胃酸の逆流を防ぎ胸やけを解消!逆流性食道炎の症状と治療薬を徹底解説
逆流性食道炎とは?食道の防御の仕組み
逆流性食道炎とは、胃の中の胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜が炎症を起こしたり、「胸やけ」などの不快な症状が現れる病気です。胃酸は非常に強力な酸であるため、胃の粘膜は強力な防御機能を持っていますが、食道の粘膜は胃酸に対する抵抗力が弱いため、逆流が繰り返されると炎症を起こしてしまいます。
胃酸逆流を防ぐ食道のバリア機能
本来、食道には胃酸の逆流を強力に防ぐための仕組みが備わっています。
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下部食道括約筋の働き
胃と食道をつなぐ境目には、「下部食道括約筋」という筋肉があり、これが最も重要な逆流防止の役割を果たしています。通常、下部食道括約筋は一定の圧力(LES圧)でギュッと収縮し、胃の入り口を閉じています。しかし、食べ物を飲み込む(嚥下)時だけは緩んで食べ物を胃へ送り込み、その後すぐに再び収縮して、胃からの逆流を防いでいるのです。
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食道の蠕動運動と唾液の洗浄
万が一、下部食道括約筋を乗り越えて胃酸が逆流してしまった場合でも、食道は「蠕動(ぜんどう)運動」という波打つ動きで逆流物を胃に戻そうとします。同時に、飲み込んだ唾液が食道粘膜に残った胃酸を洗い流し、中和する役割を果たしています。
🔥 なぜ胸やけが起こるのか?
これらの防御システムがうまく働かなくなると、胃酸の逆流が頻繁に起こったり、逆流した胃酸が食道に長く留まったりして、食道粘膜が刺激され続けます。その結果、炎症が起こり、「胸やけ」や「呑酸(どんさん)」といった不快な症状が現れるのです。これが逆流性食道炎(GERD)です。
また、食道粘膜に目に見える炎症がなくても、胸やけなどの症状が現れる場合もあります。これは、食道粘膜が酸の刺激に対して特に敏感になっている、「知覚過敏」が原因と考えられています。
逆流性食道炎を引き起こす主な要因
胃酸の逆流を引き起こす要因は一つではありません。いくつかの要因が組み合わさって発症することが多いです。
1. 最大の要因:下部食道括約筋の弛緩
胃酸逆流の最大の要因は、下部食道括約筋が緩んでしまうことです。
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一過性下部食道括約筋弛緩(T-LESR)
食べ物を飲み込む動作を伴わないのに、一時的に下部食道括約筋が緩んでしまう状態です。ゲップと同じ仕組みで起こります。必ずしも胃酸の逆流を伴うわけではありませんが、逆流性食道炎の最大の原因とされています。
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低下部食道括約筋圧
下部食道括約筋が常に緩んでしまい、収縮する力が弱くなっている状態です。これは、特定の薬の副作用、加齢、あるいは後述する「食道裂孔ヘルニア」などが原因で起こります。
2. 食道裂孔ヘルニア
横隔膜を貫いている食道の通り道(食道裂孔)が緩み、胃の一部が胸のほうへはみ出してしまった状態を「食道裂孔ヘルニア」と呼びます。
ヘルニアを起こすと、下部食道括約筋圧の低下を招くだけでなく、逆流した胃の内容物が胃に戻りにくくなるため、逆流性食道炎を悪化させる大きな要因となります。肥満による腹圧の上昇や、加齢による筋力の低下などが原因とされています。
3. 胃酸分泌量の増加
胃酸分泌量が増加することも逆流を招きます。近年注目されているのが、ピロリ菌(H. pylori)の除菌後の影響です。
ピロリ菌に感染していると胃の粘膜が萎縮し、胃酸の分泌は低下する傾向にあります。しかし、治療によってピロリ菌を除菌すると、粘膜の萎縮が改善し、除菌前よりも胃酸の分泌能力が亢進することがあります。そのため、除菌後に逆流性食道炎を発症しやすくなると言われており、発症率は約10~20%と報告されています。ただし、ほとんどが軽症で、元々食道裂孔ヘルニアなどの要因を持っている人に起こりやすいため、除菌を避ける必要はないと考えられています。
4. 食道の蠕動運動・胃排出能の低下
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食道の蠕動運動の低下:食道の動きが鈍くなると、逆流した胃酸を胃に戻す力が弱くなり、食道粘膜が胃酸にさらされる時間が長くなります。
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胃排出能の低下:胃の内容物が腸へ送り出されるスピードが遅くなると、胃の中に内容物が滞留する時間が長くなり、胃酸が逆流しやすい状態を招きます。
5. 腹圧の上昇
