薬と一緒に多めのお水を飲む必要がある薬とその理由
薬を多めのお水で飲むことで尿量が増やす薬の真意について
「尿の量が増える薬」と聞くと、多くの人は高血圧や心不全、むくみの治療に使われる「利尿剤」を思い浮かべるでしょう。また、最近では糖尿病や心不全、腎不全の治療に革命をもたらしたSGLT2阻害剤や、心不全治療薬であるエンレスト(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)、あるいはバソプレシン受容体拮抗薬であるサムスカ(トルバプタン)などが、尿量を増やす薬として広く知られるようになりました。
しかし、医療現場で処方される薬の中には、これらの「尿を出すことを主な目的とした薬」以外にも、あえて尿量を増やすために意識的な水分摂取が必要になる薬が数多く存在します。
患者さんの中には、「なぜ先生は『水をたくさん飲んでください』と言うのか?」と疑問に思う方も少なくありません。実は、そこには腎臓を守るための重要な理由や、薬の成分を効率よく排泄するためのメカニズムが隠されています。
本記事では、水分摂取が必須となる医薬品について、その理由と臨床データに基づいた背景を詳しく解説します。
注意)心臓や腎臓の機能が著しく低下している方、1日の水分制限指示が出ている方は以下の内容が該当しませんのでご留意ください
1. 尿酸排泄促進薬:尿管結石を防ぐための「攻めの水分摂取」
痛風や高尿酸血症の治療に使われる「尿酸排泄促進薬」は、尿量が増える代表的な薬剤の一つです。ただし、この薬自体に直接的な利尿作用があるわけではありません。
該当する主な医薬品
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ベンズブロマロン(ユリノーム)
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ドチヌラド(ユリス)
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プロベネシド(ベネミッド)
なぜ尿量が増えるのか
これらの薬は、腎臓の近位尿細管という場所で、一度尿の中に捨てられた尿酸が再び血液中に戻る(再吸収される)のをブロックします。その結果、尿の中に大量の尿酸が排泄されるようになります。
ここで問題となるのが「尿酸の溶けにくさ」です。尿酸は酸性の液体に溶けにくいという性質を持っています。尿中の尿酸濃度が高くなりすぎると、尿の中で尿酸が結晶化し、砂利のような「尿管結石」を作ってしまいます。これを防ぐためには、尿を薄めること、つまり「尿の量を物理的に増やすこと」が不可欠なのです。
水分摂取を心がける理由と臨床データ
尿酸排泄促進薬を服用する際、医師から「1日2リットルを目安に水分を摂ってください」と指導されるのは、尿酸結石を予防するためです。
臨床試験のデータによれば、高尿酸血症の患者において、尿酸排泄促進薬のみを使用した群と、水分摂取および尿アルカリ化薬(ウラリットなど)を併用した群を比較すると、結石の発生リスクに顕著な差が出ることが報告されています。例えば、ベンズブロマロン(ユリノーム)の服用により、血清尿酸値は平均で約30〜50%低下しますが、その分、尿中に排出される尿酸の総量は激増します。
尿量が増えるのは、薬の効果ではなく「石を作らないための生活指導」の結果ですが、患者さんにとっては「この薬を飲むとトイレが近くなる(水分を摂るから)」という実感に繋がります。
2. 造影剤:腎臓へのダメージを最小限に抑えるための「洗い流し」
CT検査や血管造影検査で使用される「造影剤」も、投与後に尿量が劇的に増える原因となります。
該当する主な医薬品
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イオパミドール(イオパミロン)
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イオヘキソール(オムニパーク)
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イオプロミド(イオパミロン)
なぜ尿量が増えるのか
造影剤の多くは「浸透圧」が高い液体です。血液中に注入された造影剤が腎臓に運ばれると、その高い浸透圧によって、体内の水分を尿の中に引き込みます。これを「浸透圧利尿」と呼びます。そのため、検査後には自然と尿意が強くなり、尿量が増加します。
水分摂取を心がける理由と臨床データ
造影剤を使用する際、最も警戒すべきは「造影剤腎症(CIN)」という副作用です。これは造影剤が腎臓の血管を収縮させたり、尿細管の細胞を直接傷つけたりすることで起こる急性腎不全の一種です。
