成長する子どもと向き合う!喘息症状や薬のはたらきから小児喘息を理解します

 成長する子どもと向き合う!喘息症状や薬のはたらきから小児喘息を理解します

小児喘息とは?

小児喘息は、お子さんの慢性疾患の中で最も頻度が高いものの一つです。子どもの頃に発症し、その多くは思春期までに症状が落ち着く(寛解する)とされていますが、中には成人まで持ち越すケースや、一度寛解しても大人になってから再び発症することも少なくありません。

そのため、小児喘息は、お子さんの現在の生活だけでなく、大人になってからの生活にも大きな影響を与える可能性があり、病気について正しく理解し、適切に対応することが非常に大切です。

喘息の病態:体内で何が起こっているのか?

喘息のメカニズム:気道の慢性的な炎症

喘息とは、「気道の慢性的な炎症」が特徴であり、この炎症のために気道が非常に過敏な状態になっています。そして、発作的に起こる気道の狭窄(空気の通り道が狭くなること)によって、咳(せき)、息を吐く時の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)、そして呼吸困難を繰り返す病気です。

喘息の患者さんの気道では、常に軽い炎症が起きています。そこに、アレルゲン(アレルギーの原因物質)やウイルス、タバコの煙などの様々な誘発・悪化因子が作用すると、気道がさらに狭くなり、喘息発作が引き起こされます。

発作は通常、自然に、あるいは治療によって改善・消失しますが、繰り返し起こることが特徴で、ごくまれに命にかかわることもあります。だからこそ、発作を起こさないように予防することが非常に重要になります。

炎症に関わる細胞と物質

気道の炎症には、好酸球やリンパ球、マスト細胞などの炎症を引き起こす細胞や、それらの細胞から放出される様々な「炎症性メディエーター」や「サイトカイン」といった化学物質が関わっています。

特に重要なのは、特定のアレルゲンによって活性化された免疫細胞を介して作られる「免疫グロブリンE(IgE)抗体」が関与する炎症です。これはアレルギー反応の主役です。

しかし、近年では、アレルゲンを介さずに、病原体や大気汚染、タバコの煙などの刺激によって活性化される別のタイプの免疫細胞が関与する炎症も存在することが明らかになっており、これらの反応が相互に作用し合って気道の炎症が起きていると考えられています。

発作と気道のリモデリング

炎症によって放出されたサイトカインやメディエーターの働きで、以下の3つの変化が起こり、気道が塞がり、呼吸困難を伴う喘息発作が生じます。

  1. 気道平滑筋の収縮:気管支を取り囲む筋肉が縮む。

  2. 気道粘膜の浮腫:気道の粘膜がむくんで腫れる。

  3. 気道粘液の分泌亢進:痰などの粘液がたくさん出る。

発作が治まっても、気道の慢性的な炎症は続きます。炎症が長く続くと、気道の粘膜細胞が壊れたり剥がれたりすることで、知覚神経が露出し、気道はさらに過敏な状態になります。この「気道過敏性」が高まると、わずかな刺激でもすぐに発作を起こしやすくなり、発作が起きるたびに炎症も悪化してしまいます。

さらに、慢性的な炎症によって傷ついた気道では、平滑筋や基底膜(気道の土台となる部分)が厚くなり、元に戻りにくい状態になります。これを「気道のリモデリング」といい、過敏性が一層高まって発作が起こりやすくなり、病気が治りにくくなる原因の一つとなります。

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小児喘息の分類と特徴

アトピー型と非アトピー型

喘息の病型は、血液検査で特異的なIgE抗体が検出される「アトピー型」と、検出されない「非アトピー型」に大きく分けられます。

  • アトピー型:小児喘息の70~90%を占めるとされ、小児期に多く見られます。主な原因(アレルゲン)は、ダニ、ペットの毛、カビなどのハウスダストです。

  • 非アトピー型:年齢とともに割合が増加します。アスピリンなどの薬剤や、運動、気象の変化、大気汚染などが誘因となることがあります。

アトピー型では、アレルゲンに触れると数分後から気道が狭くなり、咳や喘鳴、呼吸困難などの急な悪化が現れます(即時型反応)。また、いったん症状が治まった3~8時間後に再び症状が出る「遅発型反応」にも注意が必要です。