お腹に強い圧力がかかると、胃の内圧が上昇し、下部食道括約筋が緩んでいる状態では胃酸が逆流しやすくなります。腹圧が上昇する要因には、以下のようなものがあります。
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姿勢:前かがみの姿勢
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衣類:ベルト、着物の帯、腹巻きなどで腹部を強く締め付けること
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体型・状態:妊娠、肥満、便秘
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加齢:加齢による骨粗鬆症が原因で猫背になり、腹部が圧迫される
6. 特定の薬剤や食品
特定の薬は、下部食道括約筋を緩める作用があるため、逆流性食道炎の症状を悪化させる可能性があります。特に、狭心症の治療薬であるカルシウム(Ca)拮抗薬や亜硝酸薬、喘息の治療薬であるキサンチン製剤やβ刺激薬**などは注意が必要です。
また、高脂肪食、チョコレート、香辛料の多い食品、コーヒー、炭酸飲料、アルコール、たばこなどは、胃酸分泌を増やしたり下部食道括約筋を緩めたりするため、症状を誘発することがあります。

🩺 逆流性食道炎の多様な症状
逆流性食道炎の症状は、食道に関連する定型的な症状と、それ以外の食道外症状に分けられます。
1. 定型的な症状
最も頻度が高いのは「胸やけ」と「呑酸」です。
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胸やけ:みぞおちから口のほうへ広がる、ムカムカと焼けるような感じです。食後に生じやすく、生活の質(QOL)を大きく低下させます。
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呑酸(どんさん):胃酸が逆流して、のどや口にまで上がってくる状態です。多くの患者さんが「酸っぱい水が込み上げてくる」「苦い水が込み上げてくる」と表現します。
2. 食道外症状(非定型的な症状)
逆流性食道炎は、食道以外の場所にも影響を及ぼし、様々な症状を引き起こします。
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胸痛:逆流による胸の痛みは、狭心症の症状と非常によく似ています。心臓に異常がないにもかかわらず胸痛を訴える「非心臓性胸痛」の患者さんのうち、およそ20~50%が逆流性食道炎が原因であると言われています。前かがみや就寝中など、酸逆流が起こりやすい状況で現れやすい特徴があります。
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咽喉頭症状:「のどに何か詰まった感じがする(咽喉頭違和感)」「声がかすれる(嗄声)」といった症状です。
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呼吸器症状:喘息症状や、何週間も続くしつこい咳(慢性咳嗽)などがあります。GERDに伴う喘息は、主に夜間や食後に発作が増悪するなど、酸逆流が生じやすい時間帯に発作が起こりやすい特徴があります。逆に、喘息の発作で腹圧が上がったり、喘息治療薬の副作用で下部食道括約筋圧が低下したりして、逆流性食道炎を悪化させることもあります。
逆流性食道炎の主な治療薬
逆流性食道炎の治療の基本は、胃酸の分泌を抑える薬、特にプロトンポンプ阻害薬(PPI)による治療です。
1. 酸分泌抑制薬(PPIとH2受容体拮抗薬)
A. プロトンポンプ阻害薬(PPI)
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作用メカニズム:胃酸は、胃の壁細胞にある「プロトンポンプ」というポンプから分泌されます。PPIは、このプロトンポンプの働きを強力に阻害し、胃酸の分泌を根元から抑え込むことで効果を発揮します。
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従来のPPI(オメプラゾール、ランソプラゾール、イソメプラゾールなど)は、酸によって活性化されてからプロトンポンプを阻害します。
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カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と呼ばれる新しいタイプの薬(タケキャブ)は、酸による活性化が不要で、プロトンポンプの活動に必要なカリウムイオンと競合的に結合して阻害するため、より速やかに効果が現れるとされています。
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効果:H2受容体拮抗薬に比べて酸分泌抑制作用が強力で、逆流性食道炎の症状改善率は90%以上と高い効果が報告されています。作用持続時間も長く、通常1日1回の服用で十分な効果が得られます。
