イーライリリー販売の新型コロナウイルス抗体カクテル薬(バムラニビマブ、エテセビマブ)の治験データ
2021年2月に米国FDAに承認された新型コロナウイルス抗体カクテル(バムラニビマブ、エテセビマブ)薬の第三相臨床試験データが2021年7月14日に公開されましたので、概要を記します。
被験者:12歳以上で重症化リスクが高い方を対象とし、軽症~中等症の新型コロナウイルス感染者(陽性後3日以内)
平均年齢:53.8歳
治療薬:抗体カクテル(バムラニビマブ2800mg、エテセビマブ2800mg)を陽性判明後3日以内に1回静脈投与
抗体カクテル治療群:518例、プラセボ群517例として、投与から29日目までの経過を観察しています。
結果
抗体カクテル治療群:29日目までに入院or全死亡リスク:11例(2.1%)
プラセボ群:29日目までに入院or全死亡リスク:36例(7.0%)
注意)抗体カクテル治療群では死亡例の報告はありませんが、プラセボ群では10例の死亡が報告されており、そのうち9例は新型コロナウイルス関連死と判定されています。
体内の新型コロナウイルス減少量を比較したデータによると、7日目まで時点で、プラセボ群と比較して抗体カクテル治療群では16倍のウイルス減少が確認されています。
また、7日目までで体内ウイルス量が持続的に高い患者の割合は、プラセボ群で29.5%(147例)であったのに対して、抗体カクテル治療群では9.8%(50例)と有用性が確認されています。
入院期間
抗体カクテル治療群:7.3±6.4日間
プラセボ群:11.2±10.1日間
有害事象
抗体カクテル治療群:7例(1.4%)
プラセボ群:5例(1%)
おもな有害事象:悪心、発疹、めまい、下痢、高血圧
新型コロナウイルス感染症に関する国内外研究開発動向(2021年6月時点)
ジョンソン&ジョンソン製の新型コロナワクチンで神経疾患ギランバレー症候群のリスクを警告
米国食品医薬品局(FDA)は2021年7月12日に、ジョンソン&ジョンソン製の新型コロナワクチンについて、接種後の副反応として神経疾患のギランバレー症候群を発症するリスクが高まる可能性があることをワクチンの説明文に注意喚起することを公表しました。
2021年7月時点で日本国内で認可されている新型コロナワクチンは「ファイザー社」「モデルナ社」の2製品であり、この2製品はmRNA由来のワクチンです。日本では認可されていませんがでジョンソン&ジョンソンやアストラゼネカ社が製造している新型コロナワクチンは”遺伝子組み換えサルアデノウイルスベクター”という技術で作られたワクチンです。ジョンソン&ジョンソン製やアストラゼネカ製のワクチンを接種すると一定の割合で、神経疾患を発症する報告があり、日本では2021年7月時点では認可されておりません。
FDAの報告ではジョンソン&ジョンソン製の新型コロナワクチンを投与された1280万人のうち、ギランバレー症候群(神経疾患)を発症した割合は100件とされており、症状の発症はワクチン接種後2週間後に現れ、発症者のほとんどが男性で50歳以上と報告されています。
ギランバレー症候群:末梢神経が障害され、脱力感・しびれ・痛み・麻痺などの症状を呈します。原因は自己免疫性であると考えられています。
中和抗体カクテル療法(中外製薬)を国内で承認申請。中和抗体カクテルとは?
中外製薬が新型コロナウイルスに対する中和抗体カクテル療法を日本国内で承認申請を行いました。
2021年7月1日現在、日本国内ではファイザー製およびモデルナ製の新型コロナワクチンの接種が順に行われております。ワクチンというのは、ヒトの体内でコロナウイルスのトゲ部分(スパイクタンパク質)を疑似的に作らせて、疑似スパイクタンパク質に対する抗体を作るよう体に促すことを目的としています。理論上では2回のワクチン接種後3週間の時点で、体内には通常感染と比較して60倍の免疫を獲得することが可能であるとデータが開示されています。
一方で、今回、中外製薬が承認申請した中和抗体カクテル療法というのは、「スパイクタンパク質の受容体結合部分をターゲットとした2種類の抗体」をブレンドして、そのまま皮下注で投与しましょうという製剤です。
抗体をそのまま投与しますので、治験段階での投与量は1回につき1200mg(静脈内投与)または2400mg(静脈内投与)と、しっかりとした量を一度に投与します。(1番はじめの治験では1回に2.4gまたは8gが投与されていました)
では中和抗体カクテル療法は、いつ、だれに投与するかと言いますと、治験データでは「新型コロナウイルス感染者との家庭内における濃厚接触者への症候性感染予防を目的」として投与されていますので、家庭内感染を目的に使用されていました。
過去4日以内に新型コロナウイルス陽性と判定された人と同居している濃厚接触者15050例(新形コロナウイルスに感染していない)に対して中和抗体カクテルを1200mgを1回皮下注した結果、非投与群と比較して中和抗体カクテル投与群では症候性感染の発症リスクが81%減少したことが報告されています。
また、新規感染の無症候性患者204例を対象として中和抗体カクテル1200mgを1回皮下注した結果、非投与群と比較して症候性感染へ進行するリスクを31%減少したことが報告されています。
さらに、中和抗体カクテルを投与された群では症候性新形コロナウイルスに感染した場合でも平均1週間以内に症状が消失したのに対して、非投与群では症状が消失するまでに3週間がかかったことも報告されています。
中和抗体カクテルを投与された被験者の体内では、新型コロナウイルスがいたとしても、そのスパイクタンパク質に2種類の中和抗体がくっつくことで、ヒトの細胞の入り口(ACE2受容体)に対して新型コロナウイルスがくっつくことができなくなり、ヒトの細胞内にウイルスが侵入(感染)することができずに、体内でウイルスが広がらなくなる→感染が抑えられるという仕組みです。
新型コロナウイルスへの感染拡大時に、濃厚接触者を把握して、さらなる拡大を防ぐための手段として中和抗体カクテル療法が期待されます。