臨床データでは、造影剤腎症の発症率は一般的には1〜2%程度とされていますが、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)を抱えるハイリスク患者では、適切な処置を行わない場合、その発症率が20%以上に跳ね上がることが示されています。
このリスクを低減する最も有効な方法が「補液(点滴)」または「経口での十分な水分摂取」です。尿量を増やすことで造影剤を素早く希釈し、腎臓に留まる時間を短縮させます。検査前後にしっかりと水を飲むことは、まさに腎臓を守るための「防御策」なのです。

3. リチウム製剤:脳の薬が腎臓に与える意外な影響
躁うつ病(双極性障害)の治療に欠かせない「リチウム」も、尿量に大きな変化を与える薬として知られています。
該当する主な医薬品
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炭酸リチウム(リーマス、リチウム)
なぜ尿量が増えるのか
リチウムを長期間服用していると、腎臓の「尿を濃縮する能力」が低下することがあります。これを「腎性尿崩症」と呼びます。通常、人間の体は抗利尿ホルモン(ADH)の働きによって、尿細管で水分を回収し、尿を濃縮しています。しかし、リチウムはこのADHの働きを邪魔してしまうため、尿が薄いまま大量に排出されるようになります。
水分摂取を心がける理由と臨床データ
リチウム服用者の約10〜40%に、多尿(1日3リットル以上の尿)や多飲が見られるというデータがあります。尿量が増えること自体も困りものですが、より深刻なのは「脱水によるリチウム中毒」です。
リチウムは血液中の濃度(血中濃度)が一定を超えると、手の震え、吐き気、意識障害などの強い毒性を発揮します。脱水状態になると血液が濃縮され、リチウムの血中濃度が急上昇してしまいます。
そのため、患者さんには「喉が渇く前に水分を摂る」「下痢や発熱時には特に注意する」という指導がなされます。尿量が増えているからといって水分を控えるのは、命に関わるリチウム中毒を招く危険な行為なのです。
4. 抗悪性腫瘍薬(プラチナ製剤):腎毒性を防ぐ「ハイドレーション」
ガンの化学療法で使用される「シスプラチン」などのプラチナ製剤は、強力な抗ガン作用を持つ反面、腎臓への毒性が非常に強いことが知られています。
該当する主な医薬品
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シスプラチン(ランダ、ブリプラチン)
なぜ尿量が増えるのか
シスプラチン自体に利尿作用はありませんが、治療のパッケージとして「ハイドレーション」と呼ばれる大量の輸液(点滴)がセットになっています。1日に2〜3リットルもの点滴を行うため、結果として尿量は著しく増加します。
水分摂取を心がける理由と臨床データ
シスプラチンによる腎障害は、投与された薬剤が尿細管に高濃度で蓄積することで発生します。臨床データによれば、十分な水分補給(ハイドレーション)を行わなかった場合、投与を受けた患者の約25〜35%に重篤な腎機能低下が見られると報告されています。
これを防ぐためには、強制的に尿量を1時間に100〜200ml以上に保つ必要があります。点滴だけでなく、退院後も自宅で積極的に水分を摂るよう指導されるのは、体内に残った薬剤成分を速やかに「洗い流す」ためです。
5. 抗てんかん薬・片頭痛予防薬:結石予防のための水分
意外なところでは、てんかんや片頭痛の治療に使われる「トピラマート」も尿量に関係します。
該当する主な医薬品
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トピラマート(トピナ)
なぜ尿量が増えるのか
トピラマートには、微弱ながら「炭酸脱水酵素阻害作用」があります。これは古いタイプの利尿剤(アセタゾラミドなど)と同じメカニズムです。これにより尿の成分が変化し、カルシウム結石ができやすい環境になります。
水分摂取を心がける理由と臨床データ
臨床試験において、トピラマートを服用した患者の約1.5%(成人)〜正常範囲を超える頻度で腎結石が発生することが報告されています。これは一般的な発生率に比べて数倍高い数値です。
このため、医師は結石形成のリスクを減らすために、1日の尿量を増やす目的で水分摂取を推奨します。患者さんにとっては、薬の副作用というよりも「安全に薬を使い続けるためのメンテナンス」として水分が必要になります。
6. 抗菌薬(ST合剤):結晶尿による尿路閉塞を防ぐ
感染症に使われる「ST合剤」などの一部の抗菌薬でも、水分摂取が推奨されます。
該当する主な医薬品
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スルファメトキサゾール・トリメトプリム(バクタ、バクトラミン)
なぜ尿量が増えるのか
この薬に含まれるスルホンアミド系成分は、尿が酸性に傾いていたり、尿の量が少なかったりすると、尿の中で結晶化しやすいという特性があります。
水分摂取を心がける理由と臨床データ
結晶化した成分が尿細管に詰まると、血尿や腎不全を引き起こす可能性があります。特に高齢者や脱水気味の患者においてそのリスクが高まります。臨床現場では、これらの副作用を防ぐために「コップ1杯以上の多めの水で服用し、日中もこまめに水分を摂る」ことが指導されます。尿量が増えることは、薬が正しく排泄されている証拠でもあります。
7. ビスホスホネート製剤:服用方法に関連した水分摂取
骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート製剤は、尿量を直接増やすメカニズムは持ちませんが、その特殊な服用方法によって尿量に影響を与えることがあります。
該当する主な医薬品
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アレンドロン酸ナトリウム(フォサマック、ボナロン)
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リセドロン酸ナトリウム(ベネット、アクトネル)
なぜ水分摂取を心がけるのか
これらの薬は、食道に停滞すると激しい潰瘍を引き起こすため、「起床時にコップ1杯(約180ml以上)の水で服用し、その後30分〜1時間は横にならず、水以外の飲食を避ける」という厳格なルールがあります。
朝一番に多量の水を飲む習慣がつくため、午前中の尿量が増える傾向にあります。これは薬理学的な利尿作用ではなく、適切な服用手順(アドヒアランス)を守った結果として現れる現象です。
水分摂取と尿量に関する注意点:心機能への配慮
ここまで「水分を摂って尿量を増やすべき薬」を紹介してきましたが、一つ重要な注意点があります。それは、心臓や腎臓の機能が著しく低下している方の場合です。
心不全がある患者さんの場合、過剰な水分摂取は心臓に負担をかけ、肺水腫(肺に水が溜まる状態)を引き起こす恐れがあります。本記事で挙げた「水分を摂ってください」という指導は、あくまで一般的な腎機能・心機能を持つ方を対象としたものです。
もし、主治医から「1日の水分制限」を指示されている場合は、必ずそちらを優先してください。新しい薬が処方された際に「水を多めに飲むように」と言われたら、まずは「心不全で水分制限があるのですが、どうすればよいですか?」と医師に相談することが大切です。
まとめ
今回の内容をまとめます。
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尿酸排泄促進薬(ユリノーム、ユリス等):尿中に増えた尿酸が石(結石)になるのを防ぐため、水を飲んで尿を薄める必要があります。
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造影剤(オムニパーク等):高い浸透圧で一時的に尿量が増えますが、造影剤腎症を防ぐために意識的な水分補給で「洗い流す」ことが重要です。
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リチウム製剤(リーマス等):副作用で尿の濃縮力が落ち、尿が増えます。脱水になるとリチウム中毒(副作用の悪化)を招くため、こまめな補給が不可欠です。
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抗ガン剤(シスプラチン等):極めて高い腎毒性を持つため、大量の点滴と水分摂取で腎臓を守ります。
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抗てんかん薬(トピナ等):尿の性質が変わり結石ができやすくなるため、予防のために尿量を増やす必要があります。
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抗菌薬(バクタ等):尿中での結晶化を防ぎ、腎障害を回避するために水分が必要です。
「利尿剤」ではない薬であっても、私たちの体、特に腎臓を守るために「尿量を増やす(水分を摂る)」ことが必要な場面は多々あります。臨床データが示す通り、適切な水分摂取は副作用の発症率を数%から数十分の1にまで下げることができる、立派な「治療の一部」なのです。
もし、処方されたお薬の説明書に「水分を多めに摂ってください」と書かれていたら、それは単なるアドバイスではなく、薬を安全に使いこなすための重要な指示であると理解してください。毎日の「コップ1杯の水」が、あなたの腎臓を健やかに保つ大きな助けとなるでしょう。