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留意点:一部のエイズ治療薬(アタザナビル硫酸塩、リルピビリン塩酸塩など)と一緒に服用すると、胃内pHが上昇し薬の吸収が低下して、作用が弱まってしまうため、一緒に服用する際は注意が必要です。
B. H2受容体拮抗薬(H2RA)
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作用メカニズム:胃酸の分泌は、ヒスタミン、アセチルコリン、ガストリンという3つの物質によって促進されます。ヒスタミンは壁細胞にあるH2受容体を刺激することで胃酸分泌を促しますが、H2RAはヒスタミンがこの受容体と結合するのを競合的に邪魔することで、胃酸の分泌を抑えます。
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効果と留意点:PPIよりも酸分泌抑制作用は穏やかです。長期にわたって使用すると、薬の効き目が弱くなる(耐性)現象がみられることがあります。腎臓から排泄される薬が多いため、腎機能が低下している患者さんは、服用量や間隔の調整が必要です。
2. 消化管運動機能改善薬
下部食道括約筋の弛緩、食道の蠕動運動の低下、胃排出能の低下といった、消化管の動きの異常が原因となっている場合に、症状改善のために追加されることがあります。
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作用メカニズム:消化管の動きはアセチルコリンという物質によって促進されます。この薬は、アセチルコリンの遊離を促したり、アセチルコリンの働きを邪魔するドパミンを抑えたりすることで、消化管の動きを活発にし、胃酸が逆流しにくい状態を作ったり、逆流物を胃に戻す力をサポートしたりします。
3. 粘膜抵抗強化薬
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作用メカニズム:逆流によって傷ついた食道粘膜の表面を覆い、胃酸などの刺激から粘膜を保護する役割を果たします。
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主な薬:アルギン酸ナトリウムなど。アルギン酸ナトリウムは、胃酸の逆流そのものを有意に抑制することが証明されており、自覚症状の改善効果が認められています。
4. 🌿 漢方薬
酸分泌抑制薬だけでは症状が十分に改善しないプロトンポンプ阻害薬(PPI)抵抗性GERDなどの場合に、六君子湯(りっくんしとう)や半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などが用いられることがあります。
漢方薬の多くに含まれるカンゾウ(甘草)は、体内で副腎皮質ホルモンに似た作用を持つため、血圧上昇やむくみ(偽アルドステロン症)などの副作用に注意が必要です。
長期管理と生活習慣の改善
逆流性食道炎は再発・再燃を繰り返すことが多いため、長期的な管理が重要です。
長期治療の選択肢
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維持療法:症状が改善した後も、再発を防ぐためにPPIの継続的な服用が推奨されています。特に重度のびらんがある方(食道粘膜に強い傷がある方)に積極的に行われます。
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オンデマンド療法:症状が消えた後、胸やけなどの症状が再発した時だけ薬を飲み、症状がなくなったら服用を終了する治療法です。軽症の場合や、非びらん性の逆流性食道炎(NERD)の場合に選択されます。
まとめ
逆流性食道炎は、単なる胸やけだけでなく、胸痛や喘息のような症状、のどの違和感など、多岐にわたる不快な症状を引き起こし、日常生活の質を大きく低下させる病気です。
その最大の原因は、胃の入り口を締めている下部食道括約筋の弛緩や、食道裂孔ヘルニア、腹圧の上昇などです。
治療は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による強力な胃酸分泌抑制が基本となりますが、最も大切なのは、食生活や生活習慣の改善です。特に、食後すぐに横にならない、腹圧を上げない工夫をする、逆流を誘発しやすい食品を控えるなどの地道な努力が、症状の改善と再発防止につながります。
もし胸やけや呑酸などの症状でお悩みでしたら、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることを強くお勧めいたします。

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