男女差と乳幼児期の特徴

小児期の喘息の罹患率は、女児よりも男児に多く見られます。これは、一般的に男児の方が気道が狭い、気管支の筋肉の緊張度が高い、IgE値が高いなどの影響から、刺激に反応して気流の制限(空気の流れが妨げられること)が強く現れやすいためと考えられています。思春期にかけて男女差は解消されていきますが、成人では女性が多くなる傾向があります。

喘息の典型的な症状

喘息の典型的な症状は、反復して起こる発作的な喘鳴、咳、そして息を吐く時間が長くなる(呼気延長)を伴う呼吸困難です。

これらの症状には、以下のような特徴があります。

  • 誘発されやすい状況:運動や大笑いした時。

  • 発症しやすい時間帯:夜間や早朝。

  • 長引きやすい状況:かぜをひいた後。

喘鳴は、主に息を吐く時(呼気時)に見られ、「息を吸うより吐く時の方が苦しい」と感じますが、症状がひどくなると息を吸う時(吸気時)にも見られることがあります。

乳幼児喘息:特別な対応が必要な理由

小児喘息は、約80~90%が6歳までに発症します。そのため、発症早期である乳幼児期から適切な診断と治療・管理を行うことが、良好な予後(病気の経過・見通し)を確立するために極めて重要です。

ガイドラインでは、5歳以下を「乳幼児喘息」と定義し、6歳以上とは異なる薬物療法の基準が示されています。

乳幼児は、年長児に比べて身体の構造上、呼吸困難になりやすいという特殊性があります。例えば、気道の内径が狭い、気管支の平滑筋が少ない、粘液分泌が多いといった特徴があり、気道狭窄が強く現れやすく、症状の進行も速いのが特徴です。

乳幼児喘息の病態は多様で、成長につれて病型が変化することもあります。

  • IgE関連喘息(アレルゲン誘発性喘息):両親のどちらかに喘息がある、患児にアトピー性皮膚炎がある、特異的なIgE抗体がある場合など。その多くは学童期以降もアトピー型喘息として続きます。

  • 非IgE関連喘息(ウイルス誘発性喘息など):学童期までにアトピー型喘息に変化することがあるため、特異的なアレルゲンへの注意が必要です。

小児喘息の長期管理と薬物療法

喘息の治療の目標は、発作を起こさないように予防し、健常者と同じような生活を送れるようにすることです。そのため、症状の重症度に応じて、発作を予防するための「長期管理薬」を継続的に使用する「長期管理」が治療の中心となります。

長期管理薬の種類と作用

長期管理薬には主に「抗炎症薬」と「気管支拡張薬」があり、これらを組み合わせて使用します。

1. ステロイド薬(吸入ステロイド薬:ICS)

ステロイド薬は、現在の喘息治療において最も効果的な抗炎症薬です。

    • 作用:気道の炎症細胞の浸潤を抑える、血管の透過性を抑えて浮腫を軽減する、粘液の分泌を抑える、気道の過敏性を抑える、炎症を引き起こすサイトカインの産生を抑えるなど、強力な抗炎症作用で喘息の根本原因に作用します。

    • 使用方法:長期管理の中心は、薬を直接気道に届ける「吸入ステロイド薬(ICS)」です。吸入ステロイド薬は、全身に吸収される量がごくわずかなため、内服薬や注射薬に比べて全身的な副作用(成長障害、満月様顔貌など)のリスクが非常に低く、長期間安心して使用できます。

