、高血圧はもはや克服不可能な敵ではありません。まずは3ヶ月、自身の身体の変化を楽しみに、一歩踏み出してみませんか。
