インフルエンザと異常行動に関して患者様へお伝えする
厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会においてインフルエンザ様疾患罹患時に見られる異常行動と服用薬剤との関連についてNDB(National Data Base)における処方数を分母とする発症率について検討が行われました。
検証期間:2009/2010シーズンから2015/2016シーズンまでの7年間
(ただし2015/2016シーズンは2016年3月31日までのデータ)
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対象:5~9歳、10代を対象として、服用薬剤別、年齢別に異常行動の発症率を算出
異常行動の定義
重度:飛び降り急に走り出すなど、制止しなければ生命に影響が及ぶ可能性のある行動
最重度:重度の内、“飛び降り”、“突然走り出す”のみ
~NDBデータ解析~
・インフルエンザ罹患率と異常行動報告数
2009/2010~2015/2016までの7シーズンで39610万人の5~19歳の人がインフルエンザにかかっているというデータが開示されています。5~19歳までの人口はおよそ1700万人(2016年現在)ですので、年間で考えると約560万人(5~19歳の33%)の方がインフルエンザにかかっている計算となります。
7シーズンで報告された異常行動の人数は233人(重度の合計)ですので、インフルエンザに罹患した5~19歳の100万人中6人(17万人に1人)が異常行動を発症する確率と計算できます。
・服用薬剤と異常行動報告数
上図をどのように解釈するかは人によるのかもしれませんが、表1(服用薬剤別患者数)が多ければ、表2(異常行動報告数)が多いように私は感じます。
小児科の門前で勤務していて感じることは、5歳以下の小児ではイナビルやリレンザのような吸入薬を使用することが難しいため、タミフルドライシロップが処方されることが多く、小学生以上になるとイナビルの吸入が主流になる印象を私はもっています。実際のNDBデータでも5~9歳ではタミフルの処方数が多く10代ではイナビルの処方数が多いというデータとなっており、処方数に比例する形で異常行動報告数が多くなっています。
表3(服用薬剤別の100万人当たりの異常行動発症率)ではラピアクタが処方さえる方の異常行動発症率が高いように感じます(有意差あり)。病院により判断は異なるのでなんとも言えませんが、インフルエンザの重症例でラピアクタを使用するケースが多いのであれば、インフルエンザの症状とラピアクタの使用判断、異常行動との関連性について、なにかしらのデータが見えてくるのかもしれません。
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また、「5剤薬剤服用なし」での異常行動発症数が一番多いことに関しては、薬剤服用前に異常行動を発症した場合、「服用なしでの異常行動」にカウントされるためと考察で記されています。
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さらに「5剤服用なし」でのインフルエンザ罹患数が2位であることに関してはインフルエンザ発症から48時間を経過していれば抗インフルエンザ薬は処方されないためと解釈できます。
抗インフルエンザ薬が処方された割合:71.7%
アセトアミノフェンのみが処方された割合:16.4%
5薬剤服用なしの割合:11.9%
というデータとなっていますので、インフルエンザ罹患者の約9割の方には抗インフルエンザ治療薬またはアセトアミノフェンが処方されていることが確認できます。「5薬剤服用なし」の11.9%の方に関しては、解熱剤および抗インフルエンザ薬が不要であるため、それ以外の症状を緩和する薬(鼻水止め・咳止め・痰切り)などが処方されていたのかもしれません。
厚生労働省の研究結果
“5薬剤服用なし群“が”イナビルのみ、タミフルとアセトアミノフェン、リレンザとアセトアミノフェン“よりも異常行動発症率が有意に高い
10代において“5薬剤服用なし群”が“リレンザのみ、アセトアミノフェンのみ、イナビルとアセトアミノフェン”よりも異常行動発症率が有意に高い
異常行動を発症したために病院を受診したのか、それとも5薬剤服用していなかったために異常行動を発症したのか、このあたりが分かりにくい感じがしました。
厚生労働省は考察の中で、今後の調査では服用の有無に加えて、異常行動発症前でのインフルエンザとしての受診の有無、受診した際の抗インフルエンザウイルス薬及びアセトアミノフェン処方の有無を調査項目に追加することを検討したいとまとめています。
調剤薬局でインフルエンザ治療薬を患者様へお渡しする際に、患者様やそのご家族から「異常行動」に関するワードは度々でてきます。今回の厚生労働省のNDBデータをもとにして、インフルエンザと異常行動に関する説明文言としては
「インフルエンザウイルスにかかると5~19歳の100万人に6人の方で異常行動を発症ことが報告されました。異常行動の発現頻度ではインフルエンザの薬を使用しない方、薬を使用する前の方で異常行動の発現頻度が高いというデータとなっています。」
「〇〇の薬を飲むと異常行動の引き金となるというデータはありませんので、症状を緩和するために安静にしましょう」
上記に加えて、以下の厚生労働省が開示しているインフルエンザと異常行動への注意喚起を盛り込む感じかと思われます。
抗インフルエンザウイルス薬の種類や服用の有無によらず,インフルエンザと診断され治療が開始された後,少なくとも2日間は,保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することを原則とする旨の説明に加え,次の注意喚起の例が考えられます。
(1) 高層階の住居においては、例えば,
・玄関及び全ての窓の施錠を確実に行うこと(内鍵、補助錠がある場合はその活用を含む。),
・ベランダに面していない部屋で療養を行わせること,
・窓に格子のある部屋がある場合はその部屋で療養を行わせること,
等,小児・未成年者が容易に住居外に飛び出ない保護対策を講じることを医療関係者から患者及び保護者に説明すること
(2) 一戸建てに住んでいる場合は,例えば,(1) の内容のほか,出来る限り1階で療養を行わせること
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知(薬生安発1127第8号,平成29年11月27日付より抜粋)