  • 主な注意点:吸入ステロイド薬の局所的な副作用として、口の中や喉のカンジダ症(カビの感染症)、声がかすれる(嗄声)、咳や喉の痛みなどが起こることがあります。これを防ぐため、吸入後は必ずうがいをするよう指導します。うがいが難しい乳幼児には、水を飲ませたり、吸入前に口を湿らせたり、マスク型の器具を使った後は顔についた薬を拭き取ったりすることが効果的です。

2. 気管支拡張薬

気管支拡張薬は、発作時の症状を緩和するために使われる薬と、長期管理薬と組み合わせて使用される薬があります。

a. ベータ2刺激薬(長時間作用性:LABA、短時間作用性:SABA)

気管支の平滑筋にあるβ2受容体を刺激することで、気管支を拡張させる作用があります。

  • 短時間作用性ベータ2刺激薬(SABA):速やかに気管支を拡張するため、急性増悪時(発作時)に頓用で用いられます。しかし、気道の炎症を改善する作用はないため、使い過ぎるとかえって症状が悪化することがあるため注意が必要です。

  • 長時間作用性ベータ2刺激薬(LABA)12時間以上効果が持続し、気道狭窄を改善します。貼付薬や経口薬は、炎症改善作用がないことや小児での長期安全性が未確立であることから、短期的な追加治療として使用されます。サルメテロールなどの吸入薬は、吸入ステロイド薬単独でコントロールが不十分な場合に、吸入ステロイド薬と併用して長期管理に用いられます。

b. キサンチン誘導体(テオフィリン徐放製剤)

β2受容体の刺激によって増加したcAMP(気管支拡張に関わる物質)を分解する酵素の働きを邪魔することで、cAMP濃度を高く保ち、気管支を拡張させます。

  • 作用:気管支拡張作用はβ2刺激薬ほどではありませんが、線毛運動の促進や抗炎症作用などもあり、吸入ステロイド薬と併用することで異なる作用機序からの相乗効果が期待されます。

  • 主な注意点:有効な血中濃度と中毒を起こす血中濃度の範囲が狭く、また、代謝速度に個人差が大きいため、血中濃度を適切にモニタリングしながら投与することが重要です。副作用として、悪心・嘔吐が多く、重篤な副作用として痙攣や意識障害などがあります。特に5歳以下では痙攣がみられやすいことから、ガイドラインでは6歳以上での使用が推奨されています。

c. 抗コリン薬(短時間作用性:SAMA)

気管支平滑筋のM3受容体への刺激をブロックすることで、気管支の収縮を抑えます。気道分泌液が多い時の喘息に効果があるとされています。

3. ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)

アレルギー反応で放出される炎症性メディエーターの一つである「ロイコトリエン」の働きをブロックする薬です。

  • 作用:抗アレルギー作用のほか、気管支拡張作用気道炎症の抑制作用もあり、長期管理の基本治療や追加治療に、単独または吸入ステロイド薬との併用で広く用いられます。運動誘発喘息の抑制にも効果があります。

4. ステロイド薬とベータ2刺激薬の配合吸入薬

症状が悪化している場合には、吸入ステロイド薬と長時間作用性ベータ2刺激薬を一つの吸入器に入れた配合吸入薬が使用できます(5歳以上に適用)。

  • 利点:ステロイド薬とβ2刺激薬は、相互に作用を強め合うことが分かっています。また、吸入回数が減ることで、患者さんが指示通りに薬を使い続ける(アドヒアランス)向上にもつながります。

まとめ

小児喘息は、長期間にわたる適切な管理が欠かせない慢性疾患です。その中心となるのは、気道の慢性的な炎症を抑える吸入ステロイド薬であり、これにより発作を予防し、気道のリモデリングの進行を防ぐことができます。

喘息は、正しい知識と適切な治療によって、お子さんが健やかな生活を送り、大人になってもその影響を最小限に抑えることが十分可能な病気です。お子さんの成長と病状の変化に合わせて、最も適した治療を継続していくことが大切です。

